助けて。苦しい。笑い疲れて、酸素が
ウォッシャーの飼い主。
テレビでいつも、ウォッシャーと一緒に出てた、あの飼い主の名はオリバー。
猿は愛嬌があるのに、オリバーはいつも無表情で、超ウケる。
司会者にいつもいじられてて、でもオリバーは無表情。
それがまた可笑しくて、私たちはテレビの前でゲラゲラ笑った。
「オリバーは若いのに、もうおじいちゃんみたいだ」って。
あははは。可笑しい。
バカみたい。
初めは、ちょっとしたテレビ番組にでてくるだけだった。
でもそのうち人気に火がついて、それ以外の場所でも見かけるようになった。
たとえばゴールデンタイムのコメディ番組。レギュラーとして出演し始めた。
あとは動物園のTVコマーシャル。
動画サイトの途中で挟まる30秒広告。
ハリウッド映画にも出演したっけ。
それから、駅のアナウンス。
幼児向けの教育ビデオ。
小中学校で開かれる講演会。
世界の全ての大学の必須科目。
政治家のプロモーションにもよく出てきた。
それに携帯の待ち受け画面も、
家の壁紙も、
Tシャツの柄も、
ペットボトルの包装も、
レトルト食品のパッケージも、
小説という小説の登場人物も、
ドラマのキャストも、
ショーケースの中のマネキンも、
歩行者信号も、
流行の歌も、
アイドルも、
TVゲームも、
役所の書類の印鑑も、
紙幣も、
硬貨も、
アニメの声優も、
アイスクリームのフレーバーも、
ブランド服も、
大英博物館も、
ルーブル美術館も、
モデル雑誌も、
学術誌も、
お米も、
パンも、
水道水も、
野菜も、
果物も、
肉も、
魚も、
みーんな、ウォッシャーとオリバー。
私たちはみんな大笑い。
ゲラゲラキャッキャアハハハハウフフフエヘヘヘヘヒイヒイ
息をつく暇もないくらい、幸せ。
幸せ。
笑うと、セロトニンやエンドルフィンって物質が放出されるんだって。
私たちは幸せになったんだ。
あのコンビが現れてから、争いはなくなった。
残酷な核戦争も。
政治家同士の罵り合いも。
いじめも、虐待も。
誰も苦しまなくなった。
誰もが、笑うようになった。
これって幸せだよね?
ねえ……
誰か教えて、私、考えられない、
いきがくるしいの
くるしい
くるしい
かんがえると、くるしい
かんがえたくない!
やめて!
頭の中で鳴き声を上げないで!
痛いよ痛いよ痛いよ
痛いよ
あの猿の声を誰か止めて
いきができない
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