第2話 仕様確認
長く長く思えた午前の授業がようやく終わり、私は亜衣と共に例のスクールマッチングアプリを開いていた。
「どれどれ……うわ、なんかおすすめの異性とかって表示された。私はたぁくん以外論外だっていうのに……!」
「でも、まだみんな顔写真登録とか全然してないね」
亜衣のたぁくん愛をスルーしつつ、見たままの感想を口にする。
気にしたふうでもなく、亜衣も頷きながら適当な人のページをタップする。彼女のそんなあっさりしたところが好ましいなと思う。
「そうねー……それより、渚!」
「な、なに」
「これってチャンスじゃない?好きなんでしょ?あいつのこと」
「ちょ、ちょっと!声が大きい……!」
慌てて辺りを見渡すが、みんな昼食を食べつつスマホを凝視している。
なんだかんだアプリが気になるんだろうなぁ……なんて自分のことは棚上げして勝手に気まずくなり、そっと視線を戻す。
それより、そう。亜衣の言う通りこれはチャンスだった。
萩原渚、彼氏いない歴=年齢の高校一年生。そんな私にだって、好きな人は……いる。
奇天烈な政令に勘弁してくれと思いつつ、ほんのわずかに期待している自分がいるのも、事実だった。
「アプリ上手く使ってさ、成就させちゃおーよ!」
「そ、そんなうまくいくかな……?」
「弱気は厳禁!好きな人がこっちを向いてくれるなんて、何もしなかったらそう起きることじゃないんだから!私もあらゆる手を尽くしてたぁくんの愛をもぎ取ったし」
そ、そうだったのか……てっきり自然な流れですんなり付き合い始めたとばかり思っていた二人にも、並々ならぬ出来事があったらしい。
しかしそこまでして成就させた本人がいるなら心強い。私も及び腰になりそうな自分を叱咤した
まずは、重要ツールであるアプリの確認だ。
使いこなして、私もひっそり育てていた恋心を成就させてみせる……!
ざっと見ると、スクールマッチングアプリ――略称はスクマチというらしい――の仕様はこんな感じ。
・プロフィールには写真を数枚、自己紹介文、所属コミュニティなどが掲載される。
・趣味コミュニティ有り。コミュニティ内掲示板での交流も可能。
・コミュニティの傾向などから自分と他人の相性が割り出される。
・いいねすることが出来る。双方いいねならマッチング成立。
・任意だが退会もできる。退会した後も申請をすれば利用再開も可能。
・ひとこと程度のつぶやき機能がある。思った事やその日の出来事など内容は自由。写真も添付できる。
・相手のプロフを見るとライバルがいるか分かる。プロフィール主へいいねした異性の名前が表示される。
「……これ、最後の仕様ちょっと問題じゃない?」
「思った。恋の火花で修羅場勃発しそう」
亜衣の疑問に私も尤もだと頷く。
いいねしたのが本人にばれるのはまだしも、その他大勢に見られるなんて公開告白もいいとこだ。個人の需要の有り無しが傍目からわかってしまうのもつらい。
「まあそうやってあせらせてカップル成立に持っていきたいのかもしれないけど」
のんびり呟く亜衣を横目に、私は早速彼のプロフィールをチェックすることにした。
どうか、ライバルがいませんように……!!
「あっ」
見つけたと同時につい声が漏れたけど、気にせず詳細をチェックしていく。
まだ名前のみで写真もコミュニティも無し。ライバル……なし!やった!
それらの下にある自己紹介文は……。
『コミュニティ参加とつぶやきのみ。他は使いません』
その素っ気ない文面にしばし愕然とした。
もう一度彼のプロフィール名を確認する。
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