第20話

 険悪なムードのまま南野と別れ、それから時間が経ち、2回戦が始まろうとしていた。


 昼食に出ていた観客も戻って来て、滑り台前は、ロックフェスのように、ぎゅうぎゅう詰めとなっている。その中にいると、サウナに入っているように蒸し暑い。服にシミができてしまいそうだ。


 位置は最前列の少し後ろくらいなのだが、人が多いことには変わりない。けれど、周りには知り合いがいない。東から距離を取りたくて、一度トイレに行き、並び直したからだ。


 数多の頭が視界の下半分を占め、もう半分は、滑り台前に立つ南野が映っていた。未だ西校代表の姿は見えないが、もしかしたら来ているのかもしれない、と少し背伸びをする。


 今回の試合、しっかりと見ておかないと。


 さっきまでの会話を振り返る。


 西校代表は、負けたことがないって言っていた。もちろん、東と南野も負けている。東に至っては、得意競技、つまりはジャングルポイントで負けているということになる。


 実際に戦った時の事が思い出される。東は、狭い格子の中をスイスイと素早く掻い潜っていた。それに俺は、凄い、という感情を抱いたのをよく覚えている。


 だが、東は負けたのだ。それ以上に西校代表は凄いのだろう。


 南野も全中に出ており、高い運動能力の持ち主だ。しかし、それでも負けてしまう。一体、西校代表はどれほど強いのだろうか。もし、勝ち進んで来た時の事を考えて、弱点を見極めないと、俺には太刀打ちできない。


 胸中が不安と使命感に侵されていると、

「西校まだ来てねえって」「このままなら、不戦敗だぞ」「せっかく来たのに二戦ともバトルなしかよ」

 辺りからそんな声が聞こえた。


 そんなに時間が迫っているのだろうか。時刻を確認するために、ポケットから携帯を取り出そうとした時、背中に人がぶつかってきた。


「す、すみません! 通して……」


 その声は途中で止まった。動きも止まったように感じる。

 奇妙に思い振り返ると、そこには目を丸くした瑞樹の顔があった。

 動揺し、思わず声が出る。


「み、瑞樹!?」

「将吾!? な、なんで!?」

「瑞樹こそ……」


 そこまで言いかけて、体に電流が走ったような感覚を覚えた。それは、さらに心を揺さぶってきて鼓動を加速させる。


 瑞樹のサラッとした清楚な黒髪からは、爽やかな柑橘系の香りが鼻腔をくすぐってくる。丸アーモンドの瞳からは、シャープな目尻にクールさを、虹彩周りの丸みに可愛さを感じる。すっと綺麗な形の鼻に、小ぶりなピンクの唇は、絵に描いた美少女のようで、輝いて見える。


『黒髪ショートのそれはそれは綺麗な女の子だよ。清楚で爽やか、クールかつ可愛い。南国の海を想起させられる程、輝いて見える』


 南野は、西校代表をそう評していた。

 瑞樹の容貌にひきつけられたせいなのか、付随して得た、あまりに大きい動揺のせいなのか、瞼が勝手に大きく開く。口は、餌を貰う魚のようにパクパクと開いては閉じてを繰り返す。喉が渇ききったのか、かすれた弱々しい声が出る。


「に、西校代表なのか……?」

「うっ……」


 瑞樹は、一瞬狼狽えた。しかしすぐに、こくりと頷いた。


「そ、そういう事だから、私、行かなきゃ!」


 それだけ言い残し、人混みを掻き分けて進んで行った。しばらくすると、南野の前に現れる。


『ついに、西校代表、西篠瑞樹(さいじょうみずき)が現れた!!』


 呆然自失の状態に陥ったまま、実況の声を聞く。


 囂囂たる野次や歓声が、公園内に巻き起こった。俺一人取り残し、周囲は興奮を顕に熱狂していく。


「やっときたか、ヴィーナスの輝き」


 南野がニヤリと笑ってそう言うと、瑞樹は顔を紅潮させた。


「お願い、あまりその名前で呼ばないで」

「どうしてだ、ヴィーナスの輝き? 美しく、強い、お前にぴったりな二つ名じゃないか!」

「今日だけでいいから、本当お願い……」


 瑞樹は俺の方をちらっと見たような気がした。そんな瑞樹を見て、南野は得心がいったように「なるほど」と手を打った。


「さては、想い人が会場に来ているな?」

「な、なななな何でわかったの!?」


 瑞樹はわちゃわちゃと手を動かし、明らかに取り乱した。


『FOOOOO!!』


 会場から、囃し立てるような野次がみずきに向けて飛んで行く。そのせいで瑞樹は、縮こまってしまう。


「ははは、彼氏さんの独占欲は強いようだね。他の男が彼女に色目使ってくるのは、気分を害するからね」

「え、ちが、そういう意味じゃ……でも、そうであって欲しいかな」


 瑞樹は呆気にとられたような顔になり、否定の言葉を口にしかけたが、ボソッと続きを述べて、口をつぐんだ。


 瑞樹の姿を見て、放心状態からは立ち直る。だが、胸の内がもやつき、肩が落ちていく。


 そりゃ、そうだよな……。もう何年も経っているし、彼氏くらいいても不思議じゃない。俺だって、今も昔と同じ気持ちじゃない。だから、瑞樹と出会った時、嬉しさよりも、辛さが勝った。けれど、後悔、惜しさは迫り上がってくる。過去の想い出が蘇り、ああ変わりたくない、と小さな声が漏れた。


『遅れて来たくせに、惚気ていく! 流石、最強の西校代表だ!!』


 褒めているのか、貶しているのかわからない実況が入ると、笑いが巻き起こった。

 瑞樹はさらに赤くなり、プルプルと震える。


「早く始めて!!」


 ついに耐えきれなくなったのか、瑞樹がそう叫んだ。

 そうだ、何より対校戦だ。瑞樹がどうとか、気にしてはいけない。あそこに立っているのは最強の西校代表なんだ。弱点を見極め、何とかして乗り越えなきゃならない。


 南野に対しても同様だ。陸上で全中に出場するような身体能力を持つ相手に、策なしで乗り切ることは不可能である。


 気を引き締め直し、二人に視線を集中する。


『わかりました! それでは一回戦、南校対西校を始めます!』


 またもや盛り上がって、わっと声が湧いた。そんな騒めきが収まりきらないまま、ルールのアナウンスが流れる。


『まずは、競技を説明いたします。南校代表が選んだ今回の競技は、二つ名『F-22』の代名詞とも言えるドッグファイトです』


 競技が発表されると「やっぱりな」と言う声が周囲から漏れた。二つ名と代名詞を同時に使うのはいかなものか、と僅かに引っかかったが、鶏が先か卵が先かの思考に陥る事なく、黙って話を聞く。


『ルールは簡単、滑り台の踊り場と出口に別れ、背に触れた方の勝ちです! ただし、滑り台の半径3mから出た瞬間負けが確定します!』


 競技名と南野の二つ名に勘づいた。背中を取り合って撃墜しようとする、戦闘機のドッグファイトが由来で、それが得意な南野は、戦闘機のF22が元ネタだろう。


 瑞樹は滑り台の踊り場まで上がり、南野は滑り台の出口に陣取った。


『準備ができたようですね』


 観客たちは息を飲み、二人をしっかりと見据える。


『それでは、よーい始め!!』


 開始の合図がかかると、南野は一目散に滑り台の階段部に向けて走り出した。一方で瑞樹は、迫ってくる南野に焦るどころか、微動だにしない。


「上手い!」


 観客が賞賛して気づく。


 なるほど。迫ってくる南野に慌て、滑り台を滑ってしまえば、下に降りた所を狙われてしまう。滑っている最中と立ち上がる際には、大きな隙ができてしまうため、不用意に滑れないということか。


 現に、南野は階段に足をかけた所で止まっており、自分の予想が正しいと確信する。


「中々、肝が座ってるじゃないか、ヴィーナスの輝き」

「だから! その名前で呼ばないで!」 


 瑞樹は怒鳴った。結構ガチで怒っているように見える。だが、そんな様子を南野は気にもしていない。


『挑発! 相手を掻き乱しにかかっている!』


 スピーカーの声に、周囲はざわつく。


「そうか! 動揺を見せない相手を掻き乱しにかかっているのか!」「代表! 奸計に乘せられないで!!」「いいぞ! 南野さん! もっとやってやれ!」


 声を上げて熱狂する観客とは反対に、二人はじっとしたまま動かない。


 互いに、出方を探り合っているのだ。階段を登れば、瑞樹に滑り降りる間を与えてしまう。一方で瑞樹は、南野に階段を支配されている今、滑り降りてしまえば大きな隙を作る。


『まるで、達人の間合い!』


 その言葉に、どっと歓声が沸いた。

 開始から、まだ1分と経っていない。それなのに、こんなにも盛り上がるのか。

 公園バトルが好きな人達は、本当に好きなんだろうな……。

 胸に針のような痛みが走り、目を凝らして二人の動向を伺う。


「キリがないな。仕方ない、体力勝負と行こうか」


 南野はそう言って、階段を駆け上がる。踊り場に手がかかった所で、瑞樹は滑り降りた。


『おおっ! ついに動いた!』


 南野は純粋に瑞樹の後を追い、滑車面を滑りおりる。今度は間を伺うことなく、二人は動き続け、滑っては登りを繰り返していく。


 ルールは、背中をタッチした方の勝利。今は、追うと同時に追われる状況になっている。つまりは相手に追いつかれ、背中を触れられれば敗北が決まる。


 足の速さ、体力的には南野に分がある。陸上で全国に出ているだけあって、俊敏性が見て取れる。速度が落ちていく瑞樹とは異なり、全くと言って減速しない。二人の距離はあっという間に縮まっていく。


 ついに、滑り出そうとしている瑞樹の背に、南野の手が伸びた。


『惜しいっ!!』


 あと数センチといった所で、手は空を切った。

 会場からは安堵と残念がる声が上がる。

 南野は悔しがるそぶりすら見せず、淡々と後を追う。もう一周でもすれば、届くからであろう。

 案の定、さっきより距離が詰まる。南野が踊り場まで登れた時、瑞樹は滑りおりる動作に入れていない。

 登り切った勢いのまま、南野は真っ直ぐ前に手を伸ばす。

 一メートルもない。これは手が届く、そう思った。

 しかし、南野の目の前から瑞樹が消え、伸ばした手は再び空を切った。届くはずだったものがなかったせいで、南野は前につんのめり、頭から滑り降りていく。遅れて、とん、と着地する音とともに、瑞樹が踊り場に舞い戻った。

 一瞬だった。

 南野が迫っていることに気づいた瑞樹は、滑り降りようとせず、手すりに手をかけた。そして、その上で倒立することにより、背中へと伸びてくる手を躱したのである。


『な、何ということだ!? 体操、平行棒では基礎の倒立!! それを滑り台の手すりでやってのけた!!』


 不意に出た神業に息を飲んでいた周囲は、一斉に歓声をあげる。


「すげえ! ヴィーナスの輝き! マジすげえ!」「二つ名の通り、息を飲ませるほどの技だ!」「体操では、美しさを競うものという。なるほど! 美しさとはこのことか!」


 そんな声を聞いてか、瑞樹は顔を真っ赤にする。


「だから、今日だけは、その名前で呼ばないでよ……」


 ヘッドスライディングのような体勢で滑り口にいる南野は、その状態のまま「ククク」と笑う。


「流石はヴィーナスの輝き、そう簡単にはいかないか。だが、この競技はドッグファイト。逃げてばかりじゃ、話にならない」


 そんな体勢でカッコつけられても、とは思うが、言っていることは事実だ。南野の足の速さと体力があれば、もう一度瑞樹を追い詰めることは可能。一方で瑞樹は、南野の背を捉える手段を持っていない。


 さらに、一度倒立を見せている。あれは諸刃の剣だ。空中で止まる行為は、相手にとって、背中に触れられる大きなチャンスでもある。


 南野はゆっくりと体を起こし、滑り口から真っ直ぐに距離を取って瑞樹を見据える。そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ただ足が速いだけで、二つ名を持っていると勘違いしていないかい?」


 違うのだろうか。この競技では、足の速さ、体力が全てと言っても過言ではないと思う。

 しかし、俺の予想とは異なり、周囲がざわつく。


「出口から離れたということは、これは助走距離!!」「ま、まさかあれを出すつもりなのか!?」「二つ名の由来となった、あの禁断の技を!?」


 南野は観客の方に体を向け、ぐるりと見回した後、俺のいる方向に視線を固定した。


「今回の公園バトル、西校代表に願いを叶えてもらうことが僕の望みだった。だが、それだけでは、負けても次があるという、ほんの少しの甘えが抜けなかった」


 南野と目があっている気がする。これは俺に向かって言っているのだろうか。


「けれど今!! それがない! 拭い去ってくれたのは君だ! 赤兎馬ランド!!」


 そう言って、俺に向かって人差し指を突きつけてきた。周囲の人間から視線を浴びる。


 な、なんだよ、やめてくれよ。俺が何をしたって言うんだ。


 それに、と俺は瑞樹へ顔を向ける。


「え、嘘……?」


 瑞樹の上ずった声を聞いて、何故かバツが悪くなって直ぐに顔を逸らした。


「赤兎馬ランド、さっきはよくも、この僕が東校の下と言ってくれたね? そうまで侮辱されて、負ける訳にはいかない!!」


 言ってない! 侮辱したのは東だ!


「流石! 赤兎馬ランド!」「かっけえぜ! マジかっけえ!」「よくいってくれたわ! やっぱり私たちの代表ね!」

 抗議しようにも、東校生からの賛辞が飛んできて切り出しづらい。


「んだと!? 南野さん! こんなイケすかねえやつやっちゃって下さい!」「舐めやがって! マジでボコボコにすんぞオラァ!」「東の雑魚はすっこんでなさいよ!」

 さらには、南校生からの罵声も飛んで来て、喧嘩に発展していく。救いなのは、人が多いせいで身動きが取れず、口喧嘩以上にならないことだ。


 にしても、なんでこんなことに。ただただ、自分は無実であると理解してくれることを願う。


「皆んな落ち着け!!」


 南野が大声で叫んで、場が落ち着く。


 どの口が。騒ぎを作った張本人のくせに。俺はそう思い、冷ややかな視線を送る。しかし、南野は気づいてないようで、美男子なキラっとした笑みを浮かべた。


「今は、西校と戦ってる最中だ。まずは、俺が最強のヴィーナスの輝きを倒すところを見てくれ」


 そう言って南野は、滑り台に向かってクラウチングスタートの態勢をとる。


『紆余曲折ありましたが、ついに出るのでしょうか!? あの技が!』


 実況が入り、一気に空気が公園バトルに引き戻される。


『まるで、滑走路から飛び立つ戦闘機! ハイレートクライムを思わせるその妙技!』


 南野は顔を上げ、ギロリと瑞樹を睨んだ。


「この技で仕留めるっ!! はああああああああ!!」


 南野は雄叫びを上げ、滑り口を逆走しだした。


『出たあぁぁ!! F-22の必殺技、迅速なリフトオフ!!』


 実況に合わせて、わっと歓声が上がる。しかし、俺の内心は凍てついてしまいそうなほど冷めていた。もうやだ……マジで。


 滑り台を逆走してくる南野に対して、瑞樹は階段から降りていく。


 呆れてはいたが、そのお陰で俺は冷静だった。


 なるほど。滑り台の逆走はもろに脚力による差が生じる。さらに頂点付近では減速される為、踊り場で躱そうとしてくる瑞樹の動きを見るゆとりが生まれるわけだ。階段を降りる際も、瑞樹は速度を落とさないと危険だが、長身の南野はある程度降りさえすれば、地面に足がつくので飛び降りればいい。


「ほらほら、どうした!? もう追いつくぞ!」


 南野は瑞樹を追い詰める。たったの二周で距離をほとんど詰めた。

 瑞樹が滑り台を逆走し始めた時、南野は後ろにつけていた。南野も駆け上がり、瑞樹が上りきる前に追いつく。今度はほぼ距離がない。確実に手が届く。


「捉えたっ!」


 南野がそう言った瞬間、瑞樹は飛び上がった。高飛びの背面跳びみたいに伸ばされた手を躱し、逆に腕を伸ばして、空中で南野の背を触った。滑降面に降り立つともう一度バク転し、地面へと着地を決める。


 たった数秒の出来事。それなのに、美しくて呑まれ、スローモーションに見えた。

 再び静寂に包まれる。みんな狐につままれたような顔をしていた。


『に、西校の勝利』


 しばらくして、動揺を隠しきれない震えた声で瑞樹の勝利が告げられた。遅れて観客が湧き上がる。次第に声や拍手は大きくなって、今日一番の響きを公園にもたらした。


 膝をついてずざ〜っと滑降面を滑り落ちていく南野に、南高生は心配そうに駆け寄る。一方で瑞樹の周りには、嬉しそうな西校生が集まっていき、胴上げを始めた。


 息を呑んだまま呆然と眺めていたが、我に帰ると、何より先にすっと冷たい汗が流れる。


 弱点らしい弱点を見つけられることなく、決勝戦の相手が決まってしまった。


 体のしなやかさ、バネ、運動神経、全てが凄まじかった。わかっていたことだが、運動能力を競うルールでは勝ち目がない。


 身体的な事だけではない。こっちは相手のことを引きずっている。平静を保てる自信はなく、心理的にも圧倒的に負けている。


 今日、集中して見ていたが、弱点は見当たらなかった。正直勝てるイメージが全く見えない。けれど、勝たなければいけない。


 手足に重石をつけられ、海に投げ捨てられたようだ。息もできず、もがくことすらできない。ただゆっくりと、暗い世界へ沈み込んでいく感覚を覚える。


 歓声で沸く中、すすり泣く異質な声が耳に届く。ふと視線を向けると、サングラスをかけた四人組が、肩を寄せ合っている姿があった。その隣には、朝テント設営を手伝った中年の男が、微笑ましいものを見るような暖かい眼差しを4人に送っている。4人は息を合わせたように頷きあうと、人混みを掻き分け、滑り台の前へと出た。


 突如現れた4人組に、周囲は不思議がっていたが、サングラスを外した瞬間、一斉に驚愕の声が上がる。


「あれは、大人気バンドのマターナルじゃないか!? どうしてここに!?」


 その4人組は俺も知っていた。この街唯一の有名人、紅一点の4ピースバンド『マターナル』だ。何故か嫌な予感がして、胸がざわつく。


「ありがとう! 先ずはそれを言いたいっ!」


 マターナル唯一の女性は、そう言って頭を下げた。皆んなの視線が一気に女性に向かう。


「私たちが始めた公園バトルが、いまもまだ続いていて、こんなに盛り上がるなんて知らなかった」


 一部から驚愕の声が上がる。


「ま、まさか。公園バトルを始めたって……もしかして、初代の公園バトル代表!?」

「今は番長ではなくて、代表と呼ぶんだな」

「ほ、本当に……?」

「ああ! 私たちマターナルは、各校の番長、いや代表だった!」


 まさかの展開に、歓喜の声が上がった。バンドマンらしく、女性は手慣れた様子で観客達を制して話し出す。


「私たちは、当初の目的、みんなの歌で子供達を喜ばせることを達成し、新たな目的を得るため、地元に帰ってきた。すると、どうだ!? いまも公園バトルがあるじゃないか!」


 女性は大きな声で続ける。


「私たちが作った文化が、今も人々を熱狂させている! ただ純粋に感動したよ! 恩返しになるかわからないが、無料で凱旋ライブをしようと思う!」


 誰からも「おお!!」と歓喜の声が漏れる。


「ただ、この街にはライブハウスがない。行うなら、学校の体育館くらいだ。どの学校ですればいいと思う?」


「ま、まさか!?」と動揺する声が、至るところから上がった。そんな反応に満足したのか、女性はニヤリと笑う。


「勿論! 公園バトルで勝った高校だよなあ!?」

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