第24話・肝試しは安易にやらない方がいいかもしれない

 打ち上げ花火が終わり、颯斗たちは商店街の北側にあるコンビニにいた。

外には嵐斗を筆頭にサバゲーの部員がたむろしており、店内から両手に大量の花火が入ったコンビニ袋を提げた部員と思しき私服や浴衣姿の学生が出てきた。

「よーし、買い出し済んだぞ! 全員移動だ」

部長はそう言って颯斗たちも一緒にその場から移動した。

 一行が向かった先は商店街から少し離れたところにあるお寺だった。部長は小さいクッキー缶を取り出してこう言った。

「さあ、全員クジを引け! 男子は俺、女子は明里が持ってるヤツだ」

男女に別れてクジを引き、全員が引き終わるのを確認した部長は説明する。

「同じ番号の者同士の男女でペアを作ってくれ。1ペアずつ肝試しのルートを回ってもらうぞ」

 そう、夏と言えば肝試し! 定番と言えば定番だ。

海外では冬にやるのがメジャーらしいが日本では気持ちだけでも涼しくなるために夏にやる。

 ちなみにクジ引きの結果、颯斗たちはこんな感じになった。

颯斗・里奈

嵐斗・ユイ

麻衣・俶

杏奈と蜜奈の2人はサバゲー部の男子部員と組むことになり、目くじらを立てていた。

 最初は部長たちから進んでいき、颯斗と里奈の順番になると、杏奈と蜜奈は声を揃えて里奈に「何かしたらただじゃ置かないからね」と釘を刺した。

 ヤンデレとメンヘラの言うことである。何かしてみようものならドラム缶に詰められて海に流されても不思議ではない。

 ルートはお寺の横にある林道を往復するだけで、墓地の近くを通る程度なのだが、実はこの付近……街灯が全て点かないのである。

 真っ暗なルートを颯斗と里奈はスマホのライトで足元を照らしながら歩いて行った。

「にしてもあたしとペアで良かったね。どっちかに当たってたら絶対喧嘩になってる」

そう言いながら歩く里奈に颯斗はこの街に引っ越してくる前のあの2人について尋ねた。

「そう言えば里奈ってあの2人とは中学時代からの付き合いなんだよな? 軽音部以外ではどんなことしてたんだ?」

颯斗の質問に里奈は歩きながら当時の事を話す。

「部活動以外で言えば、テスト勉強ぐらいかな? 杏奈だけ当時の元カレだった男子と付き合っていたんだけどね」

元カレと聞いて今は付き合っていないと解った颯斗は別れた理由を尋ねる。

「元カレってことは別れたのか? 原因は?」

里奈は左頬が引きつったまま「知らない方がいいことだって世の中あるよ? まあ、アンタがどっちを選ぶかは自由だけどね」と言った。

 そう、今でこそ颯斗は2人と友人以上恋人未満ではいるが、人としていずれはどちらか選ばなければならない。

 そして、嵐斗・ユイペアはと言うと……

嵐斗はスマホのライトより強い光を放つポケットサイズのタクティカルライトで道を照らしながらユイと歩いていた。

「麻衣ちゃんと組めなくて残念だった?」

からかっているのか? ユイは無神経にも嵐斗に尋ねる。

「そう言うユイ先輩だって1個上であるはずの俶先輩と付き合ってるそうですけど、元々はどういった関係なんですか?」

嵐斗の質問にユイは悠々と答えた。

「アナタ達と同じで私と俶は幼馴染なの。家が隣でね……小さい頃はよく俶にお兄さんしてもらってたな」

気になった嵐斗は「付き合い始めたのはユイ先輩から告ったからですか?」と尋ねるとユイは首を横に振りながら「いいえ」と否定してから答える。

「私がアーカム高校に入学してすぐに俶から告ってきたの」

 意外な事を知った嵐斗を他所に、俶・麻衣ペア……

「なあ、麻衣……前から気になっていたことがあるんだがいいか?」

スマホのライトを頼りに歩きながら俶の質問に「なんですか?」と相槌を打つ。

「嵐斗と付き合っているって本当なのか?」

 その質問に麻衣は「ああ、それですか」とそのことを話す。

「付き合ってるのは本当です。普段はなるべく距離を置いているつもりですけど」

麻衣の答えに俶は「どうして距離を置く?」と尋ねると麻衣は足を止めてから答えた。

「こんな顔(火傷顔)ですよ? あの事件のせいで私は顔と右腕を焼かれ、右眼も見えなくなってすぐの時、クラスメイトはどんな目で私を見ていたと思うんですか?」

 そう、麻衣にとって嵐斗との付き合いが自身のトラウマに直結しているのだ。

「傷顔なんて嵐斗も同じだろう? アイツは赤鬼の異名を持ちながら純粋さ故に色んな人たちに好かれてる……アイツとそんな連中を一緒にするな。お前は嵐斗だけを見てればいい。俺がユイだけを見ているだけのようにな」

俶は自分なりにアドバイスすると、麻衣は「はい」と小さく返事をした。

 そして、時を少し巻き戻してのこと……

颯斗たちより先に出発していた杏奈たちだったが、ドッキリ敢行のために林道の立木の後ろに潜んでいた部長と明里が「BAAAAAN!」と声を上げながら飛び出すが、颯斗とペアになれなかったことに不機嫌状態だった杏奈にグーパンチによる鉄拳制裁を受け、蜜奈にはゴミを見るような目で見られながらベチーンと強烈なビンタによる折檻を受けた。

 そして、何より一番ひどい目に遭った(仕掛け人が)ペアが嵐斗・ユイペアである。

「嵐斗君、それ以上やったら部長が死んじゃう」

ユイは呆れた顔で部長に逆エビ固めをかけている額に青筋が立つ嵐斗にそう言った。

部長は真っ青な顔で「ギぇアアアア!」と悲鳴をあげており、明里は木陰の後ろから止めとけばよかったのにと言うような顔で見ていた。

その悲鳴は嵐斗達の数m後方にいる麻衣たちにも聞こえており、驚いた麻衣はビクッと思わず、俶の背中に抱き付く。

「抱き付く相手を間違えてるぞ。麻衣って意外と肝試し苦手なのか?」

麻衣はゆっくり離れながらも俶の浴衣の左袖を端を右手でつまんでいた。

「おい麻衣、俺の右腕を掴むな。手が冷たい」

俶は振り向かずにそう言うと麻衣は疑問に思った自分は俶の左袖をつまんでいるのだ。

「私先輩の左袖をつまんでるだけですけど」

麻衣はそう答えると、俶は「え?」となり、2人の視線は俶の右腕に行き、白くほっそりとした女性のような手が俶の右手首をガッチリ掴んでいた。

「「ギャアアアアア!?」」

星がちりばめられた夏の夜空に一組の男女の悲鳴が響き渡ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る