ラテ・マキアートって本当に意味わかってる?雰囲気だよね?
街路樹の真っ直ぐ立ち並ぶ通い慣れた一本道。
春には桜の花が咲き誇り見事な桜並木となるが今はそれも散り、青々とした葉を茂らせていて…この道を進むと間もなく叢雲学園の校舎が見えてくる。
いつも通りの景色、日常的な光景。
ただ明らかに違っているのは、絶世と称しても過言ではない美女が喜色満面の笑みを浮かべ、隣を歩いている事か。
白銀の美しい髪を編み込んだポニーテールは小顔が引き立ち美麗な顔立ちによく似合っている。デニム生地のベージュパンツに白の無地Tシャツの上から淡いクリーム色のジャケットを羽織って。
「今日はヒールじゃないんだな」
「うん、ダァリンと歩いて行きたかったから。昨日帰り道で足痛くなっちゃって、えへへ」
「……」
照れ笑いを浮かべながら歩幅を合わせ歩みを進める。
普段のリリアナとその様相を一変させ、カジュアルで可愛らしい雰囲気を漂わせている。
周囲を行き交う人々や同じく登校中の生徒、特に男子生徒はリリアナの美貌に思わず足を止め見惚けている。その後怨嗟の視線が向くのは言わずもがな、肩を並べて歩く聖だ。
「もしかして…私達、目立っちゃってる?」
主にリリアナがな……
「教師と生徒が仲良く登校すれば目立つだろうな…まぁ、気にするな」
これでもリリアナなりにかなり気を使って距離を保っているんだ…それに、電車やタクシーを使ってもいい距離をわざわざ俺に合わせて歩いているのだから、これ以上気負わせるのは酷だろう。
「ぁりがとう…ドSなダァリンも好きだけど、優しいダァリンはもっと…すき」
照れ隠しに俯きながら、そっと呟くリリアナ。
以前のようにあからさまな態度を取れなくなった聖は反応に困った様子で頬を描く。周囲から見てもわかるほど甘ったるい空間が二人の間に漂い始め。
「明日から私も制服着ようかな…そしたら目立たないかも」
何を言い出すのか…今の状況ですら混乱を招くのに、その上コスプレ登校…カオスだ。
表情を青ざめさせる聖を見て、口元を尖らせたリリアナが。
「ぁあ、ダァリン今酷いこと考えてたでしょ?まだ行けると思うんだけどなぁ…」
わかっている。似合うさ…間違いなく似合うだろう、だがそう言う問題じゃない。
そして、何故俺は想像しているんだ……どうした、俺…完全に呑まれているじゃないか。
「見てみたい気もする…」
何を血迷っているんだ、俺は!
言うに事欠いて、見たいだと?!馬鹿か!馬鹿なのか?!
「へっ?!……ぅん、わかった…いざ着るとなると…恥ずかしいけど…がんばる」
予想だにしていなかったと言う表情で、驚きを隠せずに一瞬目を剥くが、顔を赤らめもじもじと俯く。
「ぃや、悪かった…そんなに頑張らなくても大丈夫だ」
冗談だったのか?!わかりずらい事この上ない…これじゃ、俺がそう言う趣味みたいじゃないか?!違うっ断じて違う!
リリアナの言動はめちゃくちゃだが、それが実はそもそもブラフなのか?
意外と考えはまともで、敢えてそんなキャラを演じている…だとしたら何故?
ただ、悪意は感じない…寧ろリリアナが俺に向けてくる感情に嘘はない……
何故言い切れる?……そうであって欲しくない…俺はリリアナの想いに、期待している?
「…ダァリン?ダァリンってば」
「ん?ぁあ、悪い…少し考え込んでしまった」
「凄く難しい顔してたよ?…」
「すまない、なんでもな––––」
「ねぇ、ダァリン私の言葉に嘘はないょ?ダァリンを想う気持ちに嘘はない」
それは、あまりにも的を得ていて…勘と言うには不自然すぎるリリアナの言葉に聖は瞠目し驚愕せざるを得なかった。
「お前…なんで?!」
「そう言う顔してた…」
驚く聖を静かに見つめ返しリリアナは続けた。
「私、小さい頃からなんとなくだけど…相手の気持ちがわかるの」
「…心が、読めるのか?」
「そんな超能力的な事じゃないんだけどね…なんとなく…そうなのかなって思う事が大体当たってると言うか……」
何処か遠く、儚い物を見据えるような視線で虚空を見つめるリリアナを、聖もただ黙って見つめ。
「……」
「私、ダァリンへの想いに嘘はないょ…ダァリンが望むなら、なんだって出来る……心も、身体も……命だって」
憂いを宿した琥珀色の瞳が真剣に力強く聖に向けられ、聖は真っ直ぐにその視線を受け止めると、心を決めたようにリリアナへ応える。
「わかった、信じる。だからそれ以上は言うな」
「ダァリン……」
琥珀の双眸を揺らし身体ごと聖に向き直り足を止めた。
「悪いな、最悪を想定するのが俺の悪い癖だ。いつもそうする事で…自分を守ってきた……」
視線を落とし、過去を握りつぶすように拳を握った聖は自身の中に渦巻く感情をありのままリリアナへと告げる。
「俺はリリアナ、お前を失う事を恐れているのかもしれない…この感情がなんなのか、正直まだわからないけど……多分、お前を失うと俺は傷付くのだと…思う…だから命とか簡単に言ってくれるな」
穏やかで優しい光を宿した群青の双眸がリリアナを見つめ、それは『あの日』彼女が初めて見た偽りのない温もり。
「ダァリン…それって」
聖の本心に触れ、リリアナの心が大きく揺れ動き––––––。
「朝から仮にも教師と生徒がいちゃつきながら登校って…どんだけよ」
前方の木陰から不粋な台詞と共に赤毛を揺らしながら少女がその栗色の双眸で二人を見据え近づいて来る。
「やあ、桐崎さんおはよう。今日は紫龍院さんと一緒じゃないんだ?」
聖は途端に色の抜け落ちたような表情になり恵里奈と相対する。
聖の変貌ぶりに流石のリリアナも息を呑む。最早別人かと錯覚する程その様相は一変していた。
そして同時にそこまでの生き方を貫き通して来た聖の人生を思うと不憫で居た堪れない感情に胸を刺される。
「桜ちゃんは今日生徒会の用事で早めに行ったの。ねぇくろっち?目立ちたくないんじゃなかったの?そんな派手な女と一緒に居たら今まで守ってきたもの全部壊れちゃうよ?」
普段の様相を覆していたのは、逆の意味で恵里奈も一緒だった。
クラスのムードメーカー的な面影は微塵もなく、静かで落ち着いた雰囲気。
「…あなた、誰?いきなり女呼ばわりされる程私はあなたを知らないのだけれど?」
そしてリリアナもまた、先程までとは打って変わり冷めきった視線で恵里奈を睨め付け。
凍えるような口調で言い放つ。
客観的に見ていると、これ以上無いほどに……カオス。
「ぁ、そう。たかだか一カ月やそこらでくろっちの事を知った気になってるオバさん…ってはっきり言った方が良かったぁ?」
「随分とはしたない口ね、その程度で乱される程子供じゃないわよ?あなたこそひじり君を知っている風な口振りだけど…ただ一緒にいた期間でそんな事を言っているなら、薄っぺらい想いね?」
二人の間にドス黒いオーラが漂い猛烈な火花が飛ぶ。その様子を乾いた表情で聖は「まぁまぁ」と全く止める気のない仲裁に徹して。
「くろっちの事気安く呼ばないでっ!あんたなんかより、あたしはずっと見てきた…くろっちの事近くでずっと……」
そして、恵里奈は聖に向き直り僅かに笑みを浮かべて。
「あたし、知ってるよ?くろっちの本当の姿。そして、あたしも『候補生』になったの…これで…やっと追いつけた…まだまだくろっちには届かないけど、これで同じ場所に立てる」
「………」
肌がひりつく程のプレッシャーが一瞬。
「…ひじり君」
辛うじて声を絞り出したリリアナが声をかける。
圧倒的な存在感がその場を支配し、息苦しさすら覚えるプレッシャーに恵里奈は呑まれ。
「……あたしは、この五年間…くろっちの背中だけを見て来た…死ぬ気で追いかけてきた…努力してきた……あたしだけが知っているはずだったのに……なのに!」
唇を噛み締め薄っすらと血を滲ませながら、射殺しそうな程の形相でリリアナに怒気を孕んだ瞳を向け。
「あんた…なんかにっ、いきなり沸いて出てきたあんたなんかに…」
聖は思案するように恵里奈を見遣り、リリアナはその視線を真っ向から受け止め。
「……そう。私には関係の無い話ね……ただその想いが本気と言うのなら、奪ってみせれば?私から…ひじり君を」
嘲笑にも似た笑みを浮かべながら恵里奈を挑発するように見下げるリリアナ。
ただその瞳には、薄っすらと安堵の色が混じっている様に思えた。
「望む所––––––」
歯をむき出しにして、獰猛な獣の様に今にも襲いかかりそうな恵里奈を…とりあえず担いだ。
「く、くろっち?!」
そして余裕の笑みを浮かべ悪女の様な雰囲気を漂わせていたリリアナの襟首を摘んで持ち上げ。
「きゃぅんっ?!」
そのまま騒ぎを見ていた周囲の視線から外れ人気の無い脇道に入り。
リリアナをペイっとおざなりに置いて。
「はぅっ…酷いょダァリン…でも久しぶりなこの感じ……ィイ」
両腕を抱いて身悶えるリリアナ。そして、肩に担いでいる恵里奈に。
「く、くろっち?な、なに?!ひゃんっ…そんなっ、イタっ!ぁあっ……らめぇっ?!」
そのまま尻叩きを数十回。そしてリリアナの横にペイっと置いて。
涙目で、しかし何故か僅かに緩んだ口元の恵里奈が尻を摩りながら、訳がわからないと言った表情で聖を見つめ。
リリアナは物欲しそうに、自分の尻を撫でながら指を加えて聖に潤んだ瞳を向ける。
「お前らな…喧嘩するのは勝手だが、俺を巻き込むなっ、しかも往来のど真ん中で…目立つだろう?!」
「ひじり君…ゴメンなさい…でも私達を担いでその場を去ったひじり君が一番目立っていたんじゃ…」
「お座り」
「ひゃうわっ?!」
「リリアナ?なんか言ったか?」
「なんでも…ないでぇす」
そして恵里奈の方に視線を向け。
「く、くろっち、ごめんなさい…あたし、どうしてもくろっちの事……覚えてないかもしれないけど…あたし…」
「覚えてるよ……苗字似てるからな?」
「ぇ……その…本当に……その台詞…あの時の」
蘇る記憶、まだあどけなさの残る五年前……それはやけに冷え込む日だった。
宵闇にひときわ目立つ赤髪の少女が一人、襲いかかる理不尽な現実に絶望を覚悟した日。
『彼女』は正義感を地で行く様な人…その代償を誰かが払っている自覚なんて…存在しない。
今日も、同じだった…公園にのさばっていたチンピラ相手に勇猛果敢に注意して『彼女』なりの正義を通した。あたしはいつも通り『彼女』を先に逃がしその後処理をする。
慣れていた…いつもの事だった……『彼女』はあたしが失敗するなんて微塵も思っていないだろう、翌日には全てがいつも通り回り出すと本気で信じているのだから。
どれだけ痣を作ろうと…酷い怪我をしようと、あたしは『彼女』にそれを見せた事はない。
それは、許されなかった。
あたしは、盾……代わりに怪我をすると…褒められる。身を呈して殴られると賞賛される。
別にあたしは強くない…同学年より少しだけ戦う術を教え込まれただけで、飛び抜けた才能もない。あたしの役割は『彼女』の身代わり。『彼女』はあたしを友達だと言ってくれた。
最初は嬉しかった……でもそれは間違い。『彼女』がいじめっ子に立ち向かって行った時、あたしは『彼女』を、逆上したいじめっ子から逃がした…『彼女』は振り返る事なく、その場を去った。
今日も同じ、いつもの事…ただ今日は相手が少し悪かっただけ……
『彼女』を逃がすために不意を突いて一人に襲い掛かった…そうしなければ勝てそうに無かったから……『彼女』はあたしに卑怯は行けないと言った。だからあたしは、話し合いで解決するから先に帰ってくれと耳打ちし逃がした。『彼女』は振り返らずに安心して帰った。
今日あたしは絶望するのだろう……陵辱され、ゴミの様に捨てられ…そしてそれを褒められるのだろう。あたしは盾……いや、盾ですらないのかもしれない……あたしは…なに?
男達が近寄ってくる…もう抵抗する意味も感じなかった…あたしは目を閉じなされるがままを受け入れる事にする……どんな感情もきっと無意味だから……
ただ、いつまで経ってもその時は訪れなかった。目を開けて絶望するのが怖い……だけど何かおかしい…恐る恐る目を開くとそこには。
見た事のない端整な顔立ちの少年が立っていた……無造作な黒髪を風になびかせ、群青の深い瞳が鋭い眼光と共にこちらへ向けられていて。ふと見渡すと周囲に先程までの男達が事切れた様に静寂を強制されていた。
驚きに目を見開くしか無かった。争う音など聞こえなかったし、目を閉じてからもそんなに時間は立っていないはず……同年代にしか見えない少年がこの結果をもたらしたとは到底信じられ無かった…しかし現実がその結果を如実に物語っていて。少女は瞠目しながらも、何とか言葉を紡ぎ少年に声をかける。
『ぁの……ありがとう…ございます』
少年は特に反応する事もなく率直な疑問を口にして。
『こいつ……お前がやったのか?』
少年が顎を向ける、そちらに視線を向けると不意を突いて倒した男がそのまま倒れていた。
『はい…あたしは…盾…だから…だけどあたし弱くて…その人は…偶然…』
自分でも何を言っているのか訳がわからない…予想だにしていなかった事態に少女の思考は混乱を極めていて。そんな少女の様子を黙って見つめていた少年が再び唐突に口を開く。
『名前は?』
『ぇ……あたし、桐崎恵里奈…です』
気がつくと従順に少年の問いへ応えている自分が居た。少年の持つ独特な空気感に呑まれながらも、それが嫌だとは感じていなかった…それよりも目の前の少年に対する疑問…興味の方が強かったのかも知れない。
『微妙に苗字被ってるな?俺は黒崎だ』
少し間を置いて放たれた少年の意外な言葉に、少女の張り詰めていた糸が切れ。
『…黒崎さん……ふふ、本当ですね』
思わず笑顔が溢れる、それはいつぶりだろうか……心から安心して笑えた。
誰かの前で笑うのは……本当に久しぶりだったから
『お前、笑った方が似合うよ』
少年は不意に無垢な笑みを浮かべ、少女に徐に近寄り。
『……?』
赤毛の少女の頭を軽く撫で付けながら。
『女が弱くて問題あるのか?お前は盾じゃない、お前は桐崎恵里奈?だろ』
それはとても暖かい言葉……不意に撫でられた恥ずかしさから身体中が沸騰するほど熱くなるのを感じる。
少女の中に残る甘く愛しい記憶。身を犠牲にする以外の目的を持たなかった少女を一人の人間として、女として見てくれた初めての人
今目の前にいるのは『あの時』の聖だった。忘れられていたと思っていた…変わってしまったと思っていた…それでも、恵里奈は聖だけを見つめ続けてきた。震える栗色の双眸はまだ信じられない光景を目の当たりにしている様で。
「声をかけて来ないから、お前の方こそ忘れていると思っていたし、その方が良いと思っていたからな…」
聖は肩を竦めながらいつもとは異なる口調で語りかけた。
「……そぅ…なんだ…覚えてて…くれたんだ…」
声など、掛けられるはずがない……最初に聖と再会したのは高校の入学式。
胸がはち切れるかと思う程鼓動は高鳴り、遠くから見つめるだけで胸が…頭が…いっぱいになって……
恵里奈は聖と出会ってから、死に物狂いで研鑽を重ね続けた。
強くなるために……そしたら、また会える気がしたから。どうせ逃れられない定めならば悲観的に身を削る事は止めよう…誰よりも強く、身に降りかかる理不尽を払いのける事が出来る力をつけようと固く心に誓った……彼と同じ場所に立つために。
もしも再会出来たなら…彼にとびきりの『笑顔』を見て欲しいから。
時が止まった様にすら感じた。この瞬間を夢見て……身勝手な片思い、本当に再会できるかもわからない…雲をつかむ様な話…ただ彼の様に強くなればいつか…そう思い続け。
それは突然訪れた…追い求めていた彼が…目の前に…ただその様相は少女の出会った少年とはまるで違っていて。
それから一年間何も出来なかった。ただ遠くから…見つめるだけ…怖かった。忘れられていたら…嫌われたら…ただそれ以上に彼の事がもっと知りたい、何故あんなにも孤独な雰囲気を纏っているのか。
何故あんなに寂しい表情なのか。自分に笑えと言ってくれた彼は何故あんなに悲しい笑顔をしているのか。
恵里奈は聖を見つめ続け。そして二年になったある日、唐突にその時は訪れる。
意図しない形で……それは、恵里奈に掛けられた呪いの言葉。
『エリナ?黒崎くんって知ってる?』
『ぇ…うん、隣のクラスのだよね…桜ちゃんどうかしたの?』
『少し気になっちゃって…お友達になれないかな…』
恵里奈は、愕然とした。それは何気無い普通の会話。しかし恵里奈にとってそれは…
『……わかったょ、話してみて仲良くなったら桜ちゃんの事……紹介するね』
『うん、ありがとうエリナっ!本当にエリナは頼りになるねっ』
逃れる事の出来ない呪縛。しかし、長年夢見続けてきた彼と関わりを持つチャンスでもあった。自分の事など覚えていないかもしれない…でも、それでも良い…彼に少しでも近づく事が出来るなら……
『く、くろさき…くん』
『…どうしたの桐崎さん?』
彼は色の無い笑顔を恵里奈に向け平然と返した。
『ぁ、あたしの名前……』
『……?隣のクラスだし、桐崎さん有名人だからね、知ってるよ?』
紫龍院桜はやはり校内でも注目の的で、その隣にいつも居る恵里奈も必然的に注目は集まる。
しかし恵里奈にとってそれは苦痛以外の何物でもなくて。
『そっか、そうだよね……』
『……らしくないね?いつもあんなに明るく皆と接しているのに…どうしたの?』
『ぇ……それは、その…』
仕方なかった。桜の環境を整える為、自分が中心になって桜を引き立てる為……
ただ、もう一つの本心は……見て欲しかった…気がついて欲しかった…覚えていて…欲しかった。
あなたが笑顔を褒めてくれたから…こんなにも笑えるようになった自分を誰よりも見て欲しくて。
『い、陰キャな…く、く…くろっちの為に、あ、あたしが…と、友達になって…下さぃ』
本当はもっと素直に…掛け値のない言葉で、ただ話したかった……
『面白い誘い方だね?くろっちって僕の事?』
『ぅん…あだ名……ィヤだった?』
「苗字被るね」って……言って欲しかった…でも勇気がなくて。
『桐崎さんは面白いね、良いよ、陰キャ?な僕に似合うかわからないけど』
『そ、それは…本当はそんな事…思ってなくて…ごめん』
本当は聞きたかった…何であなたは『あの時』と違っているのか…何があったのか…あたしにとっての『本当の姿』は『あの時』のあなただから…
『……?良くわからないけど、これからよろしくね?桐崎さん』
『はぃ…ょろしくお願ぃします』
顔を真っ赤に染めながら精一杯振り絞った言葉を紡ぎ声をかけた恵里奈は、淡い期待と寂寥の思いで聖との再会を果たした。
そんな思いが溢れて…溢れて。
理由ははっきりとわからない……けど、覚えていてくれた…彼の記憶に自分はちゃんと残っていた…込み上げてくる感情の波が栗色の双眸から溢れ出す。
あなたのおかげで、あたしは踏み出す事が出来た…生きる強さを与えてもらえた。
本当は再会出来ただけで十分だったのに…でも、どうしても抑え切れない感情が想いが……
聖の横に並び立つリリアナを目にして…爆発してしまった。
「くろっちは…あたしの……あたしだけの王子様なんだもんっ……」
瞳を潤ませ、心のまま…想いのまま…子供の我儘の様に。
「「……うわぁ」」
聖とリリアナは思わず口を合わせて心の声を漏らす。
そして聖は心に固く誓った……もう、気まぐれで人を助けるのはやめよう……本当にやめよう。
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