第70話:束の間の日常-Ⅱ
「・・・・・・へっ?」
何を言われたのかわからないと言いたげに呆然と立ち竦むカンナ。
しかし、次第に楓人が意を決して告げた言葉に対して、言語処理が追いついたようで頬がかあっと赤く染まる。
「そ、それはもちろん・・・・・・私からお願いしたいくらいなんだけど。で、でも・・・・・・その心境に至るまでの道筋が知りたいって言うか、なんと言いますか」
明らかに混乱しているようでわりとキャラ崩壊を起こしかけていた。
だが、楓人も男として率直に告げた以上は引く気はない。
「じゃあ、行ってくれるんだな?」
「う、うん。断るなんて有り得ないし・・・・・・」
もじもじしながらもカンナは頷いてくれて、予測していたとはいえ断られるかもしれないという不安が消えていく。
「明日の昼からでいいか?午前中はちょっと行くところがあってさ」
「うん、大丈夫だよ。何時にする?」
「そうだな。それじゃ、明日の十二時に蒼葉北駅前に集合で行こう」
「わかった。それじゃ・・・・・・た、楽しみにしてるから」
はにかむように笑ったカンナは何をしに来たのか知らないが、すぐに自分の部屋に戻ってしまう。
さすがに朴念仁の楓人と言えど、デートの雰囲気は出そうと思っている。
今回は誤魔化さずに普通のデートをカンナと楽しみたいと思っているので、行き先もある程度は考えてあった。
「さすがはリーダー、決める所は決めますね」
「・・・・・・からかうな。それにお前がビシッと言ってくれなかったら、踏み切れなかった。ありがとう、これからも俺が至らない時は言ってくれると助かる」
「年齢の割に至らない時の方が少なくて心配なくらいですがね」
「まあ、とにかく明日はお互い頑張ろうぜ」
「はい。それはそうと、明日の午前中はあそこですか?」
「ああ、久しぶりに会って来なきゃな。それに情報収集もしておかないとな」
以前から怜司には何かの弾みで今後の行動に関する話はしていた。
最近は何かと忙しくて行けていなかったが、時間が空いたのでそちらに時間を割くことにしたのだ。
カンナとの関係以外にも、もしかしたら前に進まなければならない時が来たのかもしれなかった。
―――その頃、カフェ二階の別室にて。
美しい金色の髪を持った少女が自室のベッドにダイブしていた。
部屋は熊のぬいぐるみが置いてあったり、青色の水玉カーテンだったりと女の子らしい改装が所々に施されている。
部屋の主であるカンナはベッドにうつぶせで潜り込むと、発作でも起こしたかのように足をバタつかせる。
「・・・・・・~~っ!!」
声にならない声は彼女の内側から発せられる喜びに他ならない。
「デート・・・・・ちゃんとしたデートっ!!」
その単語を呟く度に彼女の頬がだらしなく緩む。
パートナーとかコミュニティーのリーダーだとか、そんなことを抜きにしてカンナは楓人のことを言い訳のしようもなく好いていた。
彼女なりに楓人のことはずっと見て来たつもりだ。
彼は完璧に全てをこなしてここまで来たわけではなく、ここに辿り着くまでに何度も間違えてきた。
変異者と話し合いで解決しようとした結果、裏切られて傷付いたこともあった。
それでも、楓人の溢す強い思いをカンナは一番近くで聞いていた。
辛くて痛くて寂しい、そんな気持ちが一緒にいたカンナには痛い程にわかった。
確かに自分の居場所が欲しいという気持ちもあるのは知っている。
だが、それだけでは絶対に説明できない決意で、楓人は他人に対しても本気で挑み続けていたのだ。
道具として使われるべきカンナをパートナーと呼んで大切にしてくれる人。
他人の居場所の為、時に自分が辛くても優しく出来る人。
そんな楓人の力になりたいと思うと共にカンナは彼に恋愛感情を抱き、一緒にいる度に楓人への思いが強くなった彼女は自身の恋を自覚したのだ。
彼といると楽しい、彼の優しさに触れた、恋をした理由など数えきれない。
中でも、より鮮明に覚えている言葉があった。
“俺の
人並みに間違えるし、一人で出来ないことも多いことを知っている。
それでも他人の為に本気になれる彼がカンナはどうしようもなく好きだった。
「でも・・・・・・こうやって待ち合わせしてデートって何か、緊張するかも」
我に返ったカンナは今回のデートに関して何もわからないことに気が付く。
冷静に考えてみれば今まではカフェの買い出しだったり、学校の帰りに遊びに行った寄り道がほとんどだ。
正式にデートを申し込まれて待ち合わせをして、となると今回が初めてである。
あまりにもデートに対して経験不足であることに思い至った。
よって、敏腕アドバイザーを雇うことにした。
『どうしたの?カンナが夜に電話してくるなんて珍しいじゃない』
「燐花、歴史的快挙が起きたから相談したかったの!!」
『新しいプランクトンでも見つかった?』
ふんすと意気込みが明らかに普段とは違うカンナの声を聴いた友人、燐花はとんでもなく冷静にボケた。
「そうじゃなくて―――」
事の顛末を説明すると、燐花は打って変わって真剣にしばし考え込む。
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