第48話:トンネルの怪奇-Ⅱ
「ど、どうしたじゃないわよ!!乗っ取られてたりしてないわよね?」
「乗っ取られるなんて話はフィクションだろう」
燐花が胸を撫で下ろした様子だが、念の為にと光に問いを投げかける。
それに対する返答も表情もいつもの光のもので間違いなかった。
楓人も気付かなかったとはいえ、途中から光を置き去りにしてしまった罪悪感もあったので安心した。
「すみません。俺がちゃんと全員いるかを確認してから出れば良かったです。それで、先輩は何で出遅れたんですか?」
光の身に何もなかったとすれば、なぜ悠々と歩いて出てきたのかが腑に落ちない。
「ああ、少し転んでしまってな。心配をかけてすまなかったな」
「とりあえず、あそこで少し休憩しない?」
カンナの指差す先にはベンチと砂場しかない小さな公園があった。
隣には駄菓子屋らしき店があり、ちょうどいい休憩になりそうだった。
とりあえず、座って少し休憩すると全員が落ち着きを取り戻す。
「話を聞きがてら駄菓子屋で買い物でもすっか?」
「ああ、それがいい。これだけ近ければ俺達みたいな観光客もいたかもしれないしな」
駄菓子屋は民家の一部を改造したような内装で、店番に年齢は六十は超えているであろう老人が座っていた。
楓人達が店に入ると物珍しそうな顔をすると声を掛けて来た。
「いらっしゃい。どこから来たの?」
「蒼葉北の方から、ちょっとお参りに来ました」
楓人は応えると、悠々と店の懐かしさを覚える駄菓子を物色していく。
駄菓子なんて久しぶりだったので、童心に返ったような気持ちで買い物ができるのは楽しかった。
「これ、よく食べたよなぁ・・・・・・」
三十円で小さなドーナッツが三つ入っている、昔はお世話になっていた懐かしい菓子の袋を感慨深く眺めた。
「懐かしいわね、楓人がそれ好きだったわ」
「そういや、遊んだ時にたまに食ってたよな」
椿希や柳太郎とは付き合いも長いので好みは筒抜けである。
楓人は小さい頃はドーナッツだとか鈴カステラだとかの甘ったるい物が好きで度々、買っては食べていた。
「柳太郎はチョコレートバットだったよな」
「あの値段でもう一本の可能性があるってのはロマンあるだろ?」
「わかる、アイスとかでも当たり付きの選びたくなるよな」
柳太郎は野球のバットを模したチョコレート菓子が好みで、もう一本が当たるまで買い続けていたこともあった。
椿希は特に明確な好みはなかったので楓人と分け合って食べることが多かった。
そんな過去を思い出すたびに大災害が頭にちらつくが、三人とも過去に関しては互いに気を遣い過ぎるのは止めようと暗黙の了解があったからだ。
昔の思い出は悪いものばかりではなく、かけがえのない記憶もあるのだから。
「あ、これいいかも」
カンナは楽しそうに駄菓子を選んでいる。
何度か買い物のついでに駄菓子は物色しているので、種類は彼女も把握している。
楓人と出会った時から、カンナはこの世界の最低限の常識は知っていた。
だから、楓人が教えたことはほんの一部でしかない。
「すみません。それで、少しお話を聞かせてほしいんですけど」
ドーナッツを幾つか購入しつつ、楓人は情報収集を行うことにした。
駄菓子で童心に返るのはいいが、さっきの謎の現象も出来ればはっきりさせたかったのだ。
「トンネルの中で変な噂を聞いたことないですか?例えば服を掴まれるとか」
「そうだねぇ、あるよ。お兄さん達みたいなお客さんもいるから」
「観光の人もよく来るんですか?」
「観光がたまに、あとのお客さんは子供達だよ。今日はいないけどね」
店主は思い出したように答えるが、その表情に恐怖や不安はなさそうだった。
やはり幽霊の噂があっても恐れてはいないらしい。
「子供からは幽霊の話は?」
「そういうことがあるのは、観光に来た人がほとんどさ。ここに住んでいるウチの家族も一回ないよ」
「観光客だけ・・・・・・ですか」
「人にケガさせたわけでないから、今じゃすっかり慣れてるのさ」
料亭でも駄菓子屋でも人々が幽霊の噂を恐れていないのは、誰にも被害がないとわかっているからなのだろう。
長年親しんだ土地で子供の霊が現れたとしても、人に危害を加えないとわかってしまえば可愛いものなのかもしれない。
長年住み付いて危険でないとわかっている
「それにねぇ、多分・・・・・・寂しいだけなのかもしれないからね」
老婆は目を細めて、トンネルの方向に目を凝らす。
「・・・・・・・・・」
楓人は考え込む、これまでの情報を整理する。
同時に光に目が合うとやはり同じように考え込んでトンネルの方を見ていた。
服を引かれるだけの幽霊だとすればなぜトンネルだけなのだろう。
トンネルで死んだなどという話もあるが、今回の件ではしっくりこない。
もっと単純に考えていいのではないかと楓人は思う。
幽霊の噂、色々な歴史、噂は時に人の目を曇らせるからだ。
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