第92話 ライフセイバー

 ホテルで清掃のバイト中、救急車のサイレンが近づいてくる。

(どうせ海で溺れたんだろ…)

 窓から外を見ると…

「アカンやつや…」

 砂浜に集まる揃いの競泳パンツ集団、そうライフセイバーの方々である。

 何がアカンのか?

 4階の窓から見える浜辺の様子。

 心肺蘇生の真っ最中なのだが、心臓を押してるばかりで誰も息を吹き込まない。

(きっと溺れたのは男だ…)

 悟ったのである。

「アレは助からん…」


 大半のライフセイバーなどバイトの学生である。

 美人だったら蘇生確率が高い…いや私見です。


 そして…夕方のニュースで流れた結果は『死亡』である。

(だろうな…60代~70代男性じゃあな色々な意味で助からん、手遅れだったかもしれないし)

 人は金と容姿で対応が変わる…これは、どんな綺麗ごとを並べても現実はこんなものだ。

子供の頃から、事故現場には、よく出くわす。

そのせいか、どうもフレッシュな死体に免疫ができている。


 何にゾワッとしたか?

 その同じ海岸で、他の海水浴客は…普通に遊んでいるのである。

 その光景に思わずバイト中に苦笑してしまった。


 この光景こそ現実なのだ。

 老人の水死体の脇で子供が浮き輪で泳ぎ、男女が交わる…。


 こんな時期に遊びに来る連中の民度など、この程度なのだ。

 ライフセイバー…命を残す者

 違うだろ?

 命の刃…つまり生死を選ぶ者じゃないのか?

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