大聖女様 世を謀る!

丁太郎。

1話 大賢者である私は実は魔女だったらしい。

 私、ロゼシアスタ(仮)は大賢者

 名前が(仮)なのは魔道士なら当然の用心だったりする。

 名前(本名)には力がある。

 よって呪いに利用される。

 だから私も複数の偽名を使い分けている。

 ロゼシアスタもその中の一つなのだけど、私はこの名前で少々有名になりすぎてしまった。

 魔導の頂きは未だ遥か彼方ではあるが、この世界で私以上の魔道士はいないという自負がある。


 数年前、人類は魔王の侵略により危機に瀕していた。

 私は勇者という神の力を授かる者を召喚した。

 私はロゼシアスタとして、勇者と共に他の仲間を引き連れ魔王を打倒した。


 私は人々から大賢者と言われるようになった。

 大賢者。いい響き。私はこの呼ばれ方は好きだ。

 世界の国々は 私達を厚遇してくれたが、いささかスカウトとか鬱陶しくなってきた。

 弟子をとるつもりもないし、国に所属するつもりもない。


 私は世がおちついたなら、研究三昧の生活に戻りたかった。

 私は勇者を元の世界に返し、人界から離れた辺境の地で魔導の研究に明け暮れた。


 そんなある日、ある程度は予想していた事態が起きた。

 どこの国にも所属しない私を、危険視した国が現れたのだ。

 その国の国王はかつて魔王討伐で一緒に戦った仲間だった。

 その男、ティーバが野心家であったのは知っていた。

 だからこうなることも想定済みだ。


 勇者を元の世界に返したのも、いや、返したからこそこうなってしまったのかも知れない。

 ティーバは勇者アヤメに惚れていた。

 しかしアヤメはティーバの事はただの仲間としてしか見ていなかったし、元の世界に帰ることを望んだ。

 ティーバは私がアヤメを元の世界に返したことを恨んでいるだろう。

 同じ人物を再召喚できる確率は天文学的数値分の1だ。

 もはや0といって良い。

 ティーバは、私の居場所を執念深く突き止め、

 私の研究所に攻め入って来たのだ。


「ティーバ。いえティーバ王お久しぶりね。王自ら私ごときを捕らえに来るとは光栄なことね」


「ふん、捕らえに来たのではない!魔王にも劣らない危険な魔女を討伐するのだ!昔の仲間だからといって容赦はしない」


「あら、私って魔女だったのね。初めて知ったわ。それに随分とお連れさんが多いわね。魔女がそんなに恐ろしい?」


「私がお前を恐れるだと?痴れたことを!」


「でも足が震えているわよ?」


「な!」


 ティーバの足が震えている。

 が、これは私の魔術によるものでティーバの足を強制的に震わせている。

 ちょっとした お茶目なイタズラである。


「ぷ!ククク、アハハハ!」


「魔女め!恐れることはない!殺れ!」


 しかし、ティーバ王の家来達は動かない。

 いや動けないのである。

 私が動けなくしたのだから。


「私のお話に付き合ってくださってありがとうございますティーバ王。おかけでこの場にいる全員に拘束と麻痺をプレゼント出来ましたわ」


「馬鹿な!詠唱も無しでそんな真似が」


「あら、魔王の討伐の時はわざと詠唱していたから知らなくても当然よね」


「クソ!動けん!」


「どうする?ティーバ。口だけは動く様にしてあげているのだから是非聞かせて欲しいわ」


 ティーバは少し考えた後、口を開いた。


「…ロゼシアスタよ!その力ここで終わらせるのは惜しい。どうだ、俺に仕えないか?この外にも部下は大勢いる。どの道お前に逃げ場は無いぞ!」


「うふふ。なにそれ?がっかりかな。もう終わりに」


「待て!早まるな!」


「からかってゴメンなさいね。どのみち手の内を見たあなた方は生きて帰れないの」


 私は私を取り囲む様に青い炎を出現させる。


「青い炎!」


「知ってるでしょ?この炎は骨も残さず燃やし尽くすわ。一緒に逝きましょう」


「やめろ!やめてくれ!」


「あら、つれないわね。なら貴方一人でお逝きなさい。私も別の場所に行くから」


 私が指をパチンと鳴らすと、ティーバの家来たちはこの場から姿を消した。

 私が安全な場所に転移させたのだ。


「私は貴方に魔女として火炙り刑で処刑された。歴史的にはそれでいいわ。でも貴方には代償を払って貰う」


 私の足元には魔法陣が広がっている。

 準備オッケー。

 あとは死ぬだけである。

 青い炎は痛みを感じる間もなく燃やし尽くしてくれるだろう。

 ティーバには私の条件付き魔術がかけてある。

 あるキーワードを発した瞬間に発動する。

 コイツはきっと言うだろうな。

 野心家だから。


「見送りが貴方なんて最悪だけど我慢するわ。じゃね! ティーバ」


 後のことはもうどうなろうと私の知った事ではない。

 その言葉の後、私は瞬時に灰すら残さずに燃え尽きた(はずだ)。


 ===============


「なんだったんだ。 兎に角脱出だ」


 動ける様になったティーバはすぐに脱出した。

 魔女の研究所は自ら放った炎で燃えている。

 資料は何も残らないだろう。

 家来達の元に戻ったティーバは高らかに宣言する。


「魔女は私自ら火炙りの刑に処した!これで世界は安泰だ!」


 湧き上がる歓声!


 ヒューーーーーーー       ドーーーン!!


 突然、燃え盛る魔女の研究所の方から大きな音がする。

 見れば 大きな打ち上げ花火だった。

 一発目が大輪を咲かせると2発目、3発目と次々に打ち上がる。

 魔法が込められた花火は幻想的で美しかった。

 皆が見入ってしまった。

 この花火はロゼシアスタが自分の門出を祝って用意したものだが、そんなことはティーバにわかる筈もない。


「魔女め!なにを考えて…」


 忌々しげに放った言葉も途中で止まる。

 それほどに美しい花火だった。

 

 歴史書によれば、ティーバ王は魔女を火炙りにした後、王都に凱旋。

 翌年、突然発火し謎の死を遂げたという。


 ===============


「ふーん やっぱ死んだんだ。仕方ない奴だね」


 元ロゼシアスタの私は歴史の本を呼んで顛末を知った。


「世界を我が手に!」


 言葉に出してみる。


<まさか、一言一句違えずに言うなんてね!びっくりだね>


 半分は冗談だったんだけどね。

 ロゼシアスタの時代から、500年後の世界に私は転生した。

 さて、この人生ではどう生きようか。

 前途洋々の未来が待っている筈だ。

 私は、これからの人生に期待を膨らませるのだった。

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