31話 私は兄様に頼んでみる
聖女学園で学園祭を開催する計画が動き出した。
学園側への働きかけは、ルーミラお姉さまに丸投げしてしまったけど、騎士学校方は私の方で話を持っていく事になった。
兄様に頼むよりは、トレーニ様に頼んだ方が話が早いとは思う。
なんと言っても3大公爵家のリッシルト家の影響力はユニスリー辺境伯家より強い。
トレーニ様のお父君は騎士学校の理事のお一人でもある。
でも、私個人にはトレーニ様に直接お話する事が出来ない。
私の力で直接通話などもっての外。
結局兄様を通じてでしか、お会いする手段が無いのだ。
そして、兄様は面倒な人だ。
私からトレーニ様に会いたいと言ったらどんな反応をするのか想像に難くない。
はぁ、取り敢えずは兄様にお話するしかなさそうだ。
全てはアイリの為と判って貰うところからの話だわね。
休暇前試験の前日の日曜日、私は兄様に会いに来ていた。
「リリー、今日はどうしたんだい?僕に出来る事なら何でも言ってくれ」
「兄様ありがとう。兄様はアイリの将来の夢を知っていますか?」
「以前にアイリから聞いたよ。聖女学院にいるのだからね。聖女様になりたいのだろう?」
「はい、では聖女様に選ばれる為にはどうしたらいいと思います?」
「質問ばかりだね。当然、審査員に認められる事さ。聖女様になるにふさわしい才能があるとね」
「はい、そこで私はアイリに才能を発表する場を与えたいの」
「なるほどね。でも皆平等に発表する場を与えてもアイリが聖女に選ばれると思うかい?」
「はい、必ず。それにしても兄様は察しがいいです」
兄様は、頭が良い。
シスコンだけが玉に瑕。
私は詳しい計画を兄様に説明する。
「聖女学園で学園祭を開き、騎士学校の生徒を観客にしたい…か」
「はい、兄様の力で騎士学校の校長様とお会いできる様になりませんか?」
「ああ、校長より効果の在る人を知っている。ひょっとしたら会えるかも知れないから今から出かけよう。会えなくても伝言を頼めるからね」
「ええ、是非にお願いします」
ーーーーーーーーーーーーーーー
私が連れて行かれたのは、トレーニ様が連れて行って下さったあのレストランだった。
「先輩やってますか?」
「ああ、ダンベルか。やってるぞ」
私は兄様にエスコートされてお店の中に入った。
「お?この間のお嬢さんじゃないか」
マスターさんの驚く声に、『あ、しまった』と思った。
私とした事が今日はメイドの格好ではなかったのだ。
兄様にお願い事をするのにあたり、兄様好みの白のブラウスに青系のスカートというお嬢様スタイルで、髪もいつものアップではなく、これまた兄様好みのポニーテールにしていた。
髪を纏めるのは当然兄様好みのリボンである。
個人的にはアップの方が活動するのには楽なのですけどね。
話を戻すけど、先日トレーニ様の侍女としてマスターさんに接したので、今日兄様と訪れた事で驚かしてしまったのだろう。
「先日はありがとうございました」
「ええと、どういうことだ?」
前回はリッシルト家の侍女になりすましていたけど、それを押し通すのは苦しい気がする。
「リリーは妹なんですよ。先日トレーニと一緒に来たと聞いていますが」
「ああ、なるほど。噂のユニスリー家のご令嬢様だったのか。先日の事も納得がいった」
兄様は心配で後をつけていたのでしょう?白々しい。
あとマスターさんの言う噂がどんなものなのか気になるわ。
もし、アイリに不利になるような内容なら手を打たないと。
「私、噂になっていますか?教えて頂けませんか?」
私の言葉に兄様が苦笑した。
シスコン変態の兄様から見ても私は変わり者って事かしら?
「妹御のお付きのメイドとして聖女学園にやって来た天才で、聖女学園で教師にも授業する美しきご令嬢って話だな」
「え」
そのエピソードも噂になっているのね。
確かにあれだけの人数を巻き込んだのだから隠してはおけないだろうけど。
「ここに来る騎士連中もひと目見たいと言っているんだが、ダンベルの壁が高すぎでな」
「当たり前です。リリーに近づきたいなら、僕に勝ってからにしてもらわないと」
「兄様!」
兄様のシスコンが騎士さん達にバレていないでしょうね。
「いやはや、なる程なる程、先日も思ったがこれは大層美しいお嬢さんだ。トレーニが惚れるのも判る。先日のは買い物以上、デート未満って感じか?」
あ、マスターさん鋭いわ。
やっぱりトレーニ様は私に……でも私は……
「考え過ぎかもしれませんが、トレーニ様も兄様も人気の騎士様なので妹にまで飛び火すると困ります」
兄様の人気を利用しているとは本人が目の前にいるので言わないでおこう。
兄様を図に乗らせてしまう。
「まぁ、そうだな。でも兄妹そろって見目麗しいのは羨ましいことだが、似てはいないんだな。特にお嬢さんの髪の色はこの国では珍しい」
「言われてみれば、そうでですね。ずっと当たり前に過ごしていたので気づかなかった」
マスターの言葉に対する兄様の言葉同様、私も今まで不思議なくらい何の疑問も持たなかった。
その点を指摘された事が只の一度も無かったから。
言われてみれば、家族の中で私だけが髪の色が違った。
アイリと父様は明るい茶色で、兄様と母様はブロンド、私だけが銀色だった。
顔も父様や母様とも違う系統の気がする。
「いや、ちょっと思ったことを言っただけだ。あまり深刻にならないでくれ。今日は俺に何か用があって来たんだろう?」
「ええ、そうでした。先輩、今日は殿下は?」
「お前だから言うが、今日はもう帰られたよ」
「そうですか、一足遅かったとは。先輩、伝言を頼まれて頂けませんか?」
兄様がマスターさんに頼み事をしている。
あの言葉以降、私は頭が働かなくなってしまい……
気がつけば馬車の中にいた。
「リリー?」
「あ、兄様ゴメンなさい」
「今日はもう寮まで送って行こう。深刻になってはいけないよ。
リリーは間違いなくユニスリー家令嬢リリエナスタ、僕の妹で間違いないんだ」
「兄様ありがとう」
どうしてしまったのだろう?
私は気がつけば自ら兄様に身をよせ、その胸に顔を埋めてしまった。
兄様は抱きしめるでもなく、優しく手を回し、ただただ頭を撫でてくれた。
「騎士学校の件は全て僕に任せてくれ。必ずいい連絡を持っていくよ」
「はい、ダン兄様……」
兄様の優しい言葉に私は甘えた返事を返すことしか出来なかった。
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(天使たちの会話)
「しまったッス。あのレストランのマスターに力を使うのを忘れてたッス」
「ミッチェル様、今までリリーに接する人に認識操作してたんですか?」
「どういうことです。先輩?」
「聞いたとおりっすよ。周りがリリーの容姿に疑問を持たないようにしてたっス」
「それってやっぱり」
「まぁ、神様には話してもいいと言われているッスからね。いい機会なので話しておくっす」
天使たちはリリーがダンベルに優しく頭を撫でられているのでリリーから離れていた。
ミッチェルはルコーとキャペンに事情を簡単に説明した。
「……という訳ッス。リリーに気づかれたのと思うスッけど、どうするべきッスかね?」
「どうもこうもないんじゃ?」
「何か問題あります?」
「うーん、無いッスね。彼女自身の問題っス」
「居心地悪くならなきゃいいじゃない?」
「そうそう」
「きっとリリーならこれしきの事、乗り越えるッスよね」
天使たち脳天気なのだった。
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