15話 私とアイリの王都生活一日目 2
私達は大通りに向かって歩いていた。
「本当に追い出されてしまったわね」
「お姉様が急に抱きつくからですよ」
「そうね。ごめんなさい」
「お姉様、怒ってないです。ションボリしないで」
「うふふ。アイリは優しいわね」
などと会話をしながら大通りに向かう。
大通りにつくと、交通量の多さに圧倒されまくる。
「お姉様、凄いです!」
「ほんとね!凄い人と馬車」
私達はキョロキョロとお上りさん丸出し。
道も綺麗に舗装されていて歩きやすい。
大通りを王都の中心の方に向かって歩いてくと、大通り程では無いものの大きな道が交差している
場所、交差点に着いた。
どちらに行くべきか?
案内表示によると左に曲がれば市場に通じている様だ。
王都に来る前に、一通り王都の地図を頭に入れてきてはいたが、
実際に来てみると地図ではわからないことが多いと思い知った。
因みに前回の人生では王宮暮らしだったので王都の地理には疎いままだった。
「お姉様。市場に行ってみませんか?」
「ええ、そうしましょうか」
私達は市場の方に向かって歩き出す。
市場は通りの先が見えないほど続いており、多くの人で賑わっている。
「お店が多すぎて何を見ていいのか判らないですね」
「本当ね」
王都の賑やかさに圧倒された私達は途方にくれてしまった。
その時、私達の横を足早に通り過ぎていく、女性達の会話が聞こえた。
「ダン様の決闘始まっちゃう。急ぎましょう!」
「ええ、ダン様が華麗に勝つ瞬間は見逃したく無いわ」
ダン様? ダン兄様のことだろうか?
そういえば、兄様の手紙に馬上槍試合で連勝中というようなことがムニャムニャ書いてあった気がする。
「ねぇ、お姉様。決闘の話ってダン兄様の事でしょうか? 行ってみたいです」
「兄様かどうかは行ってみないと判らないけど行ってみましょうか」
ーーーーーーーーーーーーーーー
決闘では兄様が圧勝で終わった。
私は会いたいとか微塵にも思わなかったけど、アイリが兄様に会って勝利を祝いたいと言い出したので控室まで会いに来たのだった。
「初めまして、私はコアトレーニン・リッシルト。お兄さんの友人をやらせて頂いている」
「初めまして、妹のアイリス・ユニスリーです」
リッシルト公爵家の嫡男、コアトレーニン様。
兄様と仲が良いことは父様から聞いていたけど、初日から遭遇してしまうとは。
ここは メイドとして押し通したほうがいいかしら?
私は一礼して名乗りはしなかった。
コアトレーニン様はじっと私を見ている。
私の正体に気づいている?
だとしたら私は無礼を働いていることになる。
どうしようか迷った時、助け舟をだしてくれたのは兄様だった。
「よかったら寮まで送っていくよ」
「お兄様いいのですか? 是非お願いします」
<えー このシスコン連れてくの?でもアイリが決めた事ならお姉ちゃん耐えてみせるわ>
しかし、その前にやっておかなければならない事がある。
試合にて私を見ただけで妹ゲージが振り切り超兄様化してしまった。
きっと妹分に飢えているのだろう。
これを放置しては、可愛いアイリに手をだしてしまうかも知れない。
私はアイリの為人肌脱ぐことにした。(本当に脱ぐわけではない)
「ダン様。少し、いいでしょうか?」
「あ、ああ、なんだい?」
私は兄様を控室から連れ出す。
控室から少しだけ離れ、人気の無い通路に行く。
「リリーどうしたんだい?」
「ダン兄様、兄様のいうところの妹分は足りていますか?」
「リリー! 嬉しいよ。気にかけてくれていたなんて」
言うなり、兄様に抱きしめられる。
ん!、これもアイリの為。
控室に戻った時、コアトレーニン様は怪訝そうな表情だった。
アイリは普通だったので、コアトレーニン様がアイリに何かしたという事はなさそうだ。
兄様は、満足そうだ。
実に晴れ晴れとした表情。
逆に私はげんなりしているんだろうきっと。
「さぁ、行こうか!」
「お兄様、お願いします」
「トレーニじゃあね。僕は妹達を送っていくから」
「いや、俺も行く。護衛は多い方がいいだろう」
「え、あの、送って頂くなんて申し訳ないです」
アイリのトーンが下がる。
申し訳ないというよりは、アイリの人見知り故の発言だと思う。
アイリにしてみれば、折角兄妹3人が久しぶりに揃ったのを邪魔されたくないという思いもあるだろう。
ここはお姉ちゃんの出番ね。
「折角、久しぶりの兄妹水入らずなんだ。積もる話もあるし、今日は遠慮してくれないか?」
私が出る幕もなく、ダン兄様が断ってくれた。
驚く私に、兄様がウィンクした。
どうやらアイリの想いを尊重してのことらしい。
<兄様め、私の役どころを!>
そんな私達のやりとり?をコアトレーニン様はじっと見ていた様だった。
「そうか、わかった。だが後日正式に挨拶させてくれ」
「済まないね。じゃあ僕達は行こう」
「申し出有難うございました。では失礼致します」
ペコリとお辞儀をするアイリ。
可愛すぎる!
私も一礼し、2人の後に続く。
結局今日の私は、美味しいところを全てお兄様に持っていかれてしまった。
アイリがそれで喜んでいるのだから、この思いは私の我儘。
私は楽しそうに話しながら歩く二人の後でそっと力を使う。
アイリの好感度ポイントランキングがアイリの頭上に浮かび上がる。
1位はダントツで私。
良かった。そこは一安心。
しかしなんと、今まで家族の中でのランキング最下位の兄様が
2位に急浮上している!
なんてことなの!
このままでは可愛いアイリが妹たらしの兄様の毒牙にかかってしまう。
とはいえ、アイリも12歳。
異性に興味を持ち始める頃。
人見知りのアイリにとって身近な異性は兄様だけ。
きっと今日の試合で圧倒的に勝利し、モテる兄様を見て鼻が高かったのだろう。
今はじっと様子を見るべきだろうか?
「どうしました?お姉様」
「仲のよい兄様とアイリをみて嬉しいの」
<お姉ちゃん嘘ついてる。ごめんねアイリ>
「お姉様もお話しましょう? 兄妹が揃うのは久しぶりなんですから」
「ああ、そうだね。僕が騎士養成学校に入学したのはアイリが4才のときだった。こんなに素敵なレディになっているなんてね」
「お兄様! からかわないで下さい。私より、お姉様の方が素敵なレディです」
「お姉ちゃん。アイリに褒められて嬉しいわ。でもアイリも兄様の言うとおり素敵よ」
「もう、二人そろって恥ずかしいです」
ああ、兄妹でこうして会話するのは久しぶり。
アイリはとても楽しそう。
お兄様が居ることがアイリをそうさせているのなら、今だけ、たった今だけは兄様に感謝することにします。
<ダン兄様有難う>
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ちなみにリリーが兄に感謝した瞬間、ダンの妹ゲージは少しだけ上昇した。
しかし、流石にリリーもその事には気づかなかった。
「まあ、どうでもいいっすねぇ」
とはミッチェルの言葉だった。
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3人の居なくなった控室。
申し入れを断られた俺は帰らずに立ち尽くし、ダンベルの妹御に付き添っていたメイドについて考えていた。
あのメイドはどこのご令嬢だろうか?辺境伯ご令嬢のメイドならそれなりの家柄のはず。
だったら、多少家柄が釣り合わなくてもなんとか公爵夫人に迎えられるだろう。
あの所作、歩き方、完璧だった。
基本どころではない完全に自分の物になっている感じだ。
あれなら公爵夫人として恥ずかしくないどころか王妃でも恥ずかしくないだろう。
なによりあの美しさ。
美しい声。
「この俺が一目惚れしてしまうとはな」
それにしても、ダンベルとはどういう関係だろうか?
ダンベルも久しぶりに会ったような感じだった。
まさか許婚か?
しかし彼女のダンベルに向ける視線は、アイリ嬢にむける慈愛に満ちたものではなく冷たい視線だった。
それでいて気安い関係の様でもある。
「わからん。だが気になる」
こうなったら、ダンベルに直接聞くしかあるまい。
彼女を正式に紹介してもらおう。
と、考えた時に閃くことがあった。
そうだ!アイリ嬢は聖女学園に入学する。
彼女はそのお付きのメイドだろう。
ということは名簿を見れば彼女の名前もどこの家のご令嬢なのかも判る。
「我ながら愚かなことだ、恋は盲目とはよく言ったものだな」
自嘲気味に呟くが想いは止まらない。
そうなると、こんなところには居られない。
俺は逸る気持ちを抑えられず、足早に控室から出ていくのだった。
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控室は無人となったが一人の天使が居た。
キャペンである。
「やっぱりねー。そうじゃないかと思ったのよ。面白くなりそうだわ。ミッチェル様にご報告しなきゃ」
天使達は恋愛沙汰が大好きなのであった。
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