ACT2

 俺は目を伏せ、シナモンスティックの袋を開け、シガレットケースに詰め治し、ふたを開けたまま彼女に、


『拾って下さったお礼替わりです。如何ですか?』


『有難う、じゃ、頂きます』


 彼女はそう言って、薄いピンクのマニュキアをした指で一本つまみ上げて口に咥えた。


『おかしいわね』彼女が小さく笑った。


『何故?』


『煙草の代わりにシナモンスティックなんて』


『変わり者なんですよ。』


『その点は私も似たようなものね』


 彼女の所に湯気を立てたコーヒーカップが運ばれてきた。 


 年のころは30の終わり、或いはそれ以上かもしれない。だが、小作りの顔が、歳よりも若く見せている。


『誰かをお待ちで?』


『待っていると言えば待っているのね』


 ひどく曖昧な言い方だ。


『貴方は?』


『特に誰も、単なる暇つぶし・・・・いや、待ってるといやあ、待っているのかな。酒場が開くのをね。』


『酒が恋人ってわけ?』


『そう思ってくれても構わん』


 彼女はそこでまた小さく笑った。


 店の客はひっきりなしに減ったり増えたりしている。ここは銀座だ。長っ尻でコーヒーを楽しもうなんて、このご時世にいやしない。


 客が半分に減った頃、またドアが開いた。


 彼女の視線がそちらに移る。


 2人連れの男だ。

 

 一人はサングラス。一人は髪を短く刈り上げている。


 銀座という雰囲気に、妙に似つかわしくない服装をしている。


 時刻はじきに午後2時30分になろうかとしていた。


 二人が入ってきてから、女の視線、いや全身で彼らを注視しているのが、俺にも分かった。


 二人のうち、一人はしきりにウィンドの外を気にしている。


 もう一人は腕時計を覗き、時間を計っているようだ。


 道路を挟んで、『コジマヤ』の斜め向かいには、東都銀行の看板が見える。


 時計の針が午後2時半を指した。


 男たちが荒々しく椅子から立ちあがり、入口の方へと向かった


 殆ど同時だった。


 彼女も立ち上がり、小走りに後を追う。


 小柄な女が、二人の隣を難なくすり抜け、前に立ち塞がる。


『どけ!』


 サングラス男が叫び、懐から鈍く光るトカレフを抜いた。


 だが、それより早く、彼女は腰から銀色のワルサーを抜く、


 静かな店の空気を弾けるような銃声が切り裂いた。


 銃声と同時に、サングラス男は脇腹を撃たれてのけぞるように倒れていた。


『こいつ!』


 短髪男が取り出そうとしたのは、マック10半自動式機関短銃だった。


 最初の銃声がして間もなく、俺も駆け出していた。


 今日はオフだ。


 探偵がこんな日に拳銃なんか持ち歩いてやしない。


 だが、運のいいことに警戒棒だけは持っていた。


 腰から一気に引き抜くと、俺は短髪男の肩に一撃を加えていた。


 店の中が騒然とする。


 拳銃を構えたまま、彼女はもう片方の手で、何かを懐から取り出した。


『静かに!早く警察に連絡を!私は探偵です!』


 


 


 



 

 

 

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