揺れる想い




誰がそんな風に思うんだよ。お前には寧ろ感謝してるよ。試練の時も俺を助けてくれたんだからな。



自分に対するヴェルラウドの言葉が頭に過りながら、森の中を駆け出すスフレは不意に躓かせ、転倒してしまう。

「ったぁ……」

左足を擦り剝き、八つ当たりするように石ころを蹴っ飛ばすスフレ。溜息を付きながらもその場に座り込むと、目から再び涙が浮かび上がった。

「はぁ……何やってんだろう、あたし」

スフレはヴェルラウドに叩かれた頬を抑えながら、涙を溢れさせる。ヴェルラウドとレウィシアの関係性を疑う余り、苛立ちを募らせた上に嫉妬心を剥き出しにしてしまい、ヴェルラウドと衝突して神殿から飛び出してしまった。同時にヴェルラウドの自分に対する本当の想いについて考え込んでしまう。

「……やっぱりあたしなんてただの鬱陶しいだけの女でしかないのよね。あたしよりも、レウィシアの方がよっぽど魅力的だものね。レウィシアはお姫様だし、顔のいい騎士様のお相手がお姫様だと絵になるんだから」

膝を抱え込み、ただ一人森の中で落ち込んでいる自分という状況となったスフレは惨めな気分になってしまう。自分が招いた事とはいえ、正直今の気分では戻りたくない。そんなスフレを嘲笑うかのように、僅かに雨が降って来る。

「……試練の時だって感謝してるとか言っておきながら、内心鬱陶しいと思ってたんじゃないの」

小雨が降る中、スフレは足元の小石を徐に投げつける。スフレは更に惨めな気分に陥り、嗚咽を漏らし始める。その時、一匹の犬が鼻を鳴らしながらスフレの元へやって来る。

「……何?食べ物は持ってないわよ」

犬はスフレに擦り寄っていく。首元には粗末な首輪が付けられていた。

「ロロー!どこなの?ロロ!」

何処からか聞こえてくる少女の声。犬はその声に反応し、ワンワンと吼え始めた。

「あ~、こんなところにいた!ロロ!」

ロロと呼ばれた犬はシッポを振りながら少女の元へ駆け付ける。外見では十歳前後だと思われる幼い少女であった。

「あなたが飼ってる犬?ダメじゃない、目を離しちゃ。こんな森の中で迷い込んだりしたら魔物に食べられちゃうわよ」

スフレが少女に軽く叱る。

「ごめんなさい……お散歩してたら、この子がいきなり走り出したから……」

少女は申し訳なさそうに俯く。

「あーもう!そんな顔しないで!今度から気を付ければいいんだから!」

スフレは少女に近付き、安心させるように笑顔を向ける。ロロはシッポを振りつつもスフレの足元に鼻を寄せていた。

「あは、可愛い!人懐っこいのね」

足元にいるロロを見て心が和んだスフレはそっと撫でる。

「ありがとうお姉ちゃん、ロロを見つけてくれて」

少女が礼を言う。

「いいよ、お礼なんて。あたしが此処にいたのを、たまたまこの子が見つけただけなんだし」

ロロは鼻を鳴らしながら少女の足元へ向かう。スフレは少女の背丈に合わせるようにしゃがみ込み、そっと顔を寄せる。

「ところで、あなたは何処の子?」

「ブレドルド王国だよ」

「よかったらあたしがお家まで送ってやるわ!この辺は魔物がいるし、小さい子が来るようなところじゃないから」

少女を家まで送る事にしたスフレは少女と手を繋ぐ。

「あたしはスフレ。あなたは?」

「わたし、アイカ」

スフレはアイカと手を繋いだままロロと共に森を抜け、ブレドルド王国へ向かって行った。



一方、神殿ではマチェドニルと多くの賢人がスフレを探していた。が、スフレは既に神殿から飛び出していた故、神殿内からは見つける事は出来なかった。

「スフレよ、こんな時に何処へ行ったというのだ。ならば……」

マチェドニルは一呼吸しつつ静かに念じる。精神を集中させる事で半径数キロ程の範囲内に存在する魔力を感じ取る能力であり、スフレの魔力を探っているのだ。



ヴェルラウドは、ぼんやりとした様子で椅子に座っていた。その隣には、腕組みをしたオディアンが座っている。ベッドの上で両足の痛みに喘ぐヘリオ。その様子を黙って見守るテティノとラファウス。リランはスフレの事を気に掛けつつも、ヴェルラウドの傍でリヴァンの手記を眺めながら考え事をしていた。

「……なあ、オディアン」

「何だ?」

「正義って、何なんだろうな。お袋と親父の戦いは……本当に正しかったのかな」

ヴェルラウドが俯き加減に呟く。ヴェルラウドの心には、闇王の『人間の愚かな正義のままに災いを呼ぶ者と認識され、そして滅ぼされた』という言葉が引っ掛かっていた。邪神によって生み出された種族とはいえ、父と母を始めとする人間の英雄達が世界の平和を守る使命と正義に従い、闇を司りし者を災いを呼ぶ存在として根絶やしにする事を考えなければ闇王達の運命、そして自分の運命は違っていたのではないかという考えが頭から離れないのだ。

「エリーゼ様やグラヴィル様の判断は正しかったのか否かと問われると、俺にも明確となる答えは見出せぬ。だが……お前の正義とは何たるかという問いに答えるならば、正義は必ずしも正しいものになるとは限らぬという事だ。個人的な考えに過ぎぬが」

オディアンの言葉を受けてヴェルラウドは黙り込んでしまう。

「英雄達の判断は、決して否定は出来ぬ。賛同するわけでも無いが」

そう言ったのはリランであった。

「……彼らが戦わずとも、いずれ人との争いを生む事になる。人と相容れぬ魔は、人との争いは避けられぬ宿命。父がそう述べていた」

リランは父リヴァンから聞かされた事を全て打ち明ける。闇を司りし者は冥神の創生の力で生み出された存在。例え英雄達が戦わずとも、いつかは冥神による邪悪なる意思と力が目覚め、人と争い、そして冥神に並ぶ脅威が生まれ、冥神そのものを目覚めさせると。

「世界の平和を守る為に災いをもたらすものを根絶するという使命は、正義の心によっていずるものというのもあるだろう。真に恐ろしいのは、誤った正義による歪みだと私は考えている。正しき形の正義もあらば、己の身勝手さによる正義も存在する。身勝手な正義は、望まぬ悲劇へと繋がるのだからな」

聖杯に注がれた水を口にするリラン。

「……誤った正義……か」

ヴェルラウドが考え事をすると、マチェドニルがやって来る。

「今解ったぞ。スフレはブレドルド王国へ向かっているようだ」

「何!?」

声を張り上げるリラン。スフレの魔力を探り当てた結果、今いる場所を突き止める事に成功したのだ。

「やっぱり連れ戻すのか?僕は面倒だからちょっと遠慮させてもらうよ」

そう言ったのはヘリオの様子を見ていたテティノだった。

「俺が行く。何があるか解らぬからな」

オディアンが立ち上がる。

「ならば私も行こう。皆は此処で待っていてくれ。大勢で行く必要は無い」

オディアンと同行しようとするリランはふとヴェルラウドを見るものの、ヴェルラウドは黙って俯き、その場を動こうとしなかった。リランは仕方ないと思いつつも、オディアンと共に部屋を出る。

「おいヴェルラウド。もしスフレが戻ってきたら流石に謝った方がいいんじゃないか?今は揉めてる場合じゃないだろ?」

テティノがヴェルラウドに声を掛ける。

「……悪いが今は何も口出ししないでくれ。これは俺自身の問題だ」

俯いたまま返答するヴェルラウド。

「そ、そうか。悪かったな。でも、せめて仲直りはしてくれよ」

気まずそうに下がるテティノ。

「私はレウィシアと打ち解けて欲しいと思うのですがね……あの子、レウィシアには攻撃的ですから」

スフレへの不信感と併せ、レウィシアとの関係性の悪さにラファウスは不安な気持ちを拭えずにいた。テティノは周りの不穏な状況にストレスを感じる余り、溜息を付いてしまう。

「それにしても、レウィシアはまだ戻らないのでしょうか」

外に出たレウィシアの様子が気になり始めるラファウス。

「ふむ……気のせいか、何か妙な予感がする。オディアンとリラン様が向かうのは正しい判断かもしれぬ」

マチェドニルは不意に悪い予感を覚え、表情が険しくなっていた。



外では、大雨が降っていた。スフレはアイカをブレドルド王国へ送ろうとしたものの、突然の大雨に見舞われ、壊れた納屋で雨宿りをしていた。

「はぁ、こんな時に大雨だなんてついてないわね」

スフレは膝の上にいるアイカにそっとマントを掛ける。傍らにはロロが舌を垂らしながら座っていた。アイカはスフレに心を許し、胸元に顔を寄せる。

「風邪引いたら大変だからあたしの傍にいてもいいのよ」

「うん、ありがとう。スフレお姉ちゃん」

スフレはまるで妹が出来たような気分になり、笑顔でアイカの頭をそっと撫でる。

「ねえ、スフレお姉ちゃんってどこの人なの?」

「あたし?この近くだよ。賢者様が住んでるとこ。あたし、こう見えても人を助ける賢者様なんだ」

「賢者さまって……いろんな魔法を使う人?」

「そうそう!色んな魔法で悪い奴らをやっつけたり、色んな人を助けたりする大魔法使いよ!このスフレお姉ちゃんは天性の才能を秘めた賢者様なんだから!」

明るい調子で言うスフレだが、アイカは突然浮かない顔をする。

「……わたしのお母さんを生き返らせることって……賢者さまでもできないのかな」

「え?」

スフレは思わず表情を凍らせる。

「わたしのお母さん……魔物に殺されたの。わたしの目の前で……」

アイカの一言に衝撃を受けるスフレ。次の瞬間、スフレの頭に浮かんできたのは、ケセルが放った魔物やガルドフ、レグゾーラ、バランガによるブレドルド王国襲撃事件だった。

「魔物のせいで王国が大変なことになったから……みんな魔物が悪いんだよね……お母さんを殺したのは魔物だから……」

悲しげに呟くアイカ。スフレはそっとアイカを抱きしめると、涙を浮かべる。

「……辛かったよね。まだ小さいのに……。あたしに……人を生き返らせる力があったら……」

「お姉ちゃん……?」

「もし何処かにあなたのお母さんを生き返らせる力があったら、必ず見つけるわ。絶対に……絶対に見つけるから……!」

スフレの頭には、襲撃を受けたブレドルド王国の惨状と、闇王の城で魔物に変えられていた人々を殺してしまった事が過っていた。持ち前の使命感や闇王の城での出来事が影響してか、可能な限り何とかしてあげたいという気持ちが生まれ、涙を溢れさせる。

「スフレお姉ちゃん……泣いてるの?」

アイカに泣いている事を察され、涙を抑えようとするスフレ。

「……あたしの事は気にしないで。そろそろ雨、止んだかな」

スフレは笑顔を向けつつも、涙を拭いながら外の様子を見る。雨は既に止んでいた。



俺に出来る事があれば、何だってやるつもりだ。何だって、な。



スフレは空を見た瞬間、頭の中でヴェルラウドの声が過る。同時に、ヴェルラウドから様々な経緯を聞かされた事を思い出す。目の前で魔物によって惨殺されたクリソベイア王とリセリア姫、サレスティル王国のシラリネ王女を失ったという経緯。そしてブレドルド王国の襲撃の件で自責の念に駆られるヴェルラウドの事や、自分を責めたり過去に囚われたりしないという約束を交わした記憶が鮮明に浮かんで来る。

「あたし、本当に何やってんだろう。ヴェルラウドだって色々辛い目に遭ってるのに……その事を考えもしないで……」

ヴェルラウドの事を考えつつも自分の行いを振り返り、叩かれた頬が再び痛むような何とも言えない自己嫌悪に襲われる中、スフレは軽く息を吐き、今はやるべき事をやらなくてはと思いつつアイカとロロを呼び出し、改めてブレドルド王国へ向かった。



一方、スフレを連れ戻しに向かうリランとオディアンは外で佇むレウィシアを発見する。

「レウィシア王女!」

オディアンの呼び掛けに気付いたレウィシアが振り返る。両手は血で真っ赤に染まっていた。

「なんと、その血は一体!?」

「これは戒めだから気にしないで。ちょっと頭を冷やしていたの」

即座にレウィシアの両手に回復魔法を掛けるリラン。レウィシアは何事もなかったように振る舞うが、リランは心配そうな表情であった。

「私だったら大丈夫よ。何とか落ち着いたから」

「そうか。我々はスフレを探しに行く」

「スフレ?一体何が?」

オディアンが事情を説明すると、レウィシアは愕然とする。

「何ですって……そんな事になっていたというの!?」

ヴェルラウドとスフレが気まずい状況になってしまったのは自分がいるからだと思い、責任を感じて項垂れるレウィシア。

「レウィシア、君は余計な事を考えなくて良い。第一これは当事者同士の問題だ」

リランがそう言い残すと、オディアンと共にスフレを追おうとする。

「待って!」

レウィシアが呼び止める。

「私も行くわ。これ以上あの子に誤解されたくないから」

「しかし……」

「あの子は勘違いしているのよ。私とヴェルラウドは特別な間柄というわけじゃないのに。今は仲間同士でいがみ合ってる場合じゃないでしょ?」

誤解を解く為にスフレを説得しようとしているレウィシアの意向に承諾するオディアンとリラン。三人はスフレが向かう先へ足を急がせた。



ブレドルド王国は、魔物の襲撃による爪痕が沢山残されていた。所々破壊された建物。全焼した住居の痕。王の不在という事もあって王国全体が暗い雰囲気に包まれる中、修理に勤しむ者や酒場を憩いとしている者も存在していた。兵士とオディアンの部下であった戦士兵団は城内と城下町の警護に回っているが、その人数は数少ないものであった。そんな中、王国に三人の男がやって来る。人相は悪く、逞しい体付きをしたゴロツキの印象を受ける流浪の盗賊集団であった。三人の盗賊の狙いは城の宝であり、人気のない裏通りに隠れる。

「へっへっ、ここがブレドルド王国か?噂には聞いてたが、随分酷い有様だなオイ」

「なあ、本当に王家のお宝を狙うつもりかよ?この国って確か、剣聖の王とか呼ばれてる奴の国だろ?強い戦士とか沢山いるんじゃねえの?」

「ヒヒ、そこでこいつですよ」

盗賊の一人がクロスボウを取り出す。

「これで本当に大丈夫なのかぁ?」

「大丈夫だって。こいつは猛毒の矢を打ち出すんだからな。しかも鋼を貫く程の貫通力なんだぜ。多分人間だったら即死レベルじゃねえかなぁ?」

「マジかよ?」

「だったら試し打ちしてやろうか?」

クロスボウを持った盗賊の男が、街の見回りをしている兵士に向けて矢を放つ。矢は兵士の左腕に刺さり、兵士は倒れてしまう。

「ほれ、どうだ。チョロいもんだろ?」

「おいおい……どんな毒を仕入れたんだよ?」

「ラムスの闇市場から手に入れたものだよ。あそこは色んな薬品を売ってるからなぁ」

「ほお、なるほどねぇ」

盗賊の男が所持しているクロスボウの矢には、様々な薬品を合成して作られた猛毒が塗られていた。並みの人間には致死の毒となり、矢で射られた兵士は既に死亡していた。

「へへっ、ならばコソドロ作戦開始と行こうぜ。邪魔な奴らは毒矢でやっちまえ。いいな?」

「おうよ」

盗賊三人は人目を避けつつも、忍び足で動き始めた。



ブレドルド王国へ到着したスフレ達は人だかりを目撃し、何事かと近付いた瞬間、表情が青ざめる。盗賊が放った猛毒の矢に射られ、死亡した兵士で騒ぎになっているのだ。

「な、何よこれ……まさか、また魔物が現れたっていうの!?」

不吉な予感を抱いたスフレはアイカとロロを早く家に送ろうとする。

「スフレお姉ちゃん……」

「大丈夫よ、あたしが付いてるから。一先ずお家へ帰りましょう、ね?」

スフレはアイカの案内で家まで向かおうとするが、ロロが突然吠え始め、走り出す。

「ロロ!」

走るロロの後を追うスフレとアイカ。ロロが向かった先は、倒れている戦士の男がいた。男は、盗賊が放った猛毒の矢で背中を射られていた。ロロは倒れている男に顔を摺り寄せる。

「お父さん!お父さあん!!」

倒れている男は、アイカの父親であった。

「嘘でしょ……アイカのお父さんなの?」

愕然とするスフレ。泣き叫ぶアイカの声を聞いた人が次々と集まっていく。

「お父さあああああん!うわあぁぁぁん!!」

父親の遺体の前で泣き崩れるアイカ。

「……許せない……誰の仕業か知らないけど、絶対に許さない!」

怒りに震えるスフレはアイカの父親を殺した犯人を探そうと、人々に聞き込みを始める。コソコソと城の方へ向かっていた三人の男を見たという話を聞き、城へ向かう。



城では門番の兵士二人が猛毒の矢で殺され、城の警護をしている兵士や侍女も矢で殺されていた。城内に侵入した盗賊三人は城の宝物庫を探している最中であった。

「ったく、この城妙にややこしいな。宝は何処にあんだよ」

盗賊の一人が苛々した様子で言う。

「何やってんのよ、あんた達」

声の主はスフレであった。盗賊の一人がクロスボウを構え、矢を放つ。スフレは間髪で矢を回避し、炎の玉を投げつける。

「ぐおあ!な、何だてめぇ!」

「あんた達だったのね。街の兵士を殺したのは。絶対に許さないわ」

怒りのままに爆発魔法を放つスフレ。

「うぎゃああ!」

爆発魔法で吹っ飛ばされる盗賊達。

「おい、何事だ!?」

騒ぎを聞きつけた兵士二人が駆け付ける。

「みんな、下がっていて!」

思わず兵士に気を取られるスフレ。その隙を見つけた盗賊の一人がクロスボウから矢を放つ。

「がはっ……!」

矢はスフレの脇腹に刺さってしまう。更に盗賊が次々と矢を放ち、駆け付けた兵士達に命中させていく。

「うっ……か、身体が……これは……毒?」

倒れたスフレは猛毒によって全身が焼き付くような感覚に襲われる。矢を射られた兵士二人も倒れていく。

「ハッ、邪魔するからそうなるんだよ!」

吐き捨てるように言い放ち、盗賊三人は城の地下へ向かって行く。



「な、何……!?」

ブレドルド王国へ辿り着いたレウィシア達は、流浪の盗賊が放った矢で射られて死亡した犠牲者で騒然とした街の様子に愕然となる。

「また何かが起きたというのか……おのれ!」

オディアンは全速力で城へ向かう。只ならない状況を察したレウィシアとリランも後を追う。

「これはオディアン兵団長!」

「どうした!一体何事だ!」

「先程不審な男三人が城へ向かったとの事です」

「何だと!?」

戦士の話にオディアンは表情を強張らせ、足を急がせる。

「クッ、これは一体!」

矢によって死亡した城の兵士達の姿に驚くオディアン。レウィシアは兵士達の身体に刺さっている矢を抜き、呼吸を確認する。

「なんて事……みんな手遅れだわ……」

既に事切れていた事を知り、犯人への怒りを覚えるレウィシア。遠距離からの攻撃に備えつつも襲撃事件の犯人を探しているうちに、倒れているスフレを発見する。

「スフレ!」

リランが駆け付け、スフレの身体に刺さっている矢を抜き、呼吸を確認しようとするが、全身に毒を盛られている事に気付く。

「いかん、これは猛毒だ!」

解毒魔法でスフレの全身の毒素を消し去り、回復魔法を掛けるリラン。傷は塞がり、全身を蝕んでいた毒は消え、停止していた心臓が動き始める。リランの回復の力によって辛うじて一命を取り留める事に成功した。

「大丈夫だ。心臓は動いている」

一安心するレウィシアとオディアン。

「おい、まだかよ。早くしろ」

地下室に続く階段から声を聞いたオディアンは即座に走り出す。

「オディアン、気を付けろ!」

リランの声を聞かず、オディアンは地下室への階段を降りていく。階段を降りた先の通路に出ると、突然飛んで来る矢。オディアンは矢を戦斧で弾き飛ばし、現れたクロスボウを持つ盗賊男目掛けて戦斧を投げつける。

「ぎゃあ!」

投げつけた戦斧はクロスボウを持つ盗賊男の片腕を斬り飛ばしていた。片腕を切断された苦痛にもがく盗賊男に蹴りを叩き込み、床に落ちたクロスボウを戦斧で叩き壊す。

「何だ、どうしたんだ?」

荷物を抱えた二人の盗賊男が現れると、オディアンは即座に大剣で斬りつけていく。

「うぎゃあ!」

「ぐおああ!!」

一瞬で斬りつけられ、倒れる盗賊男。二人の荷物の中身は、城の宝物庫から奪った金品であった。

「こんな賊どもの仕業だったというのか……」

盗賊男が抱えていた荷物を調べ、宝物庫の金品を確認しては壊されたクロスボウの矢を更に戦斧で破壊していく。

「オディアン!」

意識が戻らないスフレを抱き抱えたレウィシアとリランがやって来る。

「たった今、犯人を捕らえました。全てこいつらの仕業だったようです」

オディアンは盗賊三人の身柄を確保し、兵士と共に地下牢へ運んで行く。

「愚かな事だ。罪無き民の命を奪ってまで王家の宝を狙う賊まで存在しているとは」

やるせない怒りに震えるリラン。レウィシアはスフレを抱いたまま、二年前のクレマローズの出来事———パジンの手引きで太陽の輝石を奪ったガルドフとムアルの一件を思い出していた。

「まずはスフレを安静にさせなくては」

リランとレウィシアはスフレを安静にさせようと客室へ向かった。

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