しろくま雑貨店
たいしたものはないくせに
なんでもあるのがこのおみせ
売るのも買うのもだいかんげい
あなたがたからと出会えるように
いつでもおみせで待っています
それが「しろくま×××店」、
きっとあなたのすぐそばに
*
「鳥の羽を拾ったんですが、鳥アレルギーなんです」うつむいたまま、手袋ごしに羽に触れる少女。どうしてか捨てることができず、途方にくれています。じゃあぼくが、引き受けてあげましょう。そうしてうまれたのが、このブローチでした。手放せなかったあのこのように、ふしぎと人をひきつける、ちょっとおかしな魔法つき。悪用されてはいけませんから、売ってもだいじょうぶな人にだけ、お見せしています。もっとも、だいじょうぶな人はみんな、いらないと言うのですが。
*
桜の花びらが散るのをみてようやく、春だったんだなあ、って気付いたさみしい笑顔。がんばりやさんなあなただけにあげる、特別な魔法ですよ。春の磯、おぼろな星に、花曇り。まるごと閉じ込めた、ゆめのような香水。……くしゅん。ごめんなさい、花粉もとじこめてしまったみたいです。くすりと笑ったその顔は、さっきよりもずっと明るくて、春の残り香がほんのりとあたりを包みました。
*
本物の羊皮紙ですか? ごめんなさい、うちでは扱っていないんです。だって、痛そうだから。そう告げると、かなしくつらい表情になりました。ううん、そういうことならば、確かに探さなければなりません。ほかのお店をめぐってみますか? それとも、どうでしょう、お手紙を書いてみるというのは。元気な姿で見つかることを祈っています、大事なだいじな、あなたのおかあさん。
*
ああ、困った。きのうお客さんが売りにきたスノードームが、まさかにせものだったなんて! ガラスの中にいたはずのサンタクロースはすっかり姿を消して、取り残されたログハウスだけが雪に降られています。ああ、すっかりだまされた。これはスノードームなんかじゃない、サンタクロースのおうちです。しかたがないので、ひとまず冷蔵庫へ。事情はわかりませんが、いつかまた引き取りにくるかもしれません。お店に出すのはやめておきましょう。
*
価値があるひとにはあるし、ないひとにはないのでしょうね。いぶかしげにその鍵を見つめるその人にそう言うと、十回目の「うーん」が出ました。それは、とてもりっぱな南京錠、の鍵。だけど南京錠そのものはどこにあるのかわからないのですから、その人が悩むのも無理ありません。でも、そんなに気になるのなら、縁があるのかもしれませんね。そう言うと、十一回目の「うーん」が出ました。けっきょくその日の深夜、この人は閉まったシャッターをたたいてまでして、この鍵を手に入れました。
*
「ねえ、これ、見えてる?」いえ、ちっとも見えません。ぼくが言うと、ぱあっと笑顔がはじけました。「これが見えない人はすてきな人よ。ただであげるから、ほしいって人に売ってあげて」手渡されたものには確かに重みがあって、どうしたものかと悩みました。見えない物を売るなんて。「おや、この置物、すてきだね」話しかけられぎょっとします。人の心を見るようで、なんだか気味が悪い。ぼくはそれを、そのひとに、ただであげたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます