しろくま×××店
七草すずめ
しろくまたばこ店
わたしが毎日お話を書く理由は、あったかい気持ちになるから。だけどしろくまさんが毎日旅を続けていたのには、もっとたいせつな理由がありました。
北極でうまれたしろくまさんは、ある朝ついに思い立って、そこにはない何かを探しに旅に出たのです。冷たい海も、せまい海も、ごちそうだらけの海も越えて、どこまでも。
なのにのんびりやさんなものだから、ずっと泳いでいるうちに、困ったことになりました。
―なにかをさがしていたはずだけど、はたしてなんだったかしら。
その日からしろくまさんは、探しているものをさがすために、旅を続けることにきめたのでした。
氷でできた彫刻を見つけたこともありましたし、海に沈むストーブに出会ったこともありました。昼寝にもってこいなハンモックを見かけたことも、きらきらひかるサンゴに涙したこともありました。
―とてもすてきなものたちだけど、はたしてこれがさがしているものかしら。
そう考えては首をぷるぷる横にふり、まだ見たことのないところへ泳いでいくのでした。
そうしていろんなところを見てきたしろくまさんは、あるときすごいことに気がつきます。どうやらどこにいたとしても、昼はまぶしくて、夜は暗くて、朝は必ずやってくるようなのです。
しろくまさんは、まっくらやみで泳ぐのはこわいと思っていましたので、その大発見でうまれかわったような気持ちになりました。
―いつかかならずあかるくなるなら、なんにもこわいことはない。
こうしてしろくまさんは、朝も夜も、白い海も黒い海も、泳いでいくようになったのです。
だからその日、しろくまさんはとてもおどろきました。夜と昼が、いっしょにおとずれるところを見てしまったのです。
自分のあたまの上に大きな花が咲くと、あたりは昼になりました。そして花が散ってしまうと、また夜がやってきました。
―なんてふしぎなこうけいだろう。
あっけにとられたしろくまさんは深呼吸をすると、お花が咲く方へぐんぐん泳いでいきました。
そこは、海と山にはさまれた、坂道の町でした。
たくさんのいきものが笑っています。いい匂いがします。あたたかい水に、足だけつかっているいきものもいます。
このいきものたちが全て「にんげん」だということを知ったのは、この町に住むことを決めたあとだったといいます。
年に数回、夜と昼をつれてくる花が咲く町。
なにかを見つけられそうな気がしたしろくまさんは、そこにお店をひらきました。
にんげんがすきだという、「たばこ」のお店です。だけどおかしなことに、売っているのはたばこだけではありません。
ちいさなにんげんがすきだという、「だがし」に「こいんげーむ」、「たんさんじゅーす」。
それから、しろくまさんが旅の途中で出会った貝がら、草花、ビンのふた……。
たからものでいっぱいのお店に満足していたしろくまさんですが、ちょっぴり旅が恋しくなりました。
そこで、お店をしながらちいさな旅に出られるよう、本を置こうと考えました。
―あのう、もしよければ、おみせにほんをおきませんか。
こうしてわたしの本は、しろくまたばこ店のすみに並ぶことになったのです。
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