第142話 まさかの…

『たいやき』

 登り旗に書かれたジャパニーズ甘味の誘惑。

「夏だからこそ…たいやきじゃね」

 車を停めて、ガラッと引き戸を開ける。

 ジッ…

 なんだ…この空間?

 爺さんと婆さんと爺さんと婆さん…婆さんと婆さんと爺さん…

(アレっ?)

 数人が不思議そうな顔で僕を見ている。

(アレか…なんか、近所のお茶のみ場になっているのか?)

 見回すと…

 爺さんと婆さんと爺さんと婆さん…婆さんと婆さんと爺さん…

 思い思いに将棋をうったり、お茶を飲んだり

(誰もたいやき食ってねぇ…)


 奥からエプロンをした女性が現れた。

「なにか?」

「いや…その…」


 そう完全に間違えた。

 エプロンに書かれた文字

『いきいき』

「あの…この変に郵便局はありますでしょうか?」

「郵便局ですか?」

「はい…」

「でしたら…」


 郵便局を案内してもらい、足早に車へ戻った。

 用事も無い郵便局は、確かに案内通りの位置にあった。


 登り旗が雨で濡れて捩れていたのだ。

 僕は思い込みで『いきいき』を『たいやき』と読んでしまったのだ。


 読み違いって怖いね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る