第125話 いいことした?

 珍しく人助けをした。

 言うほど大したことでもないのだが…

 大雪で買い物から帰ってきた老人、ヨロヨロと雪道を歩いてくる。

 どうやら近所の人だったようで、除雪中の僕に声を掛けてきた。

「大変だね」

(お前の方が…)

 買い物袋を2個、落とさないように腕に巻き付けて、背にはリュックを背負っている。

 もう、見るからに転んだら起き上がれそうにない。

 聞けば、すぐソコのアパートに住んでいるらしいのだが、そこに行くまでには坂道なのだ。

「荷物持つよ」

 珍しく、そんな言葉が出た。

 自分でもビックリだ。

 リュックも持とうとしたら、それは軽いから大丈夫だという。

 自分のオムツなのだそうだ。

 僅かな食料を買うために、この大雪の中、徒歩で買い物に行かなければならないのだ。

 なんだか、やるせないような気持になった。

 僕は老婆のリュックを支えながら坂道を押してアパート前まで荷物を運んだ。


 自衛隊が雪下ろしとか、大々的に報道されているが、そんなところは、ごく一部なのだ。

 実際10人程度で、何ができる物ではない。

 数件の大規模な介護施設を回って終わりだ。


 地震の時もそうだった、TVカメラの前だけだ、実際の支援など被災者には届けられない。

 自分で取りに来いと言われるのだ。


 本当に支援が必要な人を、市は解っていない。

 本当の姿をカメラは映さない。


 僕に出来ることなど、ほんの10mほど、坂道を押してやるだけ…

 介護施設で暮らしている老人は幸せな方だ。


 除雪車が活躍しているとか…大通りだけだ。

 路地は、大通りの雪で潰されている。

 クローズアップされた部分は真実の綺麗な部分、その裏では何十人も見捨てられた人がいることを僕は伝えたい。

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