第42話さらば火の国
「ふぅ、パスタとやら、とても美味しかったです」
満足そうに口を拭くサラ。
こんな姿からは想像もつかない優雅さだ。
「ユキタカよ、約束通り礼を致します。望むものがあれば何でも言ってください」
「そう言われても……うーん……」
急に言われると困ってしまう。
特に現状、困っていないからなぁ。
考え込む俺を見て、クロがピンと尻尾を立てる。
「ユキタカは魔法を使ってみたいとか言ってたにゃ! 魔法を覚えさせて貰えばいいんじゃないかにゃ?」
「いや、そりゃ出来れば嬉しいけどよ、俺は魔法の才能がないらしいしそれは無理じゃないか?」
俺の魔法の才能のなさはマーリンお墨付きだ。
これから魔法を覚えるのは難しいだろうと何度も言われる程である。
いくらサラと言えどもそう簡単には……
「出来ますよ」
簡単にサラは言った。
「出来るんですかっ!?」
「えぇ、竜の血には強力な魔力が宿っており、人が飲めばその力を得る事が出来る。どんなに才能がない者でも魔法を使えるようになりましょう」
俺が? 魔法を? マジかよ!?
せっかくファンタジー世界に来たのに、魔法の一つも使えないのかと落ち込んでいたが……まさかこんな日が来るとは。
「ですがその程度では私の気がすみません。もっと別のものがいいのではないでしょうか?」
「いえっ! それで大丈夫です! むしろそれがいい!」
俺は勢いよく答える。
今の俺には魔法が一番嬉しい。
サラはゆっくり頷いた。
「わかりました。では私の血を授けましょう。ユキタカ、こちらに寄りなさい」
サラに促されるまま、近づいていす。
指先を傷つけ、盃に一滴垂らした。
俺は盃を両手で受け取る。
「いただきます」
手渡されたそれを一息に飲み干すと、身体の奥底から何か力が湧いて出てくる。
なんだこりゃ!? これが魔力ってやつか!?
「ぐ、う……っ!?」
身体が熱い、燃えるようだ。
あまりの熱に思わずうずくまってしまう。
「ユキタカ、大丈夫かにゃ!?」
「……あぁ」
だが苦しいというわけではない。
むしろ不思議な高揚感がある。
俺は呼吸を整え、身体を起こした。
「ふむ、馴染んだようですね。それではユキタカ、その力を試してみるとよいでしょう」
「わかり、ました……」
魔法の使い方は習っている。
頭の中で詳細なイメージを描き、魔力を集め、具現化するのだ。
マーリンから教わった方法を思い出しながら、手のひらに意識を集中させていく。
すると――ボッ、と火の玉が生まれた。
小さな、小さな火。
だが俺が魔法で発現させたのだ。
おおおっ! これは感動である。
「すげぇっ! ほら見ろクロ! 雪だるま! 魔法だぞ!」
「あー、にゃあ……」
「……それは、よかったのだ」
だが気まずそうに視線を逸らす。
「ユキタカ、それで全力なのかい?」
「ん? あぁ、そうだけど」
「……そうかい、相当才能がなかったんだねぇ」
タバサは俺を哀れむような目を向けてくる。
「古来より竜の血を飲んだ者は、例外なくとてつもない力を得てきました。地を割り、海を裂き、天を突くような魔法を得ることが出来た……ですがユキタカは本当に、その……」
サラもまた、頭を抱えている。
どうやら俺の才能のなさは筋金入りだったようである。
だがいいのだ。俺は魔法を使ってみたかった。
ショボくても使えるようになった。それが重要なのである。
だから俺は満面の笑みを浮かべて、言った。
「ありがとう、サラ!」
と。
■■■
「本当によかったのですか?」
しばらく魔法を試してみたが、やはりあれが限度だった。
ガスコンロの火くらいの大きさで、とても戦闘で使えるようなものではない。
それをサラは気にしているようだ。
「いいんですよ。むしろこれ以上はない程です」
だが俺は気に入っている。
ショボくても魔法は魔法、やはりそういったファンタジー的なものには憧れていたのだ。
サラは俺が本当に喜んでいるとわかってくれたようで、大きく息を吐く。
「……わかりました。ユキタカよ、あなたは本当に無欲なのですね」
「そうですかね?」
「えぇ、そうですとも」
サラはうんうんと満足げに頷く。
全く随分気に入られたものである。
俺は名残惜しさを振り払うように、サラに背を向けた。
「とにかく、ありがとうございました。また近くに寄ったら挨拶しますよ」
「いつでもいらして下さい。歓迎しますよ」
「私たちもね! 来年は必ず優勝するから見に来るんだよ!」
サラとタバサ、手を振る二人に会釈を返し、俺はヘルメスに跨った。
アクセルを吹かし、地平線に向かって走らせる。
「火の国、楽しかったな」
「にゃ! 美味しいものいっぱい食べられたにゃ!」
「踊りもサウナもとてもよかったのだ」
「あぁ、いい国だった」
魔法も覚えられたしな。来てよかったぜ。
ヘルメスを走らせていると、遠くで火山が噴火した。
最初はビビったけど、今となっては慣れたものである。
クロも少しビクッとするくらいになっていた。
「ユキタカ、お土産屋さんだにゃ!」
「おっ、ということはここが国境付近なのか」
来る時は気づかなかったが、よく見れば岩で仕切りをしているように見える。
俺は土産屋に入ると、目当てのものを購入した。
「ユキタカ殿、何を買ったのだ?」
「こいつさ」
火の国モーカ、と書かれたキーホルダーである。
それを雪国ラティエと並べてヘルメスのキーに取り付けると、チャリンと音が鳴る。
「また変なの買ってるにゃ」
「ここへ来た記念だよ。さて、行こうぜ」
「にゃ!」
俺はヘルメスに跨り、アクセルを吹かした。
土埃を上げながら走るヘルメス。
そのずっと後ろで、また火山が噴火していた。
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