第35話火竜は大迫力でした
「さぁてそれじゃあ火口の中へ降りていくよ!」
体調の回復したのを確認したタバサは、火口の淵に立つ。
火口を覗き込むと、その熱気で一気に気温が上がったように感じた。
焼け焦げた岩の奥には真っ赤に燃える火口が見える。
「その前に注意事項だよ。時々火山弾が降ってくるから注意する事。それ自体は私が結界魔法で防ぐけど、下手に避けようとして火口に落ちるのはやめておくれ。そうなったら流石に助けられないからね!」
タバサが声を上げると、俺を含めた全員が姿勢を正した。
崖は急だし、道幅はあるとはいえ落ちたら命はないだろう。
思わず生唾を飲み込む。
「たとえ落ちてもボクが助けるから安心して落ちていいにゃ! 任せるにゃ!」
先を歩いていたクロが自信満々に言い放つ。
落ちるのは遠慮しておくぜ。だが万一の時は頼む。
タバサが何やら呪文を唱えると、俺たちの周りに薄い膜が生まれた。
おおっ、何となく息苦しかったのが収まったな。
バリアみたいなものか。
いきなりガツン! と音がした。
どうやら火山弾が当たったようだ。
結界の外では、かなりデカい石が粉々に砕けていた。
おおう、びっくりしたぜ。
ちなみにクロは、その音に驚いて俺に抱きついていた。
任せろと言ってたくせに……
「大した結界なのだ。只者ではないのだ」
雪だるまが結界の頑丈さに感心している。
どうやらタバサは大した魔法使いのようだな。
とりあえず危険はなさそうで安心だ。
中は大きな岩が重なり合い、螺旋階段のようになっていた。
火山の淵を回るようにして降りていく。
「それにしても火口付近だからか、少し暑いな……」
下からは蒸気が上がってきているし、すごく蒸し暑い。
ぱたぱたと服の襟元を掴んで扇ぐがあまり意味をなさない。
「ユキタカ殿、暑いなら自分が冷気を放出するのだ」
雪だるまが言うと、周囲に冷気を放ち辺りが一瞬にして涼しくなった。
おおっ、こりゃ快適だ。
「ありがとな、雪だるま」
「それほどでもないのだ」
火山の中は暑いと言えば暑いが、サウナほどではない。
雪だるまもこの程度なら溶けたりはしないようだ。
そのまま進んでいくと、タバサが急に立ち止まる。
目の前には大きなくぼみが出来ていた。
「さて、いったんこの中に入るよ」
タバサに手招きされ、俺たちはそこに入る。
「火竜は火口の中にいるんだ。普段は眠っており、決して起きることはない。でも月に一度、この日この時間に起きては周囲の鉱物を食べ、また眠りにつくんだ。その食事を観察するよ。しばらくここで待つ」
へぇ、火竜って石を食べるのか。
それは知らんかったな。
火口から見て身を隠す形となった俺たちは、固唾を飲んで火口を見守る。
周囲は暑いが雪だるまの発する冷気で快適だ。
うーん涼しい。でもちょっと喉が乾いたな。
「雪だるま、氷水出してもらっていいか?」
「合点なのだ」
「ありがとな。……あ、よかったらみなさんもどうぞ」
「これはこれはご親切に」
流石に自分たちだけ飲むわけにもいかず、他の人たちに氷水を振る舞う。
こういう場所で雪だるまの能力はとても便利だ。
「いやぁ便利な使い魔をお持ちだ」
「えぇ、とても助かっていますよ」
「にゃ! 雪だるますごいにゃ!」
そんな談笑をしながらグラス片手にのんびり待っていると、ボコン、と火口が大きく泡立った。
一度だけでは終わらず、ボコボコと連続して泡が浮かんでくる。
「お客さん方、もうすぐ火竜が現れるよ!」
タバサが声を上げると、全員が火口に視線を集める。
おおっ、ようやく来たか。
固唾を飲んで見守る中、火口がひときわ大きく波立った。
「来るよ!」
ざぱぁ! と炎が跳ねる。
散らばった火の粉が舞い落ちる中、巨大な影が火口からゆっくりと姿を現した。
長い首、大きな翼、鋭い牙、爛々と輝く怪しい瞳。
その巨体をのそりと持ち上げながら、火竜は火口から這い出てきた。
「おおおおおおおおおおおお!!」
と歓声が上がる。
とんでもない大迫力だ。
「はぁ、こりゃあすごいや」
映画やアニメで見るのとは違う、本物の迫力。
思わず力が抜け、へたり込んでしまった。
「おお、これが火竜……すごいのだ」
「だな。来てよかったぜ」
火口から上がった火竜は、目の前の溶岩を食べ始める。
あんなもの食べて美味いのだろうか。
いや、消化を助けるためにやっているのかもしれないな。
確かワニとかが石を飲み込み、それで食べ物を細かくして消化しやすくすると聞いたことがある。
ゴリゴリ、ボギン、と鈍い音が響く中、俺たちはそれをただ見守っていた。
「……あの火竜、何処かで見憶えがあるにゃ」
それを見ていたクロがポツリと呟く。
ていうかそもそも火竜の区別がつくのかよ。
まさか前にマーリンが戦ったと言ってたやつじゃないだろうな。
「んー、思い出せないにゃ」
首を傾げるクロだが、残念ながらお前の記憶力には期待していない。
火竜はしばらくすると食事を終え、火口の中に戻っていった。
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