第28話スパイスの発展を願います

「それじゃ薬師さん、ありがとうございました」

「なんの、礼を言うのはこっちの方だよ。かれぇらいすとやら、とても美味かった」

「それはよかった!」

「よかったらこの料理、ワシらが作ってみてもいいかい? この村の名物にしようと思うんだが」

「もちろん構いませんとも。レシピも教えますよ」

「おお、それはありがたい」


 そう言って俺はカレーのレシピを薬師に教えた。

 異世界でもカレーは受け入れられたようである。

 カレーは世界を救う。


「カレー美味しかったにゃ」

「また作ってやるから楽しみにしてな」

「にゃ! 毎日カレーでもいいくらいにゃ!」


 確かにカレーは栄養面で見れば万能食だが、毎日食ってたら流石に飽きるぞ。

 一人暮らしの時は週一でカレーを作ってそれを三日続けて食べてたが、流石に飽きて頻度を減らしたんだよな。

 それでも月一は作るくらい好きだったけど。


「しかしユキタカ殿、カレーライスの作り方をタダで教えてもよかったのだ? これだけの料理、言い方は悪いが金を取れると思うのだ」

「別に大したレシピじゃないからな。一度カレーを食べた薬師さんなら、教えなくてもすぐにレシピに辿り着いたと思うぜ」


 カレーは何を入れてもカレーになる。

 スパイスの分量ですら適当でも何とかなるもんだ。


「しかし……いや、無粋な事を言ったのだ。それがユキタカ殿なのだな。ローザさまが認めただけの事はあるのだ」


 うんうんと頷く雪だるま。


「にゃ! 全くユキタカはお人好しにゃ」


 クロもそれに乗っかっていく。

 なんか勝手に納得されてしまったな。

 俺はただカレーをこの村で開発、発展させてもらえば、そのうち恩恵に預かれると思っただけなのだが。

 具体的には香辛料を今よりたくさん栽培して、より良い品種のものを作って欲しいとか。

 さっき食べたカレーも美味かったが、やはり日本のカレーには及ばなかった。

 農家さんには頭が下がるぜ。


「まぁ腹もいっぱいになったし、宿に帰ろうぜ。冷たいものでも飲みたいな」

「承知したのだ。自分に任せるのだ」


 カレーの後は冷たいものでしょ。

 そうだ、ラッシーとかいいかもな。

 牛乳とヨーグルトにレモンと砂糖を入れ、混ぜるだけだ。

 独特の味わいが美味いんだよな。

 カレーの後に飲むと、さっぱりするんだこれが。

 宿に帰った後、俺は早速ラッシーを作った。

 雪だるまに氷を出してもらい、冷やして飲むととても甘くて美味しかった。

 もちろんクロたちにも好評であった。


 ■■■


「それじゃお世話になりました」


 代金を払い、宿を後にする。

 ボロかったが広かったし、ゆっくりできたので文句はない。

 ていうかゆっくりしすぎたな。

 もう昼じゃないか。


「ユキタカは寝坊助にゃあ」

「お前が夜遅くまでぴょんぴょん飛び跳ねてたからだろ……ふぁああ……」


 お泊りでテンションが上がったのか、クロは夜の大運動会をしていた。

 昔からたまーにあるのだ。

 以前猫を飼っている友人に聞いたことがあるが、猫は夜になると狩猟本能にスイッチが入り、暴れ出すことがあるとか。

 対策としては寝る前にねこじゃらしとかで遊んでやるといいらしい。

 ……今度やってみよう。


「ユキタカ殿、先日の薬屋に人だかりが出来ているのだ」


 雪だるまの指差す先を見ると、確かに何やら人が集まっている。

 ふわりと風に乗って運ばれてくるのは、カレーのいい匂いだ。

 どうやら早速作ってみたようだ。

 俺は匂いに釣られ、ふらふらと向かう。

 人だかりの中央には薬師がおり、カレーライスを売っていた。


「薬師さん、かれぇとやらを一杯!」

「こっちにもだ!」

「私にもくださいな!」


 まさに飛ぶようにとでもいうべきか、誰も彼もがカレーを求めて押し寄せていた。

 カレーを口に入れた人は、驚きの表情を浮かべながらも美味しそうに食べている。


「うめぇ! なんだこりゃあ!?」

「すごく美味しいわ!」


 そこかしこから称賛の声が上がっている。

 へへ、こんなに喜ばれたら悪い気はしないな。


「おや旅人さんいらっしゃい! 今しがた教わった通りにカレーライスを作ってみたんだよ。よかったら味見してくんな」

「いいのかい?」

「もちろんだ。ささ、使い魔さんたちも」

「ありがとにゃ!」


 皿を三つ渡され、遠慮なく食べる。

 ――うん、普通に美味い。

 流石薬師、調合はお手の物というわけか。


「美味しいにゃ! でもユキタカの方がもっと美味しいにゃ!」

「はは、手厳しい。だが見ていてくれよ。そのうちもっとすごいのを作ってみせるからよ」

「楽しみにしています」


 俺は薬師に頭を下げ、食べ終えた皿を返した。

 これだけ盛況なら、カレーはこの村の名物になるかもしれないな。

 それを目当てに人が訪れ、村おこしみたいになるかもしれない。

 そうなれば金が金を呼び、香辛料の研究も進むだろう。

 次来たときはもっと美味いカレーが食べられることに期待して、俺は村を出るのだった。

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