第25話魔物を味噌で食べました

「ただいま戻ったにゃ!」


 それからすぐに、クロがツノの生えた巨大ウサギを持って帰ってきた。

 ちなみに運搬方法は魔法で空中にぷかぷか浮かして、である。

 魔法いいなぁ。

 あれは確かホーンラビットだっけ。

 昔マーリンに連れられて森の中を散策していた時に見たことがある。


「おかえりなのだ」

「ただいまにゃ! おー、パイロコブラにゃ! やるにゃあ雪だるま!」


 クロは輪切りにされたパイロコブラを見て、嬉しそうに尻尾を振った。

 だが俺は冷たい視線で出迎える。


「ていうかクロ、お前俺が危機の時には駆けつけるんじゃなかったのかよ」


 俺はクロを使い魔として契約したので、身に危機が迫っていたらわかるはずだ。

 なのに悠々帰ってくる有様である。


「ったく、雪だるまがいなかったらヤバかったんだぞ」

「雪だるまがいたから問題なかったにゃろ? 一応気づいたけど、弱っちい魔物だったから任せたにゃ」


 人任せとは無責任な奴である。

 やはり猫か。

 いざとなった時の為に、自分の身を守る手段が欲しいぜ。


「それよりパイロコブラ、美味そうにゃ!」

「おいおい、この蛇食べるのかよ……毒があるんじゃないのか?」

「それはそれでピリッとしてて、すっごく美味しいにゃん」


 毒ごと食べる気のようで、ヨダレを垂らすクロ。

 まぁ蛇は鳥のような味がして美味いと聞くしな。

 毒はごめんだが一度は食べてはみたい。

 ただやっぱりちょっと怖いんだよな。

 戦闘時に毒がどこかに付いたかもしれないし、そのまま食べるのは不安だ。


「そうだ、いい魔道具があったっけ」


 鞄を漁り、取り出したのは色付きの眼鏡だ。

 これは毒味の眼鏡。これを掛ければ人体に対して毒となるモノを見分けることが出来る。

 早速眼鏡をかけて、パイロコブラの肉を見ていく。


 皮の部分はぼんやり光っているが、身の部分は眩いばかりに輝いている。

 これは毒を見るだけでなく、栄養価の高い部分も判別出来るのだ。

 やはり魔物肉だけあって、味は期待できそうだ。


 そして頭部、特に牙の部分はドス黒く染まっている。

 見るからにヤバそうな色である。

 この部分に毒があるのだろうな。

 大半の蛇は牙にのみ毒腺があり、獲物に噛み付いて毒を注入する。

 それあhこちらの世界の蛇も同様のようだ。

 毒があるのは頭だけのようだし、それ以外は食べられそうだな。


「ゴハンにゃ♪ ゴハンにゃ♪」

「わかったよ。ちょっと待ってな」


 ウサギと蛇なんて変わりダネにもほどがあるが、毒は問題ないし味に定評のある魔物肉だ。

 ジビエってのも乙なもんだし、適当に味を付ければ食べられるだろう。


 俺は精霊刀でパイロコブラとホーンラビットを解体し、肉だけ取り出した。

 今日からは三人分だからな。

 精霊刀で生成するフライパンは大きめにしておく。

 油を敷いてから先ほど刻んでおいた野菜を入れ、小間切れにした肉を投入。


 うーん、肉質からして淡白そうだし、ここは味噌で味付けしてみるか。

 野菜も沢山切ったから汁ものもいいかもしれないな。

 そうと決まればフライパンの底を深く形状変更、水を入れて熱していく。

 しばらくすると沸騰してきたので、火を止めて鞄から取り出した味噌、醤油、砂糖、みりんなどを適当に入れてやる。

 そのあと一煮立ちさせ、完成だ。


 鍋の蓋を取るとモワッと白い湯気が上がる。

 具はしっかり煮えており、色とりどりの野菜と白く茹だった肉が鍋の中に浮いていた。

 味付けは豚汁だが、肉が違うので蛇兎汁ってところかな。


「ほいよ」


 クロと雪だるまに注いで渡す。


「美味そうにゃ!」

「これは……変わった色の汁なのだ。でもなんとも言えないいい匂いがするのだ!」

「雪だるまは味噌は初めてだよな。まぁ食べてみてくれ」


 クロはいつも通りお椀に口を近づけガツガツと、雪だるまは用意してやった箸を器用に使って食べていく。


「美味しいにゃ!」

「これは――素朴だけど深い味わい、初めて食べた味だけど、とても美味なのだ!」


 うーん、雪だるまと並ぶとクロの感想のショボさが際立つな。

 まぁ美味いならそれでいいか。

 俺も食べてみよう。


 自分の分をお椀に注ぎ、かき込んでいく。


「……美味い!」


 予想通り淡白な味わいだが、身が締まっており歯ごたえがある。

 味噌との相性は抜群で、めちゃめちゃ美味い。

 これは唐揚げでもいけそうだな。


「ユキタカ、おかわりにゃ!」

「自分もお願いするのだ」

「はいよ」


 空になったお椀に新たに汁を注いでやる。

 俺もおかわりだ。

 三人でばくばく食べると、あっという間に蛇兎汁は無くなってしまった。


「ふー……腹一杯だな」

「美味しかったにゃ!」

「結構なおてまえだったのだ」


 作りすぎたかと思ったが、丁度良かったな。

 やはり魔物肉は美味いぜ。

 残りは鞄に入れておこう。


「この毒牙とウサギのツノも何かに使えそうだな」


 街に行ったら買い取ってもらうとするか。

 毒に注意しながら鞄の中に入れ、後片付けをするのだった。

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