第14話 -3 パーティメンバー




「あいつ……裏で手を回しやがった」


 オセロットくんから牙が生えている。ギリギリと歯を鳴らし、見たこともない表情をしている。全員クロウくんの取り巻きにいた昨日のメンバーだ。身内だけで組まれたチームにねじ込まれる私は不自然すぎる。裏で手を回されたのは明らかだった。


 どうしよう……昨日のクロウくんの様子からして何か企んでるのは目に見えている。息苦しさに喉元をさすった。今朝見たら、絞められた時の痣は消えかかっていた……思い返されて、怖い。


「芽衣ちゃん、係りが探している。棄権扱いになる」


「……あ、そうですね。すみません、ここです!」


 係りに向けて手を上げた。急いで向かおうとすると、掴まれていた肩に力が入った。


「芽衣、あいつと何かあったの……? もし何かされそうになったら昨日の花火をあげて、退学になってでも助けにいくから」


「えっと、大丈夫だよオセロットくん。いってくるね」


 安心させようと、なるべく明るい声を出し笑顔を見せた。私のために退学なんてとんでもない。リュックを背負い直し、彼らの元に向かった。これは試験なんだ。誰かに助けを求めてはいけない、サバイバルが始まる。


「……芽衣です」


 係りの人が用紙を確認し、チェックをすると次の作業へと向かった。クロウくんに視線を合わせたくなくて頭を下げた。五人分の刺さるような視線が怖くて頭をあげるのが怖かった。


「おーやっぱり近くでみると美少女じゃん。昨日の鼻血姿興奮したー、ハハ」


 ガタイのいいエルフがクロウくんの肩に手を置いたまま腰を屈めてニヤニヤと声をかけてきた。薄い緑色の髪を刺々しく立たせ、襟足を長く伸ばしてこの寒いのに薄着だ。肩から腕にかけて龍の刺青が入っている。見た目のガラの悪さに押されて後ろに引いてしまう。


「俺、蒼耳ねー」


「ソウジいい加減にしなさいよ、このひっつき虫。クロくんから離れなさいよぉ」


 ソウジと名乗ったエルフの男性がミヤコさんから耳を引っ張られ、引き剥がそうとするのを乱暴に手で払う。彼の尖った両耳は先にいくほど濃い青のグラデーションになっている。


「触るなブース」


「誰がブスよ絞め殺すわよ!」


 瞳孔を細め攻撃体制のミヤコさんにも余裕でからかい続けるソウジくん。チームにいるヒューマンの男性二人がミヤコさんを必死で止めている。クロウくんは興味なさそうにしていて動じない。


「ほんと最悪、クロくんと同じチームにしてもらったのに激弱女もいるし」


「いいじゃねーか。お前なんかよりよっぽどひっつきたくなるし、んーー?」


 ソウジくんが手を伸ばしてきて強い力で私を手繰り寄せ、二人の間に立たされた。ソウジくんが頬ずりしようとしてくるので、それから逃れようと顔を背けるとクロウくんと目が合ってしまった。


「もうよせ、ソウジ」


 腕を突っぱねてソウジくんを引き剥がすクロウくん。文句を言いながらも離れてくれ、私はホッと胸をなでおろした。頭の後ろで手を組み私を見下ろして楽しそうにニヤつくソウジくん、ヒューマン二人を後ろに従えてイラつきを隠さないミヤコさん、そしてクロウくん。このチーム、不安しかない。



「時間です。明日、このチームで今の時間までに帰還されてください。メンバーが欠けた場合減点となります。みなさんの無事を祈ります……それではクエスト試験を開始します」


 魔女の号令が杖先から放たれた。雄叫びと共に受験生が森へ駆け出す。私たちのチームもみんなに習って走り出した。人の流れではぐれないように先頭を行くソウジくんのトゲトゲ頭を見失わないようにした。オセロットくん達を振り返りたかったが、きっとすぐ後ろに彼がいる。どうしてもあの目線が……苦手だ。



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