第397話―バレンタインデー花恋トリオを語る―

生涯これほど貰い受けた事例がないほどバレンタインデーだった。まだ鮮明に思い出すほど甘さが残る2月15日。顔を洗いまず最初に食べるのは冷蔵庫の中には試作品チョコ。未だに山ほど量がある冬雅が作ったチョコはどれも別品なのだが――


(冬雅と真奈が試行錯誤して作っているの影で見ていたからな。

花恋たちも、この日のために思って今日中ぜんぶ食べないと無礼になると考えて無理し過ぎたか)


いくら甘党と豪語している俺でも当分は食べるのを控えたい。

今日はインスタントコーヒーをマグカップに湯で注いでスープン混ぜ終えると試作品チョコを持って椅子に腰掛ける。その瞬間に玄関の方向からガチャと解錠音、ドアが開くのを居室内に届く。


「移山が帰ってきたのか」


なら出迎える必要はないか。でも誰か一人ぐらいは出迎えないと寂しいの孤独が日常的にあったのを忘れていない。冬雅と真奈は二階でコスプレの着替え中なので出迎えないはずだろう。

さて、第一声は何を言おうかと考えながら向かう。


「ふわぁー、ねみぃ。出迎え、ご苦労である兄者。今年のバレンタインチョコは…いくら貰ったんだ?」


「死後になりつつある懐かしき言葉…リア充爆発しろを言えなくなるほどかな」


「いや、知らねぇよ。けど、やべぇーほど貰ったのは分かった」


ため息こぼし両肩を上げるなどし、呆れた様子を示すようにリアクションをする。こんな所で談話するよりも居間で続けるべきだと思い移山を手洗いさせて居間で

料理と酒を出して談話を続けることにした。


「へっ、兄者はいいよなぁ。女子高校生にチョコを多く貰ってよ。

俺なんか今年も一つも無しだぜ」


日本酒の獺祭だっさいを勢いよくあおる弟は顔が赤くなっていた。酒のおつまみメニューは唐揚げ、キュウリとキムチの豆板醤トウバンジャンや醤油でえたものがダイニングテーブルを移山の前に用意した。

生粋の甘党である俺にはよく分からないが酒と唐揚げの組み合わせは最高だと弟は絶賛する。


「本当に美味しそうに食べるんだな」


「おう、酒のさかなは文句なしに美味い。興を添えるような話題を一つ頼む。リクエストは、そうだな…兄者の新しいお嫁さんの話とか?」


なんて要望を出すんだ。そういえば目の前で酔っぱらいの人となった弟が、お嫁さん候補なんて頭のおかしい言葉を考えたんだな。

今や冬雅や真奈が頻繁に使っていて困っている。ともあれ新しいお嫁さん候補ですぐに俺の頭で浮上したのは、やはり彼女たちだった。


「お嫁さん候補じゃなく普通にバレンタインチョコを貰った話をするけど。それは――」


時をさかのぼり、バレンタイン当日で花恋と待ち合わせていたとき。待ち合わせの1時間早く来ていると予想して早く向かったら花恋がいなかった。どうやら早く待つ性格ではなかった。

時間を潰しに近くにある不死川さんの家に向かうことにした。

思ったような談話が出来なかったが最後にバレンタインチョコを貰い待ち合わせ場所に戻る。


「おそい!東洋お兄ちゃん可愛い女の子をどれだけ待たせるつもりなの」


「えっ!?あ、ごめん…いや、なんかおかしい気がするんだけど。

立場が逆って言うのか」


「とりあえず反省してください」


なんて理不尽な。ともあれ待ち合わせ時間を早く来て、通常の時間よりも遅れて来たから強く反論が出来ないのが悲しいかな。

そしてご立腹であった花恋はスッキリしたのか爽やかな笑顔を向ける。そして花恋はピンクのショルダーバックから開けて中を探り目的の物を見つけると頬をわずかに赤らめて俺の前に差し出した。


「…バレンタインチョコ?」


「そ、そうだよ。どうせ冬雅さんや真奈さんよりもテンション下げ下げになるけど、それでも頑張って作ったから…食べてよねぇ。必ず」


これは、また古典的なツンデレを。おそらく赤らめる顔から読めるのは渡す事態が慣れていないから自然に珍しい言葉遣いになったのだろう。そうして眺めていたせいで花恋の視線は落ち着かず右と左に往復している。


「花恋、ありがとう。冬雅や真奈と比較なんてしないよ。俺は花恋の気持ちを込められたプレゼントが素直に嬉しいんだ。

ご不満だと思うけど俺は嬉しさのあまりに少踊りするほど喜びを形に表すのが苦手なので、そこはご承知してくれたら」


チョコが入った箱を受け取り心から感謝をする。どう反応したか読みにくい花恋は絶句していた。


「な、何を言っているのか分からないんだけど!?でも嬉しかったので、どうも。…と、とりあえず行くわよ。二人とも待っているだろうし」


軽いパニックを起こした花恋は怒ったりお礼をしたりと俺の腕を掴んで引っ張り出すのであった。

それは構わないけど胸部が…腕に当たっているのを気づいてほしい。弾力がありながら柔らかい…なんて頭から感想が出てしまっているのです!

一旦、落ち着いてセリフの中に疑問を訊いてみるとしよう。


「花恋。待っているって?」


「そんなのサファイアと猫塚に決まっているでしょう?」


確かにそうだ。とくに花恋は、サファイアと猫塚の3人は仲がいいイメージがある。それは俺の憶測であり花恋は他にも友達が多数いる。本人はそう言ってはいる事から気が置けないほど良好なのだろう。

サファイア家に向かって俺と花恋かなは電車で移動することになった。一切の迷いがなく目的地へと向かう俺に花恋は「地図も開かずに迷いもなく進めているのは、どうしてですか?」と怖い笑顔と敬語で問い詰められたが何とか話題を逸しながら歩き到着する。

花恋も行ったことがあるのに見上げて大規模の建物に驚いていた。

俺は花恋を連れてサファイア家に入ると上司であり年下のメイドさんがニコッと笑顔を向けら嫌な予感が全身に走る。


「おやおや、新しい女の子をはべるとは随分と出世したものですね。

私にあんなことをしておいて」


「何を言っているのですかグレイスさん!?胸倉を掴んで揺らすのは、やめてほしい!お、落ち着いてくれ花恋」


「どういうことなの!?東洋お兄ちゃん。あの人と、エ、エ、エ…エッチなことを」


「ええ、とても子供の前では口に出来ない…はばかられる夜を」


「ちょっ!?グレイスこれ以上を刺激して、どうするんですか!

嫌な事があったからって悪戯いたずらは、やめてくださいよ!!」


俺の絶叫に他のメイドさんや執事さんが現れて説明してくれた。

グレイスさんはストレスが溜まっていると部下や新人を攻撃する悪癖があると。ちなみに情報を与えてくれた、その人はグレイスさんの標的となった。…ブラックじゃん。


「よく参られた、お兄様」


「待ってたよ兄と花恋ちゃん。へへ、これで皆でパーティゲーム」


武士になりたいと豪語するペネ。

わたしは友達が少ない李澄りずむ

ちなみに花恋は俺の右で、ぎこちない笑みで二人に手を振る。

先ほどグレイスさんの扇動されてしまったこと何度も謝られて落ち込んでいた。


「サファイアお嬢様に李澄、こんにちは」


俺は挨拶を返す。二人は、花恋が落ち込んでいるのを気になり近寄り何があったのか尋ねてきた。


「あの、どうしたのですか?体調がよろしくありませんの」


「そう言えば、そうだね…どうしたの花恋ちゃん。具合どこか悪いの?」


「ちょ、ちょっとね…あはは」


この話題をしたくないと声音や反応から二人は察して追求はしないでいたが心配そうにしている。

背後からドアが開く音に俺達は振り返ると金髪が眩しい女の子がタックルしてきた。


「お兄様だあぁぁ!!」


「エマリア様…危ないですよ」


「えへへへ」


現在の日本では、なかなか見なくなった無邪気な言動をするエマリア様にどう接すればいいのか未だに分からない。

しばらくパーティゲームや話の花を咲かしていれば外は夜の帳を降りて帰宅しないといけない。


「そろそろ帰ろうか花恋」


「はーい!」


自省タイムが終わり元の元気な花恋の返事。俺と花恋は3人に別れを告げて背を向ける。


「お兄様、待たれよ!」


男の子であるなら一度は使いたいカッコいいセリフを。ドアノブを握るところで戻して振り返る。


「最愛の人に贈る…バレンタインチョコですわ。受け取ってほしいのです」


「ああ。ありがとうサファイア様…いや、ペネ」


「フフッ、そんなことありませんわ」


どれが素か分からないなぁと思ったが可憐な笑顔を見ていたら、どれも彼女かと結論する。


「おぉー、渡せて良かったね。

じゃあ次は私の出番…兄もちろん受け取ってくれるよね?」


緑の箱。このタイミングと流れで中はバレンタインチョコなのが明確だ。


「ありがとう李澄、大事に食べるよ」


「わぁー…恥ずかしい事を平然と言うなぁ、この人は。うん、兄のおかげで友達が出来たから日頃の感謝だよ。他の人と違って本命じゃないよ」


さすがはアイドルと呼ぶべきか。笑顔が眩しく美しかった。

白磁の頬には紅潮していて渡すのが、ただ恥ずかしいだけなのか…問うのはやめておこう。


「ねぇ、ねぇお兄様。これ、バレンタインチョコなのだよ!」


裾を引っ張られ見下ろすとエマリア様がバレンタインチョコを元気いっぱいに差し出してきた。


「ああ。ありがとうエマリア様。バレンタインチョコ貰って執事として光栄の極み」


「エッヘヘ。うん!」


まさか小学生のエマリア様にも貰うことになるとは…きっと姉に感化して作ったのだろう。きっと本命とか義理の定義が分からずに

気に入った人ために作ったのだろう。

待ってくれていた花恋は不機嫌だった。花恋を送ってから俺は帰宅する。ちなみに李澄は、夜に一人で帰宅ではなくグレイスさんが車で送ってもらったようであった。

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