第306話―戸惑う。こんなに静かなのかと3―

静謐せいひつがあっても誰かがいて孤独を感じさせないリビング。

静けさと疎外感は凍てつくような空間。昼食をわざわざ料理をする必要がないと考えすぐに食べ終える蒙古もうこタンメン中本北極なかもとほっきょくのカップめんを食べながらニュースを無心に近い状態で見る。


「……」


(戸惑う。俺だけ一人だとこんなにも静か…なのか)


弟の移山は会社に出勤して慣れていく方針に従って今日はいない。

家に一人だけという状態は情報にあっても実感はすぐに訪れず、

徐々に生活をしていく内にもう日常とようやく本質的な認識して

寂しさを覚える。それは別にいい。

それよりも比翼の安否確認をしなければいけない使命感がある……というのは少々それは大袈裟なのだが――


(どこにいて何をしているかぐらいは知りたいなぁ……幸福度も)


不安の念は尽きることはない。

スマホで地図アプリを開きまだ行っていない児童養護施設を調べる。

どこに入所したかも知らない。いや、もしかすると両親の祖父母が孫の扱いに不憫に思い遠くの地で生活もしているのではないか。


「…それが理想的だけど、万が一も否めない。がむしゃらに探すだけでも」


もし比翼が問題視されている児童養護施設にいるなら助けないといけないだろう。

それはもしもの可能性に等しいが無謀に闇雲やみくもに探すには十分な動機だった。

俺はすぐに準備をして家を出る。

歩いていける児童養護施設の外側で観察したが比翼らしき女の子は

いなかった。

それに何時間とほぼ毎日といるため怪しまれてしまったのは迷惑を掛けてしまい申し訳ないことした。

電車の車内に腰を下ろしてスマホを弄っていた俺はある事を失念していた。


(そうだ!家にかぎを掛けてしまったから真奈に連絡しておかないといけないなぁ。

冬雅にも真奈に合鍵を渡してもらえるよう送らないと)


衝動のままに他の事を考えていなかった。

真奈が泊まっているため、なるべく帰らないと。既読はなかった。それはそうだ。午後2時と授業中なのだから見るような二人

じゃない。畢竟ひっきょうどれだけ眺めようと比翼の姿は無かった。

たぶんここにはいないだろう。家に帰る頃には20時に回っていた。

中に入って確認をすれば手っ取り早いが比翼との関係性を訊かれるのは必然的で堂々と正門をくぐれない。


(今日もこうして途方に終わったわけだけど真奈にどうやって言い訳をするものか)


冬雅達の前で少ない大人としての責務のようなものが働いて

比翼は幸せにしているとうそぶいている。実際は何をしているかと自問を何度も繰り返しての行動とどこまでも追いかけるような執拗的なストーカーまがいもの。


「ただいま」


靴を脱いで廊下を歩こうとして玄関からのドアが開き制服の上にエプロン姿の真奈が出迎えにやって来た。


「むぅ、お兄さん、お帰りなさい」


「…どうして機嫌が悪いのですか?」


「冬雅からお兄さん遅くなるからって理由で鍵を受け取ってどうしてワタシには持っていないのだろう?って悲しい気持ちで勉強して

お兄さんが帰宅を待っても一向に帰ってこないですし。

ワタシや冬雅がいるのに他の女の子とデートに行っているじゃ

ないかってイライラしていたなんて一欠片も思っていないから」


「そうか…。えーと、実は小説を書いていたら無性にリアルな日常を感じたくなって外をブラブラしていただけなんだよ」


「お兄さんが?仮にブラブラするなら一人じゃなくてワタシや冬雅を誘ってストレス解消とかのんびりとしたデートにして…くれるはずだから!」


「…そう強く断言されても」


真奈の確固たる主張に俺は顔が熱くなるのを誤魔化して苦笑する。

途中から恥ずかしさが襲っても打ち勝って最後まで発した真奈。

言葉を濁さずその言葉は嬉しいけど本当の事は言えない。

比翼がいないか児童養護施設の周辺を何時間も見ていたなんて。

真奈の真剣な問いに応えないといけない。


「そろそろ季節はハロウィンじゃないか。だからその準備をね」


「…そういう事にする。

お兄さんお腹を空いているよねぇ?作っておきましたので一緒に食べましょう!」


「一緒に?もしかして真奈が作ってくれたのか」


「………うん」


恥じらいながらも隠そうとせず静かな笑みを浮かべる。

にしても成長している。俺が隠しているのを見破っているのだろうが責めようとしなかった。

真奈に連れられ居室に入ると移山がソファーでテレビを見ているのをドアの音で振り向ける。


「よぉ、お帰り兄者」


「ああ、ただいま移山」


軽く言葉を交えて俺と真奈は隣で座ると移山は頬を歪む。


「知っているか兄者。健気けなげにも真奈は帰るのを待ち続いて我慢していた。それは食事を冴えてもだ」


「ちち、違いますぅぅーーー!!?」


真奈が絶叫をするのだった。

食べ終えると真奈は不死川しなずがわさんに動画の手伝いに行きますので……と濁してしまうのは俺が基本的に真奈には断れない事に気遣ったのだろう、おそらくは。


「超なつい!ほら入ってよカップル」


駅前の近辺にある不死川さんの自宅のインターホンで歓迎してくれる。

お言葉に甘えて入り「今日は妹がいないのかにゃ〜?」と比翼が同行していない事に不思議そうにする。


「その不死川さん。実は――」


俺は比翼が出ていった事に一瞬の迷いはあるが教える事にした。

単純に比翼が見つかる可能性が上昇するからだ。


「へぇー、そうなんだ。ヒヨリんはそんな事をしたのか」


「うん。立派だよねぇ比翼は」


「それじゃあ動画を始めるから繋げてくれないか?」


「はーい!……あっ、あああ!?」


コントローラを真奈はしっかりと握り初める。やる気は満々のようだ。


「これがきっかけでヒヨリん見るかもだよ。エモエモに励みになるかもしれないねぇ」


「動画…それだ!」


俺は不死川さんの何気ない言葉にひらめく。


「もし、これで比翼の目に入っていてくれたら最善の策になるよ」

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