第290話―カイダンバナシ―

ニートとしては光熱費を出さないよう気をつけてたい所だが、そうもいかない。

クーラーをつけないと熱中症で大変な事態になることもあるが、普通に冬雅達もいるので積極的に

使っている。自分で行動を移しているが8月分の光熱費がスゴイ事になっているだろうなぁ・・・・・。


(でもバイトする時間は比翼が出ていった時にすればいいか)


時は金なりと言う。その逆もしかり、しかし金は時なりと教訓を持っても人間は大事なものが見えない。以外にも目に映るものではなく視界に入れる方が見えなかったりもあるだろう。

何が言いたい方と問われば時間もお金も表情や心も完全に理解出来ず勝手な表情から読んで間違い、

言葉や心を推し量るも必ず欠点がある解釈にたどり着く。

言葉を尽くしても誤解はあるもので他の事も考察しないといけないが今は比翼といる時間がそのお金よりも貴重度が比較にならないぐらい高い。


「・・・寝顔を無断で撮るのってこんなにも罪を意識させられるものなのか」


テントの中で隣に気持ち良さそうに眠る比翼の寝顔を撮っていた。

いつか未来の比翼に見せようと思っていたが危ない行為にしか思えなくなった。


「うーん、おにいちゃんまだ早いよ。ガツガツすると女の子は

冷めやすいんだよ。でも、わたしの前だけは・・・」


(・・・なんて夢を見ているんだよ比翼。

どんな夢か知らないけど)


ロクでもない夢なのは想像がつく。

まさに夢心地よさそうにしている比翼を起こさず忍び足でテント出る。リビングにテントもあるのも2日目となれば違和感は然程なかった。

冬雅は昨日の遊び疲れたのか姿がなかった。いつもならここで朝食の準備しているが俺は今日も一人だけで増えた人数分を作る。

全員が食卓に集まるまで料理を出来上がり手を合わせて毎日とする食前の言葉を告げると、それぞれ近くの人と談笑が始まる。


「すごい人数になっているなぁ」


「お兄さんやっぱり急に泊まる事になって迷惑を掛けたのなら出て・・・冬雅の家で泊まるけど?」


「わ、わたしの家に!うん比翼なら歓迎だけど。お兄ちゃんはそんな事を微塵も思っていないよ。

ねぇ!お兄ちゃん」


「ああ。冬雅の言うとおりだよ。真奈がここの生活に満足しているか俺の方がヒヤヒヤしているぐらい」


俺の独白を右隣に座る比翼は気を遣う。向かいに座る冬雅は箸を止めて、にこやかな笑顔でそう言った。


「ねぇ、あの人っていつもあんな感じなの?真奈様と近い。イライラしてきた」


「そう怒るなって」


右端では苛立つ香音を移山が宥める。

残念な事に香音の要求を叶うのは難しいと思う。ここ最近はマイナス思考になりやすい真奈と距離感を取れば著しく落ち込む。

どうしたものかとお茶をゴクゴク飲む。


「おにいちゃん食べて食べて!

はい、あーん」


「んっ。・・・・・い、いや冬雅そんな事をしなくてもいいよ。

そして真奈も!」


比翼だと抵抗なくしていたけど、対抗心とは違う何かに突き動かされた冬雅と比翼は口あーんしようとするのを拒否する。

予想した言葉だったのか二人は

微笑をするのだった。

朝から夕方まで冬雅達は二階で勉強会、俺と移山は一階にいた。


「なぁ兄者いいか?」


「ああ、構わないよ」


主語が無くても大体は長くいるので何を伝えようとするのか自然と理解している。移山は画面に向けたままで話をするつもりだ。


「結婚できるのは一人なんだから一夫多妻制は無いから気をつけろよ」


「・・・急になんの忠告されているの俺!?いや言わなくても知っているから。おそらく日本中の人は知っているはずだから」


「いや、あんなのを見たらなぁ」


「それを言われたら強く否定できない。別にほだされているわけじゃない。たぶん」


「それ絆されている発言」


「無意識ではあるかも・・・しれないけど悪い方向へ進んでいたらすぐに壊していく」


「ふーん」


聞きたいことは聞けたと言わんばかりに話の区切りを生返事で終わらせる。そんな反応はいつものこと。

そして数時間が経化して日は傾き窓越しから薄暗い光が居室を哀愁感を漂う空間と飾る。


「おにいちゃん怪談話を夕食後にしない?」


「怪談話?ああ、いいよ。それで比翼そんなに好きだったのか?」


「ううん、別に。楽しそうだったから」


勉強時間は終わり冬雅達が階下のリビングに寛いでいる。

ソファーで座っていると比翼が俺の膝に寝転がり仰向けで怪談話をやってみたいと興味本位で言った。


「まぁ別にいいか。冬雅、真奈、香音よかったら怪談話を一緒にやってみないか?」


「はい!参加しますお兄ちゃん」


「やりますよ、お兄さん」


「ふわぁ〜、OKよ」


異論ある者はいなかった。そんなわけで夕食を食べ終えて始める。

部屋を暗くしてダイニングテーブルには蝋燭ロウソクの火だけが明るく照らしている。

夏の風物詩に数えられるだろう一つ。晩年ぼっちレベルの俺は無縁な話だったがどう怖い話をすればいいのか。


「一番槍はわたしだねぇ。

孤独を愛する16歳の女子高生は隣の家に住むお兄ちゃんを密かに想っていました」


最初のターンは冬雅なのだけど、俺が自意識過剰なのかデジャブを感じる。違和感を覚えたのは俺だけではなく真奈と香音も。


「告白に失敗した彼女は、お兄ちゃんの優しさに甘える事にしました。そして、まだチャンスがあると闘志を燃やしました。

七転八起しちてんはっきの精神で挑みました。次の日にアマゾンでかわいい服を選び告白。その次の日には情報収集した結果に好みの女の子を知り実行した成果は大きかった。

そのその次の日には偶然を装って待ち伏せをして運命の人だと思わせる作戦を――」


「冬雅おねえちゃんヤバい人にしか見えなくなってきた」


戦慄する比翼。これ冬雅の実体験じゃないだろうか。確かに運命の相手だなと思いタイミングよく何故か会う頻度は高かった。

それから話は終らず続いていく。暴露していく。怖い話ではなく暴露話に変わってきている。

お兄ちゃんを酔わせて襲ってもらう作戦を具体的に述べた段階で移山以外は戦慄する。ときどき怖くなる内容もあった。


「普通の怪談話をします」


2番手は真奈。もう一番手でいいのではないだろうか。怪談話を本格的にスタートするので。


「長い髪を前に垂れた隙間すきまから赤く染まった血色の目。真っ先に思ったのが血色の目。自分はなぜ赤い瞳と感じないのか不思議だった」


オリジナリティとはいえストーリー性は面白く塩梅あんばいのいい恐怖を味わえて終れば満足した俺達は大きく拍手をした。


「3番手はわたし」


次は比翼の番と回る。気合を入って白装束しろしょうぞくで袖を通して気合を感じる。


「井戸の中からただれた大人の女性が、だあぁー!とスゴイ勢いで上がってきた」


怖さよりも自由性があるストーリーは心をほのぼのとさせる。

比翼が途中から優しい世界ので物語は終わったのだ。


「4番手は私だって?ふん、いいわよ」


香音は嫌々そうにするが僅かな声音の変化に憤りを感じなかったのだ。


「月を仰ぎ見るとオオカミになり見境なく襲ってくる・・・そして」


香音は少し説明口調が多かったが最後に俺が回ると全員は耳を傾ける。小説家として可及的に考察をする。


「これは少し前にあった悪夢の話」


最後までやりきると稚拙な怪談話に俺は恥ずかしさが襲われる。

冬雅達は楽しそうな笑みをこぼすのだつた。

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