第120話ただしいと思っても疑うべき

真奈が別れの言葉をして嗚咽していき走っていく姿を引き留めようと手が伸びたが下げる。


(これでいいんだ。真奈が恋を諦めて前向きに人生を歩もうとしている。本人だって泣いていたけど笑って応援などしてくれた。

そうだ。だから間違っていない)


年の差は壁があってどうしても周囲がそのジャンルとして見て勝手に解釈して向けてくる。

そして当の本人も年の差という壁を本気で見ようとしない。


俺も知らないのが適切だろう。

結局、たどり着くのは後悔と寂寥。絶対に上手くいかないのが持論。理想的な別れとは思えないけど少なくとも真奈は前に進んでいくだろう。


「上手い別れることを考えていたんだ。これでよかったんだ。

・・・これで」


そう言い聞かせ無理に納得しかない。真奈の恋を終わったことに心が痛むが俺なんか好きになると

幸せなんて絶対に訪れない。


「ただいま」


ドアを開け帰宅を知らせる言葉をするは冬雅がまだ俺の家にいるとなんとなく核心的な根拠もないのにそう思った。


「おかえり・・・お兄ちゃん。

その、どうでした?」


学校の制服ままにエプロン姿した冬雅が居間のドアから迎えてくれた。ここは俺の家なのに、ただいまとおかえりを言って可笑しいのに、冬雅と同棲していると錯覚してしまっている。冬雅は真奈を心配させたまま。嘘をついて笑顔にさせるか一瞬そう思った。けど。


「ごめん冬雅。もうこの家に来ないって」


「えっ・・・・・お兄ちゃんの家に?」


「そう、言うことになる。

とりあえず、長くなりそうだから中に入ってから」


「う、うん」


真奈がいないことに吉報ではないと冬雅は不安げだったかもしれない。俺は冬雅の笑顔を見たいと渇望していて涙ぐんだ顔を見たくない。嘘をつかなかったのはそれ以上に隠し事をしたくなかった。


真っ直ぐで危うく心配したくなるほどの、その真っ直ぐさに。


(心配させて、不安にさせてばかりでどうすればいいんだろうか)


居間に入るまで言葉は無く、リビングテーブルに座る冬雅の向かいに座る。さすがに眩しい笑みは影を潜め深刻と不安な顔をしている。事情を真奈と別れる経緯などを説明をしていく。

冬雅は相槌を打ちながら徐々に陽が沈むようにどんどん暗くなっていきうつむいていく。

相槌を打たなければ言葉を言わず視線も向けずに。


「決別のきっかけは・・・俺には

分からなかった」


俺と冬雅の照れる姿に決別の理由なんて伝えず嘘をついた。

隠さないと決めておいて、矛盾している。


「冬雅に迷惑をかけた。

親友に苦しませてしまって・・・」


「お兄ちゃん、考えすぎです。

わたしよりも―――」


おもむろに顔を上げて上目遣いで

優しい瞳で向ける。言葉は少し途切れるが、耳を傾けないと聞こえない深呼吸。


「・・・お兄ちゃんは悲しいんじゃないですか」


「悲しい?慣れているよ大人だから」


「そうだとしてもだよ。

心に留まらないで吐くと気持ちが楽になりますよ」


「・・・・・」


冬雅は、儚そうに微笑む。

長い付き合いと言えないけど悲痛の笑みなのはすぐに気づく。

俺のために笑顔を作っている。


「お願い・・・お兄ちゃん」


お願いするなんて、間違っている気がするけど冬雅らしい。


「情けない言葉や姿を見せることになるけど聞いてくれないかな」


「・・・・・うん!もちのろんだよ」


少しだけだけど明るく純粋無垢な笑顔で返答する冬雅を見て俺の闇に抱えていた感情をキレイに浄化していくようになっていく。


「真奈は前に進むって、叶えられない恋をかてにして。

そんな風に言っていたよ」


「うん」


「自然な笑みじゃなくつたない笑みをしていた。笑顔を作るのが上手くないんだなぁ場違いにそう思ったよ。

えーと、つまり無理しているって分かっているけど、これ以上ずるずるといれば取り返しのつかないことになるじゃないかって恐いんだ」


「恐い・・・ですか?」


「ああ、恋愛経験が皆無だからなのか何が起きるか分からないのが恐いんだ。マンガのように複数から好意を向けられてハーレムって呑気のんきな気持ちになれない。必ず苦しませてしまう。報われなかった苦しみが、どんなものか分からないけど真奈をひどく泣くと思うと・・・現実は

どうしてこんなにも難しいんだろう」


真奈と笑顔でゲームして文化祭やデートまがいなど色んな思い出が

浮かんでは消えていく。まるで走馬灯そうまとうのように。


「そうだよねぇ恋愛すごく難しいよ。毎日ずっと告白しても

受け流すように笑うし、かわいい服やコスプレしても子供を向けるかわいいですし、ときどき赤くなったり慌てるのも普通の反応で

苦しくてつらくなります」


途中から、暗くなり涙目になって

ポツポツと小声へなっていく。


「ふ、冬雅そのごめん!

ドキッとすることもあるから、そう落ち込まないで元気に!」


「うぅっ、そうですね。ぐっすう」


嗚咽する寸前に追い詰めたようで罪悪感で胸が痛い。


冬雅はそう判断するけど、そのアクティブな行動力に好きになったと思っている。まだ、好きと呼べるものか分からず曖昧にしか

表現できない。軽く裾で涙を拭う冬雅、もし好きになったかもしれないと伝えるには、時期早々。


本当の好きだって自分で判明するまでは。


「冬雅が悪い方へ考えるけど俺は冬雅がいてくれてすごく救われているよ。返しきれないほど

多くをもらっている」


「そ、そうですか?

わたしの方がお兄ちゃんに多く愛情をもらっていますよ。

料理とか温かい対応や相談の時間や言いやすいのも・・・えーと、

語り尽くせない多くを」


理由を述べて指を折っていき

頬をほのかに赤みをさして控えめな笑みを浮かべる。


「残念だけど俺の方が多めだよ。

冬雅がもたらした幸福は想像に絶するほど。

ずっと、居てほしい思えるほど」


「でしたらお兄ちゃんよりも

上だって強く主張しますよ。

わたしの方が絶望から手を伸ばしたお兄ちゃんに大好きで多く学べる大人なんです。

お兄ちゃんが、道徳を学べるというか薫陶くんとうを授けてくれるんです。言動によって」


真奈にそう思っていたことに雷に打たれるほど衝撃を受ける。

薫陶なんて俺が教えることなんて

ないはずだ。せめて、こんな大人にならないよう努力しようと

醜悪で忌み嫌われると思う。

他山の石たざんのいし、反面教師、駄目の手本・・・ほぼ同じ意味を3回も心でぼやくほど。


「ち、ちがう!俺はそんな立派な人間じゃないよ。純粋無垢で天真爛漫てんしんらんまんな冬雅に相応しくない人間なんだ」


「ううん、違いますよ。

言動や温かさはを合わせて聖人君子そのものですよ。

聡明でぬけているのがギャップあって狙っていない天然なんです!

だから、お兄ちゃん自分を少し好きになってくださいよ」


胸の前でを腕を祈るように絡ませて上目遣い。


「検討させてもらうよ」


「絶対ですよ」


俺が頷くと、冬雅は安安堵のため息をして切実な懇願からキラキラと輝きそうな飛びきりの笑みをする。


「それにしても大人げなかった。冬雅の影響で熱くなりすぎたね」


「は、はい。でもお兄ちゃんが

わたしをすごく思ってくれて

嬉しいかったですよ。えへへ」


神速で秒ほど速さで色んな顔をする冬雅に苦笑をこぼす。

冬雅が俺の汚い笑みに嬉しそうに

笑みを増す。ま、眩しいぜよ。

誤魔化すように咳払せきばらいして肘を机に両手を組み

値踏みするようなポーズ。


「明るくなったところで、真奈の件を戻すよ」


ここからは閑話休題かんわきゅうだい。今後のことを冬雅に

相談しなければ。


「は、はい。お兄ちゃん!

いつでもいいですよ」


「利己心的になるけど真奈を

これからもゲームや食事もしたい」


「はい!」


「なので、冬雅・・・・・これから

デュエルしてほしい」


「もちろん・・・・・・えぇ?

デュエルってお兄ちゃんと真奈がよくやるカードゲームですか?」


俺は首を縦に振り肯定する。

当然、冬雅は混乱して疑問を通り越して心配してきた。いや精神が病んだ人のように向けないでほしいのだけど、正常だよ。

まぁ頭のおかしい発言しているのは否めないけどね。

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