第103話フィールド・トリップ其の弍

意識が徐々に戻っていく感覚。

頭や身体が目覚めたばかりの独特な眠気が残っていることに、

気づき次に俺は起きたのだと

気づく。軽くなったまぶたを開ける。


「冬雅?どうして俺の部屋に」


隣の家ではなく冬雅が俺の家に

いたことに軽いパニック。

夢か現実かと自問自答

そして、昨夜の事を思い出す。

もしかしたら、目覚めて格好が

学校の制服だったからだろうか。

リゼロ15巻を読んでいた冬雅は

顔を上げ、笑顔を向ける。

どうやら、泣くシーンはまだ

進んでいないと見た。


「お兄ちゃん!

おはようございます。

忘れたのですか、今日は一緒に

寝たじゃないですか」


「ああ、そうだな。

布団をわざわざ片付け

ありがとう」


「えへへ、お兄ちゃんに

褒められました」


「お兄さん、おはよう」


椅子に座っていた真奈が、見下ろし挨拶。恥ずかしにして。

そんな反応にこっちまで

恥ずかしく落ち着かない気分になる。


「おはよう真奈・・・えーと

勉強を邪魔だった?」


「ううん。ちょうど休もうと

思ったところ。それよりも

お兄さん・・・手を・・・・・」


「ああ、いいよ」


真奈が立つと手を差し伸ばしてきた。俺は握りベッドから腰を

上げる。真奈の手は、暖かく、

居心地がいい。

想いが流れていき一種のコミュニケーションを取れているように

信じてしまいそうになる。


「お兄さん。いいですか!

ワタシ達がいないからって

朝寝早起きはちゃんとして

ください」


「大丈夫だよ。もう立派な大人

だから」


「それが、心配しない理由にも

理屈にもならないから!」


一蹴されてしまい、部屋を出て

階段を降りていく。

真奈に手を引かれ居間に入ると

早速、三人で朝食を作ることに

なるのかな?


「あれ?もう作っていた?」


「えへへ、わたしと真奈はねぇ!

お兄ちゃんの部屋でドキドキ

しっぱなしでなかなか眠れずにいましたので料理も

作っていました」


後ろの冬雅が俺の疑問を答える。

なるほど、好きな相手がいる

部屋で寝るのは確かに

熟睡なんて難儀だろう。


「あとは、火を温めるだけだからお兄さんは顔でも洗いに行って

ください」


手を離した真奈は、コンロに

火をつける。・・・結婚して何年のお嫁さんのみたいな行動に

わ、分かった。っとうわずった声で洗面所に向かう。

うわぁー、髪がボサボサだ。


「えへへ、来ちゃいました」


「うわぁ冬雅!?」


鏡に映る妖精のような美少女、

冬雅。俺の後ろ右に現れた。


「叫ばれると、オバケみたいですねぇ。わたし」


「オバケか・・・」


男同士では、オバケの話は基本的にしないというか発想しない。

年頃の女の子ならオバケと

言葉に出しても不思議ではないと

本で学んだ。


「冬雅も洗面所を使うなら

どこうか?」


「いえ、いえ、お構いなく。

わたしはお兄ちゃんがしているの

見ているだけですから」


「・・・・・えーと、駄目だよ」


「ダメです」


駄目と応戦。まぁ、いいかと

思い顔を洗い髪を整える。

さすがにトイレに入ってついて

こなかった。さすがに、そこまで

ついて来なかったことに安堵。

さて、これだけで精神が疲れ

居間に戻る。


「お兄さん、冬雅!もう

そろそろできるからテーブルに

座っていて」


「了解!」


「はーい!お兄ちゃん行きま

しょう」


向かいに座る冬雅にリモコンを

渡しニュース番組を押す。

冬雅と朝は、いつもニュースか

アニメが多い。


「はい。今日は目玉焼きとウインナーと味噌汁だよ」


テーブルに置かれる皿の上に

定番の朝食メニュー。

真奈は、再び戻り持っていく。


「手伝うよ」


「いいよ、別に」


上げようとした腰を下げる。

真奈が最後の自分の分を置き

俺の隣に座る。もはや定位置。


「「「いただきます」」」


手を合わせ一人だと決してしない

言葉を発する。


「あれ?料理は、冬雅は

手伝っていなかった」


「そ、そうですけど。

言い方がキツイです!」


「フフ」


「はは、」


「えへへ」


どうして笑ったのかよく分からない。真奈に釣られたのか、

温かい食卓に自然と出たのか。

どちらとも当て嵌まるだろうか。

食べ終え、残った時間はいつものアニメを鑑賞。


「お兄ちゃん・・・そろそろ

時間なので行きますねぇ」


「もう、そんな時間なのか。

続きは帰ってからだね」


「うん。お兄ちゃん・・・

当分は会えないけど、ずっと

大好きだって気持ちは

忘れないよ」


「・・・・・・」


儚そうに笑う冬雅。


「いや、修学旅行に行くだけだから大袈裟。お兄さんも流れ

ないでくださいよ」


「そ、そうだね。ごめん」


真奈に指摘されるまで遠く

行くのだと認識してしまった。

俺は玄関に行き二人を見送る。

二人は靴を履き終え振り返る。


「お兄さん少し寂しいですが

行ってきます!

お土産、期待してくださいねぇ」


真奈は、左ウインクして

顔を少し傾けて言う。

あざとい行為だとすぐに解るけど

真奈は、やってしまった!

言わんばかりに顔の一面を

真っ赤になる。


「ああ、安物で構わないよ」


「そ、そうするわ」


真奈は、腕を組みそっぽを向く。

俺は苦笑して冬雅は微笑を

浮かべていた。

次は冬雅の番と俺は用意した

言葉を言う。


「冬雅、修学旅行を楽しんで。

いい思い出が出来る。

後で聞かてくれ」


「・・・わたしは、お兄ちゃんと一緒に行きたかったですよ」


「・・・・・冬雅・・・」


俯く冬雅の姿に、憐憫れんびんの感情が込み上がり

すぐに行こう!っと衝動的に

口に出そうになる。


それは出来ないと常識に分かっている。その前に淫行だって

疑われたら終わりに近いんだ。

冬雅や真奈を白い目を周囲が

向くのが怖い。この食卓で一緒も

笑顔もアニメもゲームも出来ない

のは嫌なんだ。

・・・落ち着け俺。そんな選択を迫られることじゃない。


「大丈夫だよ。冬雅・・・

修学旅行でもラインで送れば

距離が離れても、声だって

文字だって送れるんだから」


「お兄ちゃん・・・うん。

そうだねぇ。えへへ」


少しだけ、ぎこちない笑顔。

本当に修学旅行なのか疑いたくなるほど深刻そうにしている。


「冬雅、真奈、修学旅行を

楽しんで行ってね」


「はい。お兄ちゃん」


「うん、お兄さん!」


二人は笑顔で頷く。冬雅も

ぎこちない笑顔は無かった。

気のせいだったかもしれない。


「あの、お兄ちゃん」


気のせいではなかった。

冬雅は、両手を胸の前で組み

祈るようにして、声を続ける。


「わたし離れてもお兄ちゃんには大好きって気持ちは、ひとときも忘れない・・・絶対に。

お兄ちゃん、大好き。

ずっと、この想いはせることない!」


「・・・・・あ、ああ」


「ハァー、いつまでやって

いるのよ冬雅。お兄さん

それでは今度こそ行きます!」


「わぁ!?お兄ちゃん

それじゃあ」


「あ、ああ。気をつけて」


冬雅は、手を引かれ大きく手を振る。真奈は控えめに手を振る。

微笑ましい光景だなと思いながら俺も手を振り返す。

ドアが閉まる。俺は後ろ髪を引かれる気持ちで居間に戻る。

ノートパソコンを立ち上げ

執筆活動を始めた。

無我夢中で小説を書き続け

トラブルを解決しキレイに終わったところで休憩しようと伸びをして時刻は、午後3時に

迫ろうとしていた。


「うわぁ!?早く買い物して

冬雅達が来る前に」


俺はすぐに立ち上がり少し前、

否!今朝の出来事をフラッシュバックのように思い出が頭に

よぎる。


「そうだった。修学旅行・・・

今日は一人だからインスタントでいいか」


慌てる必要はなくなり、

冷蔵庫を開けブレーンヨーグルトを皿に少し入れ次に大根おろしと

ハチミチを混ぜ完成。

スープンを取って、ソファーに

座る。リモコンをつけニュースを

なんとなく観る。


「冬雅達、今頃は楽しんで

いるかな?」


食べ終えると、テレビを消し

食器洗いすぐ執筆を続ける。

夕日、夜と時間が流れていき

小説を書き続ける。


しかし、指が少し休みたくなり

休みがてら夕食を食べるか。

とりあえずカップヌードルを

湯に注ぎ報道番組をつける。

3分が経ちめんをすする。久しぶりのカップ麺は

美味しかった。その一方、奥底にあるなにかが満足していない。


(なんだろう。この・・・

穴が空いたような苦しさ。

寂寥感と郷愁感の二つに感情が

支配されたように。虚しく

声も無く、手の温もりも、

照らす笑顔がない)


それから、入浴して執筆。

それから、掃除して執筆。

それから・・・スマホを見る。


「あ、あれ?ラインのメッセージ

量がスゴイことになっている!?」


ラインのアイコンを押すと

冬雅と真奈の三人だけのグループにおよそ百ほどもあった。

最初を見よう。


お兄ちゃん今は、電車の中です


お兄ちゃん。京都について

散策中です!


すごい!写真を贈りますね


あれ?忙しくて既読が無い?


お兄ちゃん!わたしを見て


お兄ちゃんお願い見て


っと、冬雅のメッセージ。

写真には東山慈照寺ひがしやまじしょうじこと銀閣寺の写真。

室町幕府むろまちばくふの8代将軍の足利義政あしかがよしまさが建てたことで有名だが、当初は東山山荘(または東山殿ひかしやまどの)と呼ばれ義政が亡くなってから

臨済宗りんざいしゅうの寺院となった。法号ほうごう(亡くなった人に僧侶がつける名)の慈照院から取り、慈照寺。

それは、さておきここからは真奈のメッセージ。


東洋お兄さん冬雅が心配しているから

早めに返してね


東洋お兄さん銀閣寺って知っています?またの名は慈照寺と呼ばれていたんですよ


東洋お兄さん見ていますか?


東洋お兄さんいいかげんにしろ


など後は似たようなメッセージ。

そして、後半は午後6時以降。


お兄ちゃん真奈は怒っているようなスタンプとかセリフが

ありますけどすごく心配しているよ。だから返事して


東洋お兄さんもう

何やっているのよ!

冬雅が変なメッセージありましたけど、まったく違いますので。

冬雅が心配しているんですよ


お兄ちゃん真奈は、心配だって

頻繁に使っているので信じて


東洋お兄さん勘違いだから!


お兄ちゃんそろそろ既読でも

いいですよ


ここからは、20時。


お兄ちゃん返事をして


お兄さんもしかして倒れている?


お兄ちゃん!!


イタズラなら許すからお兄ちゃん


やだ。お兄ちゃん早くお願い


よし!最後まで読まずにすぐに

返そう。


ごめん。遅くなった!


っと、返事。

冬雅と真奈にスマホが電源を切っていたことに正直に伝える。

安心と喜んでくれたけど

少し怒られた。


『お兄さんおやすみ。

冬雅に代わるねぇ』


『変わりました。お兄ちゃん

これって遠距離恋愛ですねぇ!』


「そうなるね・・・いや

恋愛は、カップルとか正式な

恋人であるんだよ!」


冬雅の言葉に戸惑い突っ込んだのが原因なのか、返しの言葉が

待っても来なかった。


「・・・・・冬雅?

なにか変なこと言ったかな」


『う、ううん。お兄ちゃんが

ツンデレみたいなセリフで

ドキドキしたんです』


「いや・・・うん。そうか」


『そうです。それじゃあ

お兄ちゃん。わたしもそろそろ

寝ますねぇ。おやすみなさい』


「ああ、おやすみ冬雅」


『お兄ちゃん愛しています!』


そう言うと、すぐに通話を切られた。東京から京都にいても冬雅が課している告白はするのか。

冬雅らしさに俺は口角を上げていた。軽く執筆して二階の部屋で

俺はベッドで眠りにつこうとする。


(冬雅と真奈の声やメッセージに

温かいもの感じた。

そして・・・俺は冬雅に

好きになっていることも。

これが恋愛なのか正直、

判断出来ないけど・・・・・)


意識は途切れ、眠りに誘われて

いく。

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