第50話ターニングポイントは無い

俺は、真奈と二人で電車に揺れながら

手を繋いでいた。


特段、珍しいことではないけど

電車まで繋ぐのは無かった。

二人だけなのもあるけど

真奈が離そうとしなかった。

言葉や表情ではなく握力で。


真奈が制服だったため、淫行とか

見られたがもう気にするのはやめた。

本当に気にすべきは、真奈の方だ。

こうして、手を離そうとしないのは

長く居たいのだ。


本当に素直じゃないと簡単ではない。


(真奈も自分の恋心に戸惑って

苦しんでいる。多感な思春期の

ありがちとか、違うなにかを思う。

それが、冬雅を思う優しい心だと

確信に推論するけど)


「・・・東洋お兄さん。

ワタシと居てつまんないよね」


電車の中で入っての第一声。


「そんなことないよ。

真奈と静かにこうするのも

落ち着くんだよ・・・私は、

隣に信頼している人がいると」


「お兄さん・・・・・」


なんだろう。まるで、中高生の

ような空気になってしまった。

もう少し、現実で恋愛をするべき

だったか。その前に人生で

彼女いない歴が年齢だけど。


電車を降り、住宅街に歩を進む。

学生やサラリーマン多い。

送るときはもう少し遅めなので

カップルよりも淫行だと意識して

しまう。

すぐ頭の隅に追いやりましたけど。


「真奈は、カードゲーム好きだよね」


「急になんだですか東洋お兄さん?」


「俺の家でデッキをいくつか

持ってきているし。

声優さんのサイン入りとか

あんなたくさん見れて眼福だなぁと

思い出していたんだ」


特に好きな声優さんのサインは、

はしゃいだことがあった。

冷ややかな眼差しを向けられるのも

懐かしい。


「はぁー、そうなんですか。

東洋お兄さんってカードには

強くないですからね」


「いや、強いと言いたいけど

楽しさ重視のデッキを組むから

弱いかもしれない」


真奈は、勝利を重きにしているため

デッキの研鑽に余念はない。


俺のように、このカードを使いたい!

理由でデッキに入れコンボや

次の布石などまったく考えない。

カードゲームをする人のスタンスは

様々なのだ。


「でも、ワタシ楽しかった。

少なくとも東洋お兄さんのデュエルは、優しい気持ちにさせる

ものだったんです」


真奈は、握る手に力を入れる。

痛いとかではなく、想いの強さを

感じるものだった。


「真奈・・・恋愛感情を関係なく

もう一度、デュエルやカードショップに行くのも楽しいはずだよ」


「でも、想いは強くなっていく」


繋いだ手を真奈は、解き

距離を取った。

まるで、出来た距離が壁のようだ。


近づき強引に物理的にしても

効果は逆効果になる。

それに、そんな方法はしたくない。


「・・・東洋お兄さん。

せめて、これだけ約束してください。

もう金輪際こんりんざいに会わないと」


真奈と同じ速度に歩みながら、

真剣な表情と言葉を放たれる。


「分かった。でも真奈か

それを破っても構わないよ。

明日とかでも?」


「ワタシの決意は固いですよ」


「そうだね。でも永遠に変わらない

ものはない。感情も」


「夢のないことを言うなんて

東洋お兄さんらしくないよ」


「そう評価していたんだ。

でも、変わらないって言葉はよく

使われるし響きがいいかもしれない

けど、それは聞いた側からすれば

束縛に近い言葉だよ。

変わるのは、今よりも。

悪いほうへ変わっていくのもある。

理想的に変わるのは本人の

強い気持ちがあれば成せると思う!」


俺の持論を静かに聞いてくれた真奈は

ポカンと口を開けて呆然としていた。

しばらくしてから微苦笑を浮かべる。


「お兄さんらしい。

ワタシの家が近いので

後は一人で大丈夫。

ばいばい・・・ううん。

さようならお兄さん」


「さようなら・・・見せかけって

また、会おう真奈!」


俺は、軽く手を振って真奈の背中が

見えなくなるまで 見送る。


(次に会うときは

最高の笑顔を期待するよ真奈。)

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