第42話スケアードと告白

真奈を見送り、俺と冬雅は夜道を歩いている。

夜空を見上げれば星がまたたき黒いカーテン。こうして歩くのだが…


「うぅー、お兄ちゃん。こわい」


「こわい?えーと、怖いというのは 」


右腕を身体で未着してくる冬雅。

胸が当たってドキとしてしまう。

顔にも態度にも出ないよう

気をつける。…そんな指摘、

当たってなど言っていいのか躊躇ためらい難しいかった。

小さいけど柔らかいなどと邪気が脳裏に過ぎってバカなことも考えている。

それよりも、冬雅の怖いというのをどうにかしないと、

大体はどんな返事をするのか想像つくが俺は尋ねた。冬雅は少し迷いながら言葉を発する。


「ホ、ホラー映画でしょうか?

こういう暗い場所に幽霊とか、

化学兵器の実験室で凶悪になる

ウイルスで人喰いオオカミとか

出てくるのかなって」


やはり、ホラー映画か。

だいたいの恐怖を増長させるのは怖いトークが影響される。でも、

人喰いオオカミはなんだろう?


「そうか。……

でも、映画は俳優とかCGで演出

しているわけだから。

あの映画のような事はならないよ」


「そ、そう理屈では分かっている

んですけど、心はそうでも

ないんです…お兄ちゃんは

平気なんですか?」


平気かと訊かれたら、欠かさずに迎えて、毎日いつもの夜に恐怖を覚えることにはなかった。

恐怖の対象で語るなら、どちらかと言うと人が怖いのだ。

煽り運転とかするし仕事で疲れきったニヒルな笑みとか。

…うわぁ、普通に怖いなぁ。どうして思い出したんだ!!

昔そういう人がいた。特に意味もなくニヒルに笑う

ビジネスマン(20前半くらい)に

恐怖を覚えたことある。何年前かの

記憶をリプレイ。


「ほ、ほら冬雅。未着するよりも

手を繋いだ方がいいんじゃ」


ようやく言えた。胸が当たり、いいニオイで強く戸惑わせられて、どうにか触れないよう言葉を上手く言えた。

こう近くで触れることが、慣れて いないので自分。


「す、すみません。迷惑ですよね。

動きづらいし、汗とかも。

でも、こうしていると安心するので

…ダメでしょうか?」


ま、まずい。至近距離からの上目遣いには恋人みたいな絵図のような瞳。

それに、冬雅がなにかを考えて意図的な行動ではなく本能的にこうされているので妙に緊張する。


「駄目じゃないけど怖いなら

明るい話でもしないか?」


「明るい話ですか?」


「そう。景色や観た映画が恐怖を

生むなら、明るさで霧散させる

戦法。たとえば…好きな

ゲームとか行きたい場所とか」


しまったなぁ。JKさんと共通の話題がまったくない。


「うーん、好きなゲームはとくに。

行きたい場所ならお兄ちゃんと

映画とか買い物。

それに、海外に行くのも…

えへへ、想像したら

行きたくなってきたよ」


怖がっていたのに、もう例による恋愛脳になって想像の翼を広げる。

悶える一歩前の小刻みに身体をリズム的な動きで左右に振っている冬雅。

そんなに行きたいのか…

前向きに検討でもするべきだろうか。

海外に、でもそれは想像もつかない道な領域だ。


「きっと、冬雅や真奈で行くのも

楽しみだな」


「ですね。あと、他にも友達も

一人いるんですが、その人も

来たら楽しいそう」


明るく笑みを向けて語る冬雅。

恐怖は、すっかり無くなっていた。

無事に家まで着き冬雅が家に入るのを

見守ってから俺も自分の家に向かう。

こうすると、保護者みたいだなと

改めて思ってくる。

後ろからドアが開く音。


「お、お兄ちゃん!やっぱり

無理ですよ。き、今日は家に泊まらせてください!!」


踵を返しての最初の一歩を踏んだ瞬間に飛び出してきた冬雅。

ドアを施錠しカギをポケットに入れ、俺の前まで走って立ち止まり、そうお願いされる。


(…まずいだろう!とか

言えない自分が悲しいぜよ)


冬雅が、今にも泣きそうでとてもとても断れない弱々しい姿。

このまま、怖いまま家に一人させると

焦心苦慮しょうしんくりょは避けられない。答えはイエスのみ。

冬雅は、ジャンプして喜んでいた。

俺は、ため息が後になって気づく。

まずは着替えを用意することで冬雅の

家を一緒に入り部屋の前で俺は

待たされることになる。

男性が見てはいけないものが

あるからね。うん。下着とかなにか。

ではバッグを持ち俺の家へ。

前には冬雅を泊まらせた事あるが

最近は、その頻度が減り廃れたと

思ったが今宵、復活した。

リビングルーム、ソファー左に冬雅。


「えーと、とりあえず冬雅の

寝所は、弟の部屋でいいかな?」


前に泊まらせたときも一時的にあるが使っていた。

弟が変えるのは、夜だしラインで

ノルウェーの首都オスロにいる。

遠いと心中で叫ぶ。


「そ、その…同じ所で

寝たいのですけど」


「同じって…もしかして…はっ!?」


「うん。……お兄ちゃんの部屋に」


「いやいや!それだけは駄目だよ

冬雅。たとえば危険な事をされる

可能性だってあるよ」


「それは、心配無用だよ

お兄ちゃん。だってお兄ちゃんは

手を出すようなロクでもない人

じゃないですから」


信頼をしきった笑顔。

冬雅の言うとおり、俺は絶対にしない

けど他は違うのだ。

その油断をすれば、冬雅は………

苦しい思いをさせることになる。

前触れもなく俺以外の人を好きに

なるのだって不思議ではない。


「ね、寝ているときが一番に

怖いですし…その、

お願い!お兄ちゃん」


はい、またこの手段ですか。

はいはい俺は上目遣いされた美少女のお願いには断れない性分ですよ。


「…ハァー、分かった。

でも俺は床、冬雅はベッドでいい?」


「は、はい!」


冬雅もかなり無茶な頼みだと理解しているのだろう。

まさか、受け容れるとは思わず目を丸くなる。

そして頬を赤らめ明るく返事。

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