虹を架ける少女

「あ、ベレーさん!キャシィさん!」


 帰りの支度をしていると、ビスが駆け寄ってきた。

 その手には淡い色をしたマフラーがあった。


「見てこれ、朝起きたら枕元に置いてあったの!」


 滑らかな生地が光を反射して、虹色に輝いている。


「誰が置いたのかなあ、お母さんかな、お父さんかな」

「どうだろうね。きっと、いいことをしたから神様がくれたのかも」

「いいこと?私いいことしたかなあ」

「知らないうちにしてたのかもね」


 虹を架ける鳥。その存在をあえて告げるのも無粋なものだろう。

 異変は解明された。帰って報告しよう。


「あなたの夢が叶うことを願うわ」

「わ、私もです!」


 ビスは瞳を輝かせた。きっと、エルスメノスに誇る医者となってくれるだろう。


「もう帰っちゃう?」

「そうだね」

「そっか⋯⋯あのね、また、来てね?」


 少女の目に寂しさがないことはない。しかし、それよりも強い期待が感じられた。


「もちろんさ。お気に入りのレストランも見つけたしね!」


 ベレーはニカッと笑いながらキャシィを見る。


「そうですね、私も好きなお食事屋さん見つけました!」



 ビスとその両親は、駅まで見送りに来てくれた。


「色々世話を焼いてくれてありがとね」

「そんな、何もしていませんよ」


 ビスの意思で行動した結果だ。もしかすると贈り主は私たちだと思っているのかもしれないけれど、わざわざ否定するのもなあ。


「こんなに素敵な奥さんですから、大事にしてくださいね」

「わかってるさ、俺ん中ではこいつに優る奴ぁいないよ」

「調子のいいことを言うもんだよ、全く」


 苦笑いが盛れる。


「じゃあ私たちはこれで⋯⋯」

「あ!ねえあれ見て!」


 ビスは遠く空を指さす。


「おや、不思議だねえ。雨なんて降ってなかったと思うけど」


 青い空に、虹がかかっていた。


「ベレーさん!」

「ああ⋯⋯綺麗だね!」


 伝説を目の当たりにしたことよりも、その美しさに感動した。


「きっと鳥さんが伝えてくれたんだね。ありがとうって」

「鳥が虹を描くものかしら?」

「どうでしょう。でも、そっちの方が夢がありませんか?」

「そうね、確かに!」


 晴れやかな表情で虹を見送るビスの目には、光が満ち溢れている。


「それじゃあね。あなたの夢に光があることを願うわ」


 なんて、ちょっと台詞を借りてみた。

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