枯れない花と枯れた木
もう歩き疲れた。草履はとうに壊れて使い物になりやしない。
数週間飲まず食わずで歩き続けた。それはただ、自分の人ならざる身を強調するだけであり、辛く感じられた。
雨傘を傾けて、空を見やる。
鼠色の雲には終わりが見えない。
雨も降り止みそうにない。
この雨傘だけはいつでもそばにあった。不思議な事に、壊れもしないし無くなりもしない。
きっとどこかの神様がそうしてくれているんだと思うと、嬉しく感じた。自分を見てくれているのだと。この努力は無駄ではないと認めてくれているような気がしたのだ。
それが目的ということではなかったが、今まで随分と頑張ってきた。雑用はなんでもこなしたし、とうとう最高位までのぼりつめた。
あのセンイーン街で名を知らない者はいないほどだった。
相手を選べるような位であり、裕福そうな客には特にたくさん貢がせた。
しかし、もう精神は持たない。この老いない身体が憎い。もう何十年も働いた。解放してくれたっていいではないか。
ふと後ろを振り返る。
木々の隙間から、明かりがぽつぽつ見えた。
追っ手だ。そうに違いない。
駆け出した。
寒い。体がちぎれそうだ。しかし止まる訳にはいかない。
国境はもうすぐだ。エルスメノス王国は目の前だ。
いつか聞いた、あの仲間たちの元へと。
ぼろぼろの美しい鳥は、裸足のまま逃げ続けた。
「どうして私が連れてこられたの?」
「そこに居たからマグ。諦めて調査に取り掛かるマグ」
白銀の街スノーゼル。その北部にある、エルスメノスと北方の国ヴィザーパンとの国境近くの森で、急に木が枯れだしたという。
「あなたが調査だなんて、随分珍しいですこと」
「そんなにエルシーと来たかったマグ?」
「そんなわけないでしょ」
調査に来たのは、フィスプ付近の森での一件に関わりのあったスイジーと、普段はデスクワークに徹しているマグナ。
「けっ、大体君を連れてきたのはエルシーだったし、一体何百年一緒にいるっていうマグ」
元素は桁数が違う。軽々しく百とかいう。
「あなただって、フェルニーとは何百年一緒にいるの?」
「元素狩りの数十年前マグ」
「⋯⋯そう」
「ま、とにかく調査調査マグ」
「そうね。なんだか肌寒いし早く終わらせましょう」
もうすぐ
「気候は不思議マグ」
二人は森の中へと入っていく。
「で、何となく察しがつくと思うけれど」
「ふむ。この前聞いた話と合わせれば、仮説は立つマグ」
二人の目の前には、枯れた木々、そしてたくさんのホープダイヤモンドがある。
この前のアンダンサ遠征組も、同じものを見たと言っていた。
「十分移動できる時間はあったマグ。同一犯と見て間違いないマグ」
「まだ魔力を感じる⋯⋯最近のものみたいね。それにしても、まさか偶然ではないでしょう」
「木が枯れる現象。でも、前は見つからなかったマグ?」
「確かに、そうだったかも」
しかし、あくまで可能性の一つとして、有り得ない話ではなかった。
ホープダイヤモンドを中心に木が枯れているように見えないわけでもない。半径はおよそ三メートル。大分狭くなっている。ホープダイヤモンドに魔力を貯め、それらを併せて使うことで、術式を小さくしたのだろう。
「とはいっても、それ以外何もわからないマグね」
「⋯⋯手掛かりはこれだけか」
一時間以上は探しただろう。しかし、ようやく見つけたものも関連性があるか疑わしいものだ。
「寒いマグー、薄着で来るんじゃなかったマグ」
「⋯⋯帰る?」
「帰りたいマグ」
との事なので、そうすることにした。
そして森を抜けようとしたまさにその時だった。
「⋯⋯?」
微弱な何かを感じ取り、スイジーが振り向く。
「どうかしたマグ?」
「いえ、別に」
本当のところはすぐにでも戻って調べたかったが、マグナがぶるぶる震えているので諦めた。
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