最終章part6『偽りなき想い』

長畑:大学病院入院病棟 病室 夜


 長畑だ。

 今は眠っている犬伏の手を握っている。

 こいつ、こんなに冷たい手をしていたのか。そういや冷え性だって言ってたもんな。


「犬伏・・・この間は、ごめんな。こうなったのは、全部俺の過ちのせいだ。俺、お前の気持ち、ずっと前から気づいてたよ。

 でも、ずっと逃げてた。怖かったんだ。お前は友達としては最高だし、今のままでいいっていう気持ちと、

 恋人になりたいという気持ちの間でずっと揺れてた・・・。俺は、怖いんだ。

 お前と付き合って、駄目になって、友達でも居られなくなるのが、さ・・・だから、ごめんな、犬伏。臆病な俺を許してくれよ・・・」 



蘭:真琴のマンション前 昼


 (数日後)


 蘭です。犬伏さんが自殺未遂した事を真琴さんに伝えにやってきました。

 さっそくインターホンを鳴らします。

 真琴さんがドアから顔を出してきました。


「あら、あなたは・・・」

「実は、真琴さん。あなたにお話ししたいことがありまして」

「話? 話しって、何?」

「実は、犬伏さんが自殺未遂をしたんです」

「なっ・・・・」

 

 真琴さんの顔色が変わりました。


「死んだの??」

「いえ、命に別状はありませんが、現在も入院しています。どうかおみ」


 私が言い終わるよりも早く、真琴さんは家を飛び出して行きました。

 しかし直に戻って来ました。


「病院は!! どこ??」

「品川大学病院です」


 再び真琴さんはマンションのドアの鍵を閉めると、全力疾走していきました。

 やれやれ・・・私も行きますか。


日下:大学病院入院病棟 病室 昼


 日下よ。

 犬伏がようやく意識を回復して、目を覚ました。

 今は彼女の為にリンゴをむいているところ。


「ルリ・・ありがとう。あたしの事、助けてくれて」

「別に気にしないで。あたしはこれでもあなたの事、友達だと思ってるんだから」

「あたしは思ってないけど・・・」

「何よ、このっ」

「きゃっ嘘! 冗談、冗談。ねえルリ、元気になったら、今度一緒にご飯食べに行かない?」

「ふんっ別に、いいわよっ行きましょう」

「うふふ」


 あたし達が話していたところに、ニートの稲葉真琴と網浜蘭がお見舞いにやってきた。


「真琴・・・」

「真希・・・」


 稲葉真琴は泣きそうな顔をして、真希に抱き付いてきた。


「真希、よかった。自殺未遂なんて、馬鹿な事をしないでよ・・・」

「ごめん、ごめんね、真琴。心配かけちゃって・・・」

「真希、あたしね。実家の大分に帰ろうと思うんだ」  

「え? そんな・・・」

「これからは離れ離れになっちゃうけど、あたしにとって真希はやっぱり一番の友達だから、大分に来たら、いつでも会いに来て」

「真琴・・・うん、会いに行く。会いに行くよ!」


 ふん・・・何か知らないけど、真希の問題は大団円みたいね。


犬伏:羽田空港 ロビー 午後


 犬伏です。

 無事退院しました。

 今日は蘭ちゃんとルリと一緒に真琴の見送りに来ています。


「真琴、大分に帰っても、一杯LINEしようね。もう既読スルーしないでよ? 泣いちゃうから」

「解ってる。真希、あなたも元気でね」


 そう言って、真琴は飛行機の搭乗手続きに行ってしまいました。


「真希姉さん・・・寂しくなりますね」

「うん。でも、友達に戻れてよかった」

「私、サテンでレイコーなら、いつでもお付き合い致しますからね」

「蘭ちゃん・・・ありがとう」

 

 あたしは蘭ちゃんをぎゅっと抱きしめた。


「ちょっ真希姉さん。人前で、恥ずかしいです」

「気にしないの」

「ちっ二人とも、イチャイチャしちゃって・・・・」


 あたしと蘭ちゃんがイチャついていると、見覚えの無い男性が蘭ちゃんに近づいて来ました。


「おい、女子高生。捜査を本格的に始めるぞ。付いてきてくれ」

「成田警部補、わかりました」

「警部補?」

「お姉ちゃんを刺した犯人を特定しようと捜査に協力する事にしたんです」

「蘭ちゃん・・・危ないよ、気をつけてね」

「心配しないで下さい。私は姉のように刺されるような油断はしませんから」

「そういえば・・・網浜が意識を失いかけるとき、奇妙な事を口走っていたわよ」

「奇妙な事? なんですか?」

「確か・・・つき、なり、って、言ってた」

「つきなり? 何ですそれは?」 

「そんなこと、あたしに聞いてもわかるわけないじゃないっ」


 ルリはふて腐れた感じでそっぽを向いた。



「つきなり・・・一体なんでしょう・・・」

「あいつのことだ。何か事件に関係あるかもしれない。行くぞ、女子高生」

「はい、警部補。真希姉さん、日下さん。私はこれで」

「うん、じゃあね、蘭ちゃん。またね~~」


 あたしは去っていく蘭ちゃんに陽気に手を振った。

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