STORIA 49

驚きを隠せなかった。

「未成年の少女を男ばかりのところに住ませるなんて、何を考えているんだよ。秀蔵ちゃん」

都の発言には、異論を唱えるまでもない。

何か、事情でもあるのだろうか。

八尋さんは深い溜め息を一つ零すと、言葉を繋ぐ。

「これでも、色々と悩んだ。決断したのには、それなりの理由があってな。実は、少女には居場所がないんだ。身元を聞いても口を割らんし、家には絶対に帰りたくないという。神社や無人の家畜小屋なんかを、宿代わりにしているらしいんだ。放って置くわけにもいかんから、落ち着くまで預かろうと想うんだが」

「個室の鍵は、彼女のための……」

僕の言葉に、八尋さんは頷いた。

都は納得のいかない表情を露骨に晒しながら、掌中にある三階の個室の鍵を持て余している。

「よくある、思春期の家出とかだろ? そういう娘は構うと逆に依存しきって、立ち直れなくなると想うけど。無理にでも身元を探り当てて、引き取ってもらう方がいいんじゃないのか」

都は簡単に言って除けるけれど、それが出来れば苦労はしないと、八尋さんは首を横に振る。

長い人生を築いてきた証を残す、皺にまみれた右手を卓上の灰皿に伸ばすと、彼は懐から煙草を取り出した。

申し訳なさそうに僕達に一言をかけてから、葉巻を口にする彼はしばらく黙り込んだ後、ようやく話し始める。

「お前さん達。二人とも、良識のある大人だ。少女を一人、受け入れたところで、間違いなど起こさんだろう。こうして、話をしている間も、彼女は寒い中を彷徨っている。幼い身体が限界を迎える前に、助けてやりたいんだよ」

伯父のお人好しには適わないと、都は座ったまま背伸びをして、溜め息を零す。

その姿は、八尋さんの主張を認めているようにも想えた。

僕達が少女との同居に肯きさえすれば、彼女をすぐにでも呼び寄せるのだという。




「分かったよ。家出少女のことは、秀蔵ちゃんに任せるから」

立ち上がり、握り締めていた鍵を都は少し離れた場所から八尋さんの手元へと放った。

どうやら、彼は自分の意思を折ることに決めたようだ。

僕には都の言いたいとすることは充分に理解出来るし、八尋さんの少女を心配する気持ちにも頷ける。

幼い少女は今も、厳しい寒さの中で震えているのだろうか。

「釧路の地で、黎と二人だけでロングバケーションを満喫するつもりだったんだけどな」

三階の個室へ向かう中、都は子供のように拗ねた表情を露にして見せる。

冗談なのか、本気で言っているのか、僕には愛想笑いでかわすことしか出来ない。

個室の前で「お休み」と僕に一言を告げると、彼は大きな欠伸を一つして中へと入る。

八尋さんが持ちかけた予想外の展開を僕達が受け入れたことで、幼い少女はすぐさま姿を現すのだと想っていた。








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