STORIA 58
悔しいけれど、これが現実だ。
変え様のない真実で。
それとも母の心が動く大切な瞬間を見落としてしまっているのは、僕の方だと言うのか。
小さな時の針が見えない処で確かに動いているんだ。
人の心がいつまでも凝り固まった感情で、同じ場所に佇んで居られるなんて考えられない。
何処かで母の気持ちは動いている。
だけど不器用で臆病な僕には見付け出せず、気付かずに通り過ぎては見落とす。
探し求める事すら怖くて。
僕が心に抱く"何度も" という言葉は深い様な物で、実は細い絹の如く脆くて浅はかな物だった。
自分の限界を越えた感情で、相手に理解を求め真意を知ろうとすれば……。
"何度も" が数十回という単位なら、更にその数倍もの想いで相手に本音でぶつかり、決して諦めの気持ちを起こさなければ良かったのだろうか。
だけど現実は僕を救ってはくれないね。
辛さを味わう為に生きているのなら、なるべく外の世界には触れず、独り静かに歩いて行けたらと今はこの家で略全ての時間を過ごす事を選び抜こうとしていたんだ。
僕を嫌う母がそばに居ても。
何故なら今の僕には収入がない。
一人独立して自分の体一つ守る事も、何一つ僕には出来ないという事が分かっていたからだ。
いや、本気で構えさえすればその位は出来る。
フリーターなんかじゃなく、定職にも確りと就いて。
ただ臆病さが行動力を妨げてしまうんだ。
勝手だと知りながら母に強く依存する。
あなたを何処かで激しく嫌いながら、血の繋がりという証を利用している自分が居る。
自分は傷付く為に、それだけの為にまた世間に出て行くのだと考えると苦しくて胸が押し潰されそうになるから。
傷付く結果が待っているだけなら、僕はもう誰にもこの心を触れさせたくはなかった。
大勢の視線に睨まれる位なら、自宅に身を潜めて居る方が余程楽なのではないかと想いもした。
ここなら僕を嫌う人は一人しか居ない訳だし。
母親からどうやって逃れていようか、それだけを考えていればいいんだから。
この場所には寝床だってあるし、自分の部屋もあれば生活に必要な物は全て揃っている。
そんな意味では何も困る事はなかった。
食事だって母の手から与えられる訳だからね。
ただ、その方法は愛情すらない酷く冷めた物だけど。
だけど僕がここに居る事は、母が居て始めて成り立つ。
その事実を想い知らされる度に、僕の心は嫌気が差すばかりで自分ではどうする事もままならない癖に、その現実が悔しくて情けなくて。
どうして彼女なんかの世話にならなければいけないのかと想う反面、所詮親という柱がなければ起ち上がれない自分自身に未熟さを想い知り、僕はとてももどかしく矛盾を繰り返す想いの中に解決法は未だに見付からない。
他の中で上手く行かない僕が、自宅で上手く行く筈がなかったんだ。
それでもこの家を選んだ。
けれど広さの中にも息の詰まる様な空間で母と顔を突き合わせ、室内を行き来するだけの生活は避けなければいけない筈だった。
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