5-2 いつもどおりの通学


「ハンカチ持った? ティッシュは? お弁当もちゃんと持ったよね」

「ああ。っていうかさっきお前、見てただろ?」

「それでも確認。私だって見逃してるかもしれないんだから」

「はいはい。んじゃ一応かばんの中見るな。えーっと、ハンカチにティッシュに弁当にっと」

「大丈夫?」

「おう」


玄関前でのよくあるやりとり。

俺と咲はしっかりと準備をして、家を出た。


「いってきまーす」

「いってきます」


かーちゃんがまだ帰ってきていないために無人になる家に向かって挨拶をし、鍵を締めて学校へと向かう。

ちなみに美沙さんは俺が起きたときにはもうとっくに出かけていたらしい。

なんでも、今日で地方巡業が終わるから東京駅までかーちゃんたちを迎えに行く使命があるとかなんとか。


「あ、今なら走れば一本前間に合うかも」

「走らなきゃいけないなら次でいいよ」

「朝はできるだけ早いのに乗ったほうがいいってば。いつ遅延するかわかんないんだから」

「まー、それもそうか」

「じゃ、走るよ」

「おう」


全力疾走……というほどではないが、俺と咲は小走りで駅に向かう。

かばんの中での入れ方が悪かったのか、若干弁当箱が揺れている気がする。

昼に食べるときは咲に見られないように開けたほうがいいかもしれない。

片側に寄ったりしてると、意外とコイツ不機嫌になるからな。


「おはよう咲、悦郎」

「おう。おはよう緑青」

「おはようちーちゃん」


そして俺たちは駅で緑青と合流した。

いつもどおりの三人で、いつものようにホームで電車を待つ。

咲の悪い予感が当たったかのように2分遅れで電車がホームに到着した。

これなら歩いても間に合ったかもとか思ったけど、もし万が一これに乗れなかったら遅刻ギリギリになってしまう。

ということはやっぱり、今朝は走るのが正解だったのかもしれない。


そんなこんなで、俺たちはラッシュの電車に揺られながら学園前駅に到着した。


「おはようございます悦郎さん」

「おはよう麗美」

「おはようございます麗美さん」

「麗美おはよ~」


校門前で例の細長い車から降りてきた麗美とちょうど出会った。

いつもなら麗美のほうが少し教室に来るのが遅いのだが、今日は電車の遅延の関係で一緒になったっぽい。

そのまま4人で連れ立って、下駄箱で靴を履き替え教室に向かう。

このとき妙な視線を感じたのだが、その視線の主が誰なのかはわからなかった。

緑青に気づかなかったかと尋ねたら――

「ぐふふ、どうせ両手に花の悦郎を妬んでる男子の視線じゃないの? そのうち、その視線の力で悪夢を見始めたりして」

「なんだそりゃ、呪いかよ」

みたいなやりとりをしたのだが、まさかそれがあんなことになるとは、このときは思いもしなかった。

まあそれはそれとして。

電車の軽い遅延はありはしたが、今日はかなり余裕で教室に着くことができた。


「おはよー咲」

「おはよー陽ちゃん」


いつものごとくいつものような挨拶を交わしながら、いつものメンツの存在を確認しつつ、自分の席へと向かう。

そういえば途中でみどり先生が職員室で学年主任になにか言われているような光景を見かけたが、またあの人は何かやらかしたのだろうか。

まあ、こっちにはこれっぽっちも関係ないことの可能性が高いけど。

たぶん、またスカートを電車の扉に食われでもしたんだろう。

遅刻はしなかったみたいだけど。

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