1-5 かなりいつもどおりっぽい放課後
そして放課後が訪れる。
* * *
帰りのホームルームが終わり、いつもどおりの放課後。
いつもの面子がいつものような挨拶をしながら、いつものように三々五々教室をあとにする。
というのも、いつもどおりでない人物が、教室を留守にしていたからだ。
「あれ? 麗美ちゃんは?」
黒板の掃除をしていた咲が俺のところに戻ってくるなり、そう尋ねてきた。
「みどり先生に呼ばれて職員室」
「あー、うん。手続きとかいろいろありそうだしね」
「っていうか、当然のように俺に聞くな。まるでセットみたいじゃないか」
「だって……ねえ」
「ぐふふ。許嫁だし」
「あのなあ……簡単に受け入れてるなよ」
「なんだよ。悦郎は不満なのか? いいじゃないか、あんな美人。それに、なんか家もお金持ちそうだし」
放課後になったとたんコロッケパンを頬張っている砂川が、俺たちの会話に割り込んできた。
「いや不満っていうかよ、そんな簡単なものじゃないだろ? 許嫁とか。それに、なんか嫌じゃん。恩返しに嫁入りとか」
「あー、そういうの気にするか。悦郎。何ていうんだっけ、フェミニスト? ちょっと違うか」
「でも、麗美さん喜んでそうだったよ?」
「それでも、だよ」
「ふふふ。そういう状況で惚れさせるのが、悦郎の腕の見せどころ、じゃないのかね」
「あーん? 何いってんだ緑青。まるでうちのかーちゃんみたいだぞ?」
「あははー。確かに鉄子さん言いそう」
「あのなあ……」
そんな感じで人の少なくなり始めた教室でダベッていると、みどり先生に呼び出されていた麗美が戻ってきた。
「悦郎さん! 待っててくれたんですね!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「うふふ。ありがとうございます。さすが未来の旦那様です」
「だから違うって」
走り寄り、俺の腕に抱きついてくる麗美。
嫌じゃないんだが、正直かなり照れくさい。
っていうか、腕に当たる柔らかいものがその……咲なんかとは比べ物にならないボリュームで……。
「ギロッ」
「って、なに唐突に睨んでんだよ」
「だって、なんかよくない考えされたみたいな気がして」
「そ、そんなことねーよ」
「ぐふふー。悦郎怪しい」
「やめろ緑青。お前まで」
「ふふふ。ホントに仲良しなんですね、三人は」
「あれ、俺は入ってない?」
「砂川くんは別です。なんとなく」
「はー、さいですか」
「はい」
なんだかんだ言いつつ馴染んでいる麗美。
俺はふと、麗美の持っていた紙切れが気になった。
「そういえばみどり先生なんだって? その紙がどうかしたのか?」
「あ、はい。なんでも、ブカツドウっていうのに入らなきゃいけないって」
「あー、部活かー」
「ブカツ? ブカツドウじゃないんですか?」
「そっか。麗美さん、部活動知らないのか。部活動を略して、部活なのよ」
「なるほどー。向こうの学校にはありませんでしたので、はじめて聞きました」
「えーっと、なんて言えばいいのかな。放課後の課外活動的な?」
「放課後にも何かするんですか?」
「まあね。授業以外の活動みたいな感じ」
「スポーツとか音楽とか、ダンスとか。美術なんかもありますね」
「最近はコンピュータ関連の活動もあるよ」
「へー、なんだかおもしろそうです」
ハムカツサンドを食べ終えた砂川がウェットティッシュで手を拭いながら提案してくる。
「そうだ。みんなで麗美さんを案内してあげればいいよ。放課後の学校内を」
「え? 学校の様子なら、お昼に案内してもらいましたが……」
「あれは学校の仮の姿なんだよ麗美さん。放課後の姿こそ、学校の真の姿なのだ。ハーッハッハッハッ」
なぜか妙に盛り上がっている砂川自身は放置して、俺はその案を実行に移すことにする。
「そうだな、麗美。どんな部活があるか、俺たちが案内してやるよ」
「ぐふふー。たち、じゃなくて俺が、だけどね」
「うっせ。緑青。お前も一緒に来い」
「なーんでー」
「咲も来るよな」
「うん」
「ふふふ。それじゃあみなさんで、一緒に周りましょう」
俺と咲と麗美。それに緑青の四人で連れ立って、まずは体育館へと向かう。
「あれ? 砂川くんは来ないんですか?」
「あ、うん。アイツは自分の部活があるから」
「へー。悦郎さんとなんでも一緒なのかと思ってました」
「やだよそんなの」
「あはは。ちなみに、砂川くんはなんのブカツドウをしてるんです?」
「軽音楽部。アイツ、ドラムめっちゃ上手いんだぜ」
「なんだか意外です」
「だろ? 俺もそう思う」
「ふふふ」
体育館からグラウンドに出て、ほぼすべての運動部を網羅する。
続いて美術室、音楽室、図書室、理科室……。
主だった文化部を、すべて回って麗美に見せる。
そして最後には……。
「えっと、ここは?」
「ここは俺たちの部の部室かな。まあ、何の活動もしてないけど」
「悦郎さんたちの部……もしかして咲さんも?」
「はい。まあ、部員が三人以上いないといけないから」
「なので、一応私もね」
「なるほど」
部室棟の一番端の、一番狭くて一番ゴチャゴチャしている部屋。
そこが俺たち、オカルト研究部の部室だった。
「まあ何にもないけど、とりあえずゆっくりして」
部室のドアを開け、麗美を招き入れる。
何もないとは言ったが、代々引き継がれてきた何にも使えないゴチャゴチャしたわけのわからないものはいっぱいあった。
「うわぁ……なんだかすごいです。まるで、故郷にあるマジックショップみたい」
「え? 麗美さんの国にはそんなお店があるの?」
「咲、たぶん勘違いしてる。マジックはマジックでも、手品のことだよ、きっと」
「あ、なるほど」
「いえ、違いますよ。咲さんの思ったとおりであってます」
「それじゃあ……」
「はい。魔法の方の、マジックショップです。私の国では、まだそういうのが普通に信じられてますので」
「なるほど……」
まあ、あのとーちゃんの行く国だ。
そういうところであってもおかしくはないな。
「で、麗美さん。どこか気に入った部活はあった?」
「はい。ありましたよ」
満面の笑みの麗美。
どうやら、よっぽど気に入ったようだ。
「ぐふふー。私、実はちょっとわかってる」
「まあ、私もなんとなくは」
そりゃ俺だってわからないわけでもない。
でも、一応俺は聞いてみた。
「それはどこの部活なんだ?」
「ここです。私は、悦郎さんと同じオカルト研究部に入ることにしました」
こうして、我がオカルト研究部に新しい部員が増えた。
もっとも、何か活動の予定があるわけでもなかったが。
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