第弐拾肆話 正体

「……正直、あいつらの正体はある程度予想はついてる。ある程度、というか正確には『半分』は分かってる」

「半分?」

「今はそこは気にしないでくれ。で、念の為にもう半分の確認もしときたいんだが、鬼川は体は丈夫な方か?」

「………………実は持病を患ってるんであんまり無理な運動は控えろと医者から言われてるんすよね」


 大黒の言葉に嫌な予感を覚えた鬼川は反射的に嘘をついてこの場を逃れようとした。

 しかし大黒は鬼川の返事など気にせずにどんどん話を前に進めていく。


「よし、大丈夫そうだな。鬼川に今からやってもらいたいことはあいつらの尻尾と足への集中攻撃だ。多分その時は予想外の攻撃を食らうと思うけど、そこは我慢するか避けるかしてくれ」

「いや、あの」

「ある程度カバーはするけど、俺は術を使うより観察に回りたいからその気持で。質問がなければとっとと仕掛けてとっとと倒してとっとと帰ろう。磨もそろそろ待ちくたびれてるだろうし」

「質問っていうかまず作戦に異議申し立てを」

「質問もないか。じゃあ健闘を祈る」

「この人あたしの話聞く気一ミリもねぇ!」


 言うだけ言って自分から離れていった大黒を見て、鬼川は頭を抱える。

 だが、鬼川も対妖怪の知識がない自分は大黒に従うしか無いと分かっているためそれ以上の言葉は控え、おとなしく敵に突撃していくことにした。

 戦いが終わったら死ぬほど文句を言ってやろう、と心に決めて。


「とりあえず今はこの怒りをお前らにぶつけてやるっ!」

「ひひ」

「ひひひ」


 鬼川は相手の攻撃範囲に入らないように大回りして、二体の背後へと回ろうとする。

 痺れから完全に脱した二体はそんな鬼川を追いかけるために走りだそうとしたが、動けたのは一体だけでもう一体は何かに足を取られ動くことが出来なかった。


「……生成。鬼川! 一体は止めとくから俺の結界が持ってる内に頑張ってくれ! 出来れば尻尾の方から!」

「はいはい! 分かりましたよ!」


 四つの小さい結界で鵺の足を地面に縫い止めた大黒は、結界が壊されないように力を込めながら鬼川の戦いを見守る体勢に入る。


(さて、こっちの方でもあっちと能力が被ってたらあいつの仕業で確定だな)

 

 大黒が言うこっちとは現在自分が足止めしている個体で、あっちとは先程大黒が貫こうとして反撃された現在は鬼川と戦っている方の個体である。

 大黒は今回の騒動の黒幕におおよその目星がついており、鵺の能力を把握するついでにそちらも確認しようとしていた。


 大黒がしばらく入ったことに気づけなかった結界。

 唐突に現れた二体の鵺。


 この時点で大黒も予感はしていたが、まさかという気持ちを拭いきれなかった。 しかしその鵺の特異性を見る度に予感は確信へと近づいていっていた。


(まあ生きていて嬉しいやら面倒やら……)


 そうして大黒が過去に思いを馳せている中でも状況は進展していく。

 

 鬼川はヒットアンドアウェイの要領で尻尾の蛇を叩いては引いてを繰り返している。

 雷を帯びた手で叩かれ続けた蛇は最初こそ無反応だったが、執拗な攻撃にとうとう目をカっと開き、その口から低い怒鳴り声とともに水を吐き出し始めた。


「ぉぉ、おおおおおお!!」

「あぶなっ!」


 再度蛇に攻撃しようとしていた鬼川は、蛇の変化を見てすぐにそこから距離をとる。

 そしてまじまじと蛇の様子を観察すると、大黒に向かって大声で叫んだ。


「お兄さん! 尻尾の方はこれくらいでいいっすか!?」

「ああ! 足もこっちで分かったからもう大丈夫! だから今すぐしゃがんで右に飛べ!」


 鬼川は大黒からの思いもよらぬ返答に首を傾げそうになったが、頭よりも早く体は大黒の言うとおりに回避行動を行った。


 すると、直前まで自分がいた場所に大黒が捕獲していたはずの鵺が勢いよく爪を突き刺しているのが目に入った。

 鬼川はぶわっと汗をかいて自分が死ぬ間際だったことを理解すると、地を這いながら急いで大黒の背中へと隠れた。


「お兄さん!? そっちはちゃんと捕まえててくれるはずじゃあなかったんすか!?」

「悪い、あんなに早く結界が壊されるとは俺も思ってなかった。まさか鬼川と同じ雷を使ってくるとはな」

「え?」


 鬼川は大黒の言葉に反応して鵺を見てみたら、確かに鵺の足にはバチッバチッと音を立てて雷が纏われていた。

 それを見た鬼川は眉を吊り上げて、勢いよく立ち上がった。


「なんすかあれ! あたしのパクリじゃないすか! 著作権侵害で訴えられたいのかあの畜生!」

「落ち着け、なんで雷がお前のものになってんだよ。それを言うなら絶対にお前も侵害してる側だ」


 二人が馬鹿な会話をしている間に、二体の鵺がお互いに距離をとって大黒たちを睨みつける。

 

 口からは笑い声、胴体からは見えない斬撃、足からは雷、尻尾からは水、とまるで自分たちの力を見せつけるかのように、周りの地面を傷つけながら大黒たちに向かってきた。


「……さっきまでと雰囲気違うっすね」

「ああ、もう隠す必要も無いって感じだな」


 それを迎え撃てるように二人も自分の武器を構え直す。



 

 

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