第弐話 日常

 

 京都駅近くの繁華街から数本道を跨いだ場所にあるマンションの一室。

 家主に許可された者以外は出入りできない結界で覆われたその家には、二人の男女がいた。

 一人は陰陽師という家業から抜け出し、自らの恋に生きることを決めた男。

 もう一人はそんな男に力を奪われ、男の家に閉じ込められている九尾の狐。

 一度は崩れかけた二人の共同生活だったが、紆余曲折あって再び二人でこの家に戻ってくることが出来た。

 そして戻ってきてから一か月、二人の関係は、


「いつまで寝てるんですかっ! 早く起きて下さい!」

「うーん……、今日は土曜日なんだ……。もう少し寝かせてくれ……」

「一時間前にも同じセリフを聞きましたよ! もう十一時です! 貴方が起きないと布団が干せないじゃないですか!」

 以前と全く変わっていなかった。


「土曜の十一時は平日の六時に匹敵する……、つまりまだ寝てていい時間……」

 男、大黒純はうだうだと言いながらベッドにしがみつき、起きる気配がまるでない。

「平日の六時なら大半の人間はもう起きている時間でしょう。ですので、貴方もとっととそこから出てきなさい」

 それを起こすは小学生くらいの見た目をした少女ハク、ハクは布団を叩きどうにか大黒をベッドから出そうとしている。


 しかし大黒は言い訳を続けるばかりで、最低でも後一時間はそこから動く気は無いようだった。そんな大黒に業を煮やしたハクは強硬手段に出ることにした。

「……分かりました。貴方が起きないのなら、私は先にお昼ご飯を作ってきます。今日のお昼は塩の砂糖漬けと醤油とお酢のお味噌汁です」

「調味料の暴力! すいませんっ! 今すぐ起きます!」

 命の危機を感じた大黒は即座に飛び起き、洗面所へと向かっていった。

 部屋から出ていった大黒を見たハクはため息を吐き、布団を干すための準備を始めた。

 

 これが、二人の日常。他愛も無く、どこにでもある風景。だが、確かに二人はこの日常に心地よさを感じていた。

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