第31話 終章
大黒家での戦いから一週間経った。
無事に家へと変えることが出来た二人だが、この一週間、二人の間に会話と呼べるものは一つも無かった。
「なあハク―、そろそろ機嫌直してくれよー」
「…………」
情けない顔をしてすり寄って来る大黒に、ハクは尻尾をビタン! と床に叩きつけて返事の代わりとする。
「俺も悪かったけどさー、ていうか俺しか悪くないんだけど。それでもあの時はああする以外無かったんだ。分かってくれ!」
ビタン! ビタン! と音が響く。
「でもほら、ちゃんと目覚めたし、ハクだって元からここに帰ってきてくれる予定だったんだろ? じゃあオールオッケーという訳で……」
言い訳がましい大黒に、とうとうハクの堪忍袋の緒が切れた。
「私が! 怒っているのは! その事だけではありません!」
「ええー、それ以外に何かやったっけ……?」
「私が何より許せないのは、貴方がここに再び結界を張ったことです!」
ハクは手を広げ、怒っている理由を告げる。
そう、大黒は家に帰って来た後、最後の力を振り絞って自宅にハクを閉じ込めるための結界を張ったのである。
妖怪の力を使って作った結界は以前よりも強度を増し、今度は内側からだけではなく、外側からの攻撃にも強い耐性を持つ大黒史上最高の結界であった。
そして、そうすると大黒の中にあった妖怪の部分が消え去って、大黒はまた元の人間に戻ることが出来た。
それで万事上手くいったと大黒は思っていたのだが、それはハクの逆鱗に触れる行為であった。
ハクは大黒への信頼を示したというのに、大黒は睡眠薬を盛った上に出会った時と同じくハクを監禁した。目が覚めてそれを知ったハクの内面は穏やかでは無かった。
「せっかく貴方を見直せるかと思っていたのに……!」
ハクは涙目になりながらソファーを手でたしたしと叩く。
「ハクは可愛いなぁ」
「聞いているのですかっ!」
しかし大黒はハクの説教よりも、小さな体で必死に主張しているハクの可愛さに心を奪われていた。
「傷も癒えたことですし実力行使に出てもいいんですよ……!」
「す、ストップストップ! 家が燃える!」
炎を纏わせ威嚇してきたハクを見て大黒はさすがに焦り始める。
「何か、言うことは……?」
「すいませんでした! 今後は気を付けます!」
大黒は綺麗に土下座の体勢に入り、それでようやくハクは炎を消した。
「ええ、じゃあ今すぐ結界を消して下さい」
「そ、それはちょっと……」
「…………っ」
「い、いやそんなことしたらハクがどっか行くかもしれないと思うと不安で……」
本気でそう述べる大黒に、ハクは逆立てていた尻尾を垂らし溜息を吐く。
そしてハクは項垂れてしまった大黒の頭に手を置いて、優しく撫でながら言う。
「……考えすぎなんです貴方は。もし、貴方が少しでも私と一緒にいたいと言うのなら、貴方の短い一生くらい付き合ってあげますから」
「……っ! ハク―!!」
「ちょ、ちょっと! どこ触ってるんですかっ! 警察っ! 警察を呼んでください!」
感極まった大黒に抱き着かれたハクの叫び声が住宅街にこだまする。
すぐに調子に乗る大黒とそれを戒めるハク、きっと二人の関係性はこれからも変わらない。
そんな執着心の強い陰陽師と情に絆されやすい九尾の狐の騒がしくも楽しい日々は、まだまだ続いていく。
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