第37話

「ふふふーん。」


「珍しいな寺島。お前が鼻歌なんて。」


冷血な才色兼備、俺のかつての寺島冬子の印象だ。生徒会に入ってみてもその印象はあまり変わらなかった、が何かあったのか最近少し彼女の雰囲気が変わった。なんか可愛らしい感じになったっていうか。


「な、なんでもないです。鬼丈くんは自分の仕事をさっさと片付けたらどうですか?」


前言撤回、小憎たらしいったらありゃしない。どいつもこいつも浮かれやがって。こちとら恋に敗れたばっかで傷心中だっていうのに。


「はいはい、頑張りますよーっと。」


「にしても会長、今日は遅いですね。」


確かに。あいつはああ見えて真面目で、授業終わってから生徒会にすぐさま来るのだ。だが、もうすでに授業が終わってから一時間くらい経っている。おかしいなあ。


「なんか用事なんてあったっけ?」


「さあ?でも確かそろそろ冬休みですし…


「やあやあみんな!!公安のやつらがいるのは解せないがスキー会場の予約をしてきたよ!これで晴れて儚日ちゃんとお泊まり会込みで遊びに行ける。」


さすがになんか気持ち悪いです、会長。」


「ごめんごめんて、ついでにコーヒーいれて寺島ちゃん。」


寺島以上にテンションが上がりまくりの生徒会長は心の声をダダ漏れにしている。まあそうだよな、あんだけ執着してたもんが手に入ったんだ。俺だってこいつの立場だったらそうなっていただろう。


「それって会長の家の別荘なんですっけ?」


「そうなんだ。長野県にあるところでね。普段は一般の人にも民宿みたいに貸してるんだけど、一回停めなきゃだろ?だから色々手続きがあってね。今日でようやく全部終わったよ。…仕方ないからライバルの鬼丈くんもお誘いしてやらんこともないが。」


ーー会長と儚日は期間限定で付き合っているらしい。フェアじゃないからと、会長から聞いた。聞いて驚いたが、そうすれば何となく今までの辻褄も合う。こういう所だけこいつが真面目なのか、それとも儚日が真剣に向き合った結果なのか。


「んなの行くに決まってんでしょうが。二人きりになんてさせませんから。」


まあでも儚日が何も言ってこない限り、俺は何も言わない。言い難いのは俺のせいだし、しつこ過ぎても嫌われちまう。まあ茶化しはするけどな。


「嫌な騎士がついてくるもんだ。」


「輝也がいないだけマシだと思ってくださいよ。」


「あれは本当の護衛じゃないか。あんなのいたらたまったもんじゃないね。」


べっと歳不相応に舌を出す。全然可愛くない。


「前会長や公安幹部たちもそこそこは来る感じなのですか?」


少し恥ずかしげに聞く寺島。いや絶対聞きたいの後半の方だろ。忠野先輩も放っておけないな。相手がこの女なのは謎だけど。


「それがさ、遊里先輩彼女さんが嫉妬するからって来なくなっちゃったの。まあ気持ちはわかるけどさ。残念だなぁ。せっかく一緒に行けたのに…。公安のやつらは桜井のせいで全員強制参加でしょ。」


会長ははぁーっとわざとらしく長くため息をつく。


「儚日ちゃんといれるのはすごく嬉しいけど桜井がいるのがねえ。ほんといただけないよ。」


生徒会外部では付き合いを隠しているせいかマジで生徒会内での惚気?儚日自慢がやばい。寺島まで聞き流すほどにひどい。


「会長がビンゴの景品にしちゃうからですよ。あんなピンポイントでとれるなんて思いませんでしたが。はい、コーヒーです。」


「ありがと。あいつはとるやつなんだよ。狙えばとれちゃうなんて本当チートすぎる。生きるチートめ…って苦っ!!」


コーヒーをべーっとする。いやだから可愛くねえから!!あの顔でブラックコーヒーも飲めないとかなんでこんなやつモテるんだよ。


「寺島、砂糖とミルクもっと足して!!」


「肩ポンポンするのやめてください。もーう会長、そういう所ですよ。」


…ギャップか、ギャップでモテるのか!!

儚日がこいつの毒牙にかかってしまったらどうしよう。はあっ…先が思いやられるぜ。




ーーーーーーーー




入って早々、公安委員長様は私に土下座をしてきた。そう、あのDOGEZAだ。


「本当に、すまないことをした。猫谷さん!!!どうか公安をやめるなんて言わないでくれ…!!」


「別に言いませんよ。すみません、私もここ最近は色々あって来れなかっただけなので。」


今にも泣きそうな勢いで私にしがみつく桜井先輩。相当私が怒っていると思っていたようだ。いやごめんね、もっと早く来ればよかったね。ほんとに色々あったんだよ、追試とかね。


「それはそうと猫さん、もう少しで例の慰労会があるんですけど。猫さんも来ますよね?まあ、強制なんですけど。」


一方忠野先輩の方は涼しい顔だ。お前もグルだったの私知ってるからな。


「それは覚悟してますよ。誰かさんのおかげで私は行かなきゃいけないんでしょうし。」


そう言って桜井をチラ見すると目がうるうるしている。いやいやこれに関しては私だって怒ってるんだからね!!


「ほんと…ごめんよぉ。悪気はなかったんだよお。」


本当に生徒会も公安もこんなやつらが上でいいのだろうか。


「この際、他の公安委員と猫さんがお話するいい機会だと思ってみるのはどうでしょう。案外気の合う子がいるかもしれませんよ。」


「いやあ、私人見知り激しいので…そういうのは多分ないとは思うんですけど。」


人見知りやばすぎて馴染めるのが想像できない。


「そうですかね、まあ猫さんの砦の音乃木さんも来ないので誰かしらと話すしかないとは思いますが。」


あー無理、しょうがないし楓とかといよう。最悪寺島さんとか、エルは…ないな。


「まあ頑張りますよ。」


この時の私はこの冬のスキー慰労会が後々に大変なことになるとは思ってもいなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る