第16話

「ねえねえ、儚日ちゃん!次どこまわろうか!あっあれ何かな?」


文化祭の冊子を見ながらキラキラした目をする輝也に複雑な気持ちになる。


「私ね、灯と文化祭まわる予定だったんですよ?なんで輝也さんがいるんですかね…?不思議ですね?」


あの後カレーを食べ終え、ちょうどシフトの終わった私に輝也はずっとひっつき虫だ。


「ええ、灯ちゃんがぜひお二人でって言ってくれてたからさ。」


この一切悪気のない笑顔は昔から私を悩ませる。


『あっフローレンス様!見てください!あれは何ですか?』


なんだか最近やたらと前世と現世を重ねて見てしまう。居眠りくらいだと昔のことが夢のように出てくる時もあるのだ。輝也はあの頃も腕っ節は良かったけれど少し抜けていた気がする。


「ねえねえ、次はあっちに行きたいな。」


「え、ああ。まあいいですけど。」


輝也が指す先は体育館。生徒会主催のビンゴかなんかがあったはずだ。嫌でも連想されてしまう。


『…俺はお前が、好きだから。頼むよ。』


ーーそんなこと思ってもみなかった。

いざ言われてしまうと心に直球に入ってきてしまって、今まで以上に楓には話しづらくなってしまう。ゲームの攻略対象がライバルキャラに好意を向けることなどあっていいのだろうか。


「いや、これでもゲームじゃないしな。」


「ん?どうしたの?」


「あっいえ、なんでもないです。」


体育館に入るとまあそこそこに人数が集まっていた。入口で文化祭委員に呼び止められる。


「こんにちは。こちらビンゴカードになります。まもなく開始致しますので中で少々お待ちください…ね。」


その人は私を見ると一瞬動きが止まった。なるほど。誰かさんのせいで私はそれなりに名を知られてしまっているようだ。そしてそれから輝也を見て、私の少し後ろを見た。うん、振り返るとこれまた予想通りの誰かさんがいる。お前はどこにでもいるなあ。


「あっらあ可愛い女子生徒が来てくれたようだ。ようこそお越しくださいました。ゆっくりしていってね。お隣のあなたも、まあ楽しんでいってください。」


ゆっくりという割に私の左腕を掴んで離さないのは何故だろう。


「…茗荷谷、エル。」


生徒会主催のイベントだ。生徒会のトップがいるのは確かに当たり前のことだ。


「フルネーム呼びだなんて嬉しいな。猫谷さん?」


「こんにちは。儚日ちゃんのお友達かな?この子といつも仲良くしてくれてありがとうね。」


茗荷谷にとられていないもう一方の手をさっと輝也に握られる。ん?握られている…??とてつもなく恥ずかしいが、それを振り切って茗荷谷の方へ行く気などさらさらないので今はまあとりあえず、そのままにしておく。


「いえ、こちらこそ前はお会いできませんでしたが。これも何かのご縁ですかね。お会いできて光栄です、〝近所のお兄さん〟。」


私を掴んでいない方の手で、がっしりと握手をする二人。会ってはいけないやつらが鉢合わせてしまった。この二人の貼り付けたような笑顔とキラキラオーラに既に近くの女性たちは年齢を問わずふらつき始める。本人たちのバチバチオーラには気付かずに、だ。


「で、猫谷さんもビンゴ参加しに来たんだろう?何の商品狙いなのかな。全部俺が用意したんだ。猫谷さんのためなら微調整、張り切っちゃおうかな。」


おいおい。生徒会長笑顔で堂々の不正宣言ですか。だめでしょ!


「一等は豪華スキー場グループ二泊三日チケットなんだよ。まあ俺の私有地なんだけどね。猫谷さん、二人きりならいつでも好きな時に連れて行ってあげる…


「ほらほら、もう時間ですよ。申し訳ありません。うちの会長が。」


あーもう嫌な邪魔が入るな今日は。」


後でね猫谷さーん!と叫ぶ茗荷谷を黒髪のぱっつん少女は引っ張り、体育館のメインステージへと持っていく。新生徒会メンバーだろうか。いやあれはありがたいな。いい後輩を持ちましたね、茗荷谷先輩。…ざまあみろ!


「はーい、それじゃあ早く進めたいのでたくさん回しちゃうよ。えーい!はい次はBの…」


軽いたんこぶができた茗荷谷はビンゴ会場をいつもの調子の良さで場を盛り上げている。こういうのは前世からも上手かった気がする。


「先程はうちの会長が失礼致しました。これからは言って聞かせますので。」


さっきの少女が声を掛けてきた。


「えっと…全然大丈夫ですよ。むしろもう慣れっていうか。」


きっと言っても聞かないしね。すると彼女の顔が曇った。


「…はあ。随分と余裕そうですね。生徒会を蹴ったのも会長との駆け引きのつもりですか?」


いきなり態度が豹変する。いやいや、どうしてそうなる。ありえないでしょ。その会長さんのせいで私一回死んでんのよ?って言っても彼女にはわからない。まあいいわ。数多の乙ゲーをやってきたオタクにはこういう女の対応は朝飯前だ。


「普通にそういうのに縛られたくないだけ、ですよ?というかあなたもしかして茗荷谷先輩のこと好きなんですか?」


するとまあゲームにあるあるのパターンで、彼女は顔を真っ赤にして口をへの字にする。


「なっなんなんですかあなたは!そんなわけないでしょう!!もういいです、公安委員など私たちの目でもありません!!」


覚えててくださいね!、と決め台詞を私に言い放ちそのまま走り去ってしまった。なんてわかりやすい子なんだろう。もしかしたらかなり厄介者に目を付けられたかもしれない。


「…はあ。」


少し得意気に鼻をフンフンしてる隣の男はおいといて私はため息をついた。手はまだ離してくれなさそうだ。





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