第8話
その声に振り返ると、さらなる波乱の予感を感じさせる人物が二人。
「公安委員会、委員長|桜井宣明(さくらいのりあき)だ。」
「…を連れてきた鬼丈です。」
この整った顔に二人に堂々と立ち向かえる人物はやはり普通の人ではなく攻略対象だ。彼はゲームではノア・フローレスという王室お抱え魔剣士であった。大魔法を使いながら勇者として魔王を倒し、王子たちにも意見を言えるかっこいいキャラだったのは覚えている(そんな人のエンドでもフローレスは邪魔者として蹴散らされてしまうのだが)。
「…な、んで。」
そう問うと楓は決まりが悪そうに。
「帰りにお前が呼び出された教室に先輩たちが入るのを見たんだよ。そんで部長を連れてきたんだ。ほらよっ。」
茗荷谷を避け、ぐいっと私を椅子から離し楓の方へ私は傾く。
「いかにも。鬼丈くんは我が文芸同好会の部員だからな。彼に懇願されれば来ない訳にも行かん。その前にお前たちがその女子生徒に権力を振りかざそうというのならなおのこと。我ら公安委員会はお前たち生徒会の不正は見逃せない。毎度逃げられているが今回は現行犯だ。」
「…っく!!!」
確かにノアルートはヒロインを守るためにユーリとガブリエルに逆らうシーンはあった。実際に見るとかなり迫力がある。
「お嬢さん!お名前は!」
「…ね、猫谷儚日です、けど?」
その綺麗なピンクブロンドの髪で桜井は私に跪く。
「猫谷さん!どうか我が公安委員会の委員になってはくれないだろうか。生徒会の指名はほぼ絶対、だが。我々公安委員会に入るなら話は別になる。」
「十中八九で生徒会勧誘だろうと思ってたんだ。お前は公安に名前だけでいいから入っとけ。」
ポンっと背を押される。それにより完全に茗荷谷たちと私は離された。だが茗荷谷は得意そうに笑う。
「あらら、君もよく考えたね。でもどうするんだい?名案だがそれにはルールがある。その代わりに公安は俺たちに代用を寄越さなきゃいけない。それは誰にするつもりなのかなぁ?」
私を戻そうとする茗荷谷を前に楓はすっと左腕を私の前に伸ばした。あ、これヒロインを婚約者のエデンが守る時の一枚絵だ。
「問題ない。俺が行く、生徒会に。」
なっ…!!!!
私が公安に入り、楓が生徒会に入るということはこれからの生活において私たちは敵対関係になるという事だ。
「そんなのいいよ、楓!」
そんなの耐えられない。灯も悲しむだろう。なのに、
「この前の時も輝也に出番取られちまったからな。今回は譲らねえぜ。てことで部長、そいつのこと頼みます。」
なんでそんな笑顔で笑っているのか、私にはわからない。
「ふうん、君も邪魔するんだ。まるで俺たちが悪者みたいじゃないか。」
少し気に食わなそうに茗荷谷は言う。
「実際大差ないだろ。いいさ、こいつ取られるくらいなら俺が手足になってこき使われてやるさ。ほら早く部長。」
「…わかった。行こう猫谷さん。」
桜井に腕を引かれ、教室を後にする。
これが学校で楓ときちんと対面して話す最後になるなど、私は思いはしなかった。
ーーーーーーーー
「君らはいつもいつも邪魔をするね。もういい加減諦めたらどうだい?元々ここは俺が作ったテリトリーなんだしさ。」
馬鹿にするような目で笑うあいつは昔から何ら変わらない。俺がいないのをいい事に勝手にあいつを攫っていく。
「お前らの好きになんかさせてたまるかよ。俺は絶対に…もう二度とあいつを失いたくないんだ。」
「ふふっ、おかしなこというな。それは俺も同じだよ。だからわざわざこんなことしてるんじゃないか。」
「何がおかしい!」
急いで駆けつけた時にはもう灰になっていたあの屋敷を今でも鮮明に思い出せる。
「まあ君が生徒会に入るのは別にいいさ。これで逆に邪魔もいなくなる。次期生徒会長として、初めての指示だ。」
お前を守るためなら、俺は…
「…君は金輪際、学園で猫谷儚日に近づくな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます