第2話『世界に否定された私―葉月:Side―』
小鳥たちのさえずりによって、自分の意識が徐々に
目を開けると、そこにあったのは私の部屋だった。たぶん机で眠っていたみたいだ、腰と首がジンジンと痛い。でも――
「…………あれ?」
今いるこの状況にどうにも納得がいかない私がいた。だって私の記憶が確かならば、私は
「でも私……プリント取りに行ってー……取りに行って……?」
そこからの記憶がなかった。教室までたどり着いたのかも、もしくは途中でなにかあったのかも覚えていない。確かなことは間違いなくここは私の部屋で、目を覚ましたらここにいたということ。自分の疑念を
「もしかして気絶して、いままで……?」
ううん、それなら机で寝ていたことがおかしくなってしまう。流石に気絶した人を机で寝かす
「――お姉ちゃーん? いつまで寝てんのー? 朝ごはんできたよー」
この意味不明な状況に困惑している最中、妹がいつもの調子で私を呼びに来る。とりあえず私もいつものように返事をしつつ、ここがやはり私の家で、私を置いてけぼりにしていつもの生活が続いていることを確信してしまう。私は変な夢でも見ていたのだろうか。あまりにも記憶の流れが不整合になっていて、怖くなってきていた。しかも妹のあの対応から考えても、私が気絶していたという説は消えてしまったようだし。
とにもかくにも今このままワケのわからない状況に混乱していてもしょうがない。とりあえず風花に会って、昨日のことを訊いてみよう。私の記憶の中で最後に会った人は風花だ。だから何かこの状況を打開する情報を持っているかもしれない。私はそんな希望を抱き、部屋着から制服に着替えて学校へと向かう準備を始めた。
「――風花、おっそいなぁー……」
いつもの待ち合わせ場所。だけれど、時間になっても風花が現れない。もちろん風花が何かの理由で遅れていることも考えて、体感で5分くらいは待っているけれど、それでも来なかった。いくらなんでも遅いし、もうこのままでは遅刻ギリギリの時間になってしまう。特に携帯にも連絡は入っていないけど、もしかしたらもう風花は先に行っているのかもしれない。私はそう考え、1人で学校へ向かうことにした。教室に行けば、休みでもない限りは確実に会えるはず。むしろ最初からそうすればよかった。朝会までの時間や、休み時間――話を聞ける時間はいくらでもあるのだから。私は自分の選択に少し後悔しつつも、遅刻確定がそこまで迫っている状況なので走って学校へと向かった。
・
・
・
・
・
なんとか遅刻は
「みんな席に着けー朝会始めるぞー」
それから数分で先生がいつものように気だるそうにしながら教室へと入って来て、教壇へと立った。そして出欠を取り始める。これで風花の出欠もわかるし、もしいじめで席がなくなっているなら先生も流石にそのことに言及するだろう。
「――よし、今日は欠席は0だな」
そんな淡い希望を抱いていた私がバカだった。無残にも先生までもがそんなことを言ってしまう。まさか先生もいじめに加担しているのかと疑ってしまうほど、私は今のこの現実に戸惑っていた。だってまるで風花が最初から『存在していない』みたいに扱われているのだから。でもいつもどこか気だるそうだけど、芯はちゃんと真面目でキッチリとしている先生が生徒にいじめをするなんてありえないし、そんなこと思いたくもない。じゃあ、そうだとするならば……もしかして風花は――
その先は考えたくもなかった。もしそうだとしたのなら、私の記憶の中の『風花』という存在は一体何だったのかということになる。だって風花との思い出は山のようにある。夏休みに海に行ったり、夏祭りに行ったり、冬には初詣や温泉へ行ったり、他にもお泊りしたり――と数々の楽しかった思い出があるのだ。じゃあ、それは無かったことになってしまうの。そんなことあってほしくない。私はそんな考えを必死に否定し、それが間違っているということを証明するために友達に、この全ての疑いを消し去るための1つの質問をする。
「ねえ、ふーかってどうしたの?」
心の中は恐怖でいっぱいだった。だってこの先、返ってくる答え次第では私は絶望させられるんだから。でも立ち止まっていたってしょうがない。私の大切な風花を、見つけ出さなきゃ。だけれど、そんな私の思いとは裏腹にどんとんと怪訝そうな顔になっていき、
「ふうか……? 誰それ?」
そんな一番聞きたくなかった答えが返ってきてしまった。私はもう絶望が一気に押し寄せて、倒れてしまいそうになっていた。頭がどうにかなってしまいそうだ。みんなと私の情報があまりにも一致しなさすぎる。まるで浦島太郎にでもなった気分だった。さらに詳しく調べていくと、風花だけに限らずクラスの人数も風花を除いても私の記憶とは合っていなかった。そしているはずの人がいなかったり、別のクラスの人がいたりと所々違いが見られるようだ。そして何より困ったのは、さっきの質問した私の『友達となっている人』も名前が記憶中の『
「篠崎……風花? いや……知らないな……」
そんなちっぽけな希望は跡も残らないぐらいに粉々に砕かれて、散っていった。でもそれが完全なる真実だと知った今でも、私はその事実を信じる気がまるで起きなかった。むしろこれは悪い夢か何かなんじゃないかと思えてきた。あまりにも今の現状が非現実的すぎる。昨日まで一緒にいた風花が突然存在そのものが消えるなんてこと、まずありないだろう。全員の記憶まで
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます