58 お願い。……お願いだから、私に嘘をつかないで。

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 お願い。……お願いだから、私に嘘をつかないで。


「おはよう、遥」

 目を覚ますと夏は元気を取り戻していた。

 にっこりと笑い、夏は遥に目覚めの挨拶をした。

 その笑顔は強がっているようにも、無理をしているようにも見えない。頬には涙のあともない。いつも通りの、遥の見慣れた瀬戸夏の笑顔だった。

 元気になった夏はシャワーを浴びて、下着を新しいものに変えて、服は白いワンピースそのままで、とても軽い足取りで遥の部屋まで移動した。

「なにかいい夢でも見たの?」

 元気にご飯を食べる夏を見て、遥が言った。

「別に」

 夏はそっけない返事をする。

「ふふ」

「なによ?」夏が言う。

「夏はさ」

「うん」

「本当、よく泣くよね」遥が言う。

 すると、さっきまでずっと動きっぱなしだった夏の手がぴたっと止まった。

「昨日もずっと泣いてたもんね」いたずらっぽく遥は笑う。

「泣いてないし」夏が言う。

 夏は再び手を動かして遥の用意したご飯を食べ始めた。遥は笑顔のまま、そんな夏の姿を見つめていた。

「ちょっと、目の中に変なものが入っただけだし」夏が言う。

 変なもの呼ばわりされて雛の頬がぷっくりと膨れる。

 そんな顔を夏は想像した。

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