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 部屋に戻ると、椅子の上で丸くなって夏が一人で泣いていた。

 相変わらずの情緒不安定っぷりだ。

 夏は突然、理由もなく泣いてしまうことが度々あった。

 そんな夏を慰めるのは、いつも、夏のすぐそばにいた遥の役目だった。

 遥はなにも言わずそっと夏を抱きしめた。小さく震える夏の体を抱きしめて、優しく頭を撫でてあげた。その間、夏はなにも言わない。ただ、声を出さないようにして、小さくなって、泣いているだけだ。

 遥は夏の背中をそっと撫でた。

 しばらくの間そうしていると夏の震えが自然と止まった。でも、夏はまだ顔を伏せたままで、椅子の上を動こうとはしなかった。

 仕方ないので、遥はキッチンに移動して本来の予定であるご飯の用意をすることにした。そのことを夏に告げても、夏はうなずくことも、顔を振ることもせず、なにも反応を示さなかった。そんな夏を見て、まるで照子みたいだな、と遥は思った。

 遥はキッチンでご飯の支度をした。

 献立はハンバーグと温野菜炒め。コーンスープ。それに丸いパンが二つ。それと飲み物はコーヒーだった。

 全体的に量は控えめにした。

 そのすべての食材が冷凍された食材だったけど、まあ、一時期に比べれば、これでもかなりましになったと言えるだろう。いつまでも栄養剤と栄養ドリンクだけでは、つまらない。

 遥はそれらの料理をテーブルの上に運んだ。

 そしてすべての準備が終わると、エプロンをとって、それから夏の丸まっている椅子とテーブルを挟んで反対側にある椅子に腰を下ろした。

「夏、ご飯だよ」遥が言った。

「……うん」と夏が言った。

 夏の声を聞いて、遥が笑った。

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