夏(旧)
雨世界
1 ……誰か。私を助けて。
夏
本編
SOS
1
……誰か。私を助けて。
ドームの中は、とても透明な風が吹いていた。
地平線の果てまで続く広大な緑色の大地の先には白い大きな風車がいくつか連なって回っている。そこから吹いてくる風に色はなく、まるで死んでいるかのように空虚だった。
それは生命が完全に遮断された汚れのない美しい世界の風景だった。人の意思で浄化された世界。人は世界を一度殺してその上にもう一つの世界を創造した。
それが今、夏のたっている場所だった。
たとえばもし、この瞬間に灰色の空から突然の雨が降り出したとしても、その雨粒は夏のところまでは落ちてこない。目には見えないくらいの透明度を誇るガラスの天井によって、それらはすべて遮られてしまうからだ。
夏にはそのことが少し寂しく思えた。この世界が外部のあらゆるものを拒絶しているように思えたからだ。
でも、そういう感情を抜きにして考えれば、……まあ、悪くはないところかな、とは思う。
もともと遥は周囲の環境なんてまるで気にしたりはしないのだ。自然にも人間にも興味がない。あるのは自分の仕事だけ。木戸遥とはそんな性格の冷たい人だった。だから人類の一人である夏にも、当然のように遥はちっとも興味を抱いてくれない。それが夏にはひどく不満だった。
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