SF創作講座 2019 梗概集

天王丸景虎

第1回梗概 Happy Future Generation


アルファビット社の巨大演算構造体によって人類は、仕事も、未来も、生きる意義のすべてを失った。人類に残されたのは最も幸福な仮想人生――生成現実GRを選ぶこと。これはそんな未来で一生を費やすべき本番の人生を選びかねている二人の少女モラトリアの物語。


◆◆


ある授賞式の会場にて、伊東ユエはスポットライトを浴びている。いくら称賛されようと、浮かない顔の彼女。しばらくすると、目の前に【幸福指数が基準値に足りません】というアラートが表示され、シミュレーションが強制終了される。


伊東ユエは目覚める。生成現実Generated Realityポッドから出ると、目の前に一人のAIが現れる。

『ZETTADOS(以下ZDOS)』はまだ本番の人生を決めていないモラトリアたちを管理しているAIだ。ZDOSはユエに対して「あまりにも幸福スコアが低い」「こんなことではドーナッツはあげられない」と警告する。ユエはそこのメンバー中で最下位だった。


ユエはあらゆるGRに対して幸福指数が低くなってしまうGR適応障害だった。彼女が唯一心を落ち着けることができるのは、古いVR記録を見ている時だけ。その映像は、とある少女の葬式を親友の一人称から見るという映像だった。ぺたざんまいという非合法サイトで手に入れたものだったが、捨てられずにいた。


ある日ユエは映像の少女に似ている数堂キリエに出会う。キリエはどんなGRにも高い幸福スコアをたたき出す天才だったが、すべて高いが故に一つの人生に決めかねていた。ユエが遠巻きに眺めていると、キリエは「その服可愛い。ミレニアムブルー?」などと話しかけてくる。ユエはAIが選んだ服なので戸惑うも、それを機に仲良くなる。


しばらくしてキリエはユエの非合法な行為を知る。その動揺からGRでの幸福スコアが低くなりZDOSに怪しまれる。ユエは非合法行為がバレ、演算処理施設からの追放処分となる。ユエの元に訪れたキリエは自分の人生が決まったとAIに告げ、ユエと共に追放されることを望む。


演算処理施設から追い出された二人は、しばらく旅を続けるものの、キリエが病気になってしまう。次第に食料もつき、キリエは最後に「ユエちゃんとずっと一緒にいられる人生でよかった」などと言い残し死ぬ。

ユエは酷く悲しみ、かつての映像のお葬式が単なる子供だましだったと思い知る。

いくら慟哭すれど【幸福指数が基準値に足りません】というアラートはない。


世界が暗転し【演算終了】の文字。


一つの演算が終わり、結果をZDOSがマザーAIに報告する。すべては「幸福指向性の全か無かキリエ・ユエ問題」解決の為の演算ログだった。ZDOSは「ベストスコアだ」と誇るも、マザーAIに「ベストスコアだが、倫理規定に違則しすぎ」「こんなことではドーナッツはあげられない」と言われてしまう。

別のAIが、『キリエ・ユエ問題』に挑むため、新たな演算を始める。

伊東ユエは目覚める。




# 内容に関するアピール

ハローヒューマン。幸福は義務です。(100年後の一般的な挨拶)


今回のお題によって、自分の頭の中には「未来なんてない」と「幸せな未来が来て欲しい」という相反する思考が生じました。

どちらにするか悩んだ結果「未来はないけれど幸せな未来がくる」という100年後の世界を描くことにしました。


近年「AIによってなくなる仕事」などという言説をよく耳にしますが、実際に圧倒的な演算力が存在した場合、仕事がなくなる程度で済むでしょうか?

ゼタバイトの怪物が跋扈する未来では、人類の発明、人生、選ばなかったすべての可能性――この世のすべてが演算し尽くされ、過去や未来の持つすべての『意義』が完全に喪失してしまいます。


人類は│敵対的超生成ネットワーク《uGAN》によって生じるGRの中から、最も幸せな人生を選ぶくらいしか――ニートのように何の生産性もなく幸福をむさぼるくらいしか、やることがないのです。

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