第2話 幻種というものと普通でないもの3

「まずこれだけは先に言おう。幻想の生き物は存在する」

 亜人族や妖精族、妖怪族など様々に分かれているそれらをまとめて幻種と呼ぶ。

 幻想の種族であるから幻種。わかりやすい。

「そしてそれらを観察し保護、状況によっては対処を行なうのが魔術協会だ」

 協会は本部のあるヨーロッパをはじめ世界中に存在し、国や地域ごとによって魔術の系統が異なっていることが多い。もちろん日本も同じことが言えて、国としての支部は出雲に存在し各都道府県に細かく配置されている。

「月原組は表立っては極道組織だが、魔術協会の支部の面も兼ねていてね。正式名称は『魔術協会極東支部関東方面所属月原組局』となる」

 長い。長過ぎる。

「大小の差こそあれ幻種たちの起こすトラブルや事件を総じて幻種事件と言うのだが……。浩君、君は『獣爪連続殺人事件』を聞いたことがあるかい?」

 うなずく。それが今日学校が休校になった原因であるし、月原の家に行く理由にもなった。

(……もしかして)

「今回の事件は、幻種が起こした事件。そういうことですか?」

 沢村の疑問に雄介は頷き。

「幻種事件は本来は表沙汰にすべきではない事件だ。今回はいろいろと悪い条件が重なってしまい全国区のニュースになってしまったがね」

 幻想の生き物は見えないし存在しない。ちょっとした話しでされることがあっても大概は『そうであったら面白い』からであって本当に信じている人間など少ない。

「『獣爪連続殺人事件』は獣の亜人族、獣人族の誰かが引き起こした事件だ。そこまでは分かっていたのだが……」

 ふぅとため息をひとつ。

「誰が引き起こしたのか、なぜ凶行に走ったのかがわからないまま今日を迎えてしまったのだよ」


 そこまでの説明を聞き、沢村はようやく理解した。つまり、自分は。

「……昨日殺されたかもしれなかった一般人、というわけですか」

 好奇心や自分なりの誠意で自分の命が消えたかもしれない。

 自分で言った言葉に、寒気を感じた。

「……だが君は死ななかった。昨日、見るはずのないあり得ないものを見てすぐさま逃げ帰った」

 雄介の言葉にはっとした。あの時、自分が見たもの。それは。

「なにを見たか、話してくれるね?」

 うなずき。口にしようとした瞬間、ドアが開いた。

 振り返ると沢村の見知った月原組の男性が慌てた様子もなく入ってきた。

「……話し中だ」

 雄介の冷淡な口調にぞくりとした沢村だが、言われた構成員は落ち着いたままで。

「緊急のため、割り込ませてもらいました」

「要件は」

「敷地内に侵入者一名、服装から月原高校の生徒と思われましたが獣化したため幻種と判断し捕縛。現在拘束中です」

 おもわず賢人を見る沢村。賢人もまた察しがついたようでうなずく。

「と……局長、電話で話していた乾鉄浪だ。やっぱり幻種だったんだ」

「だろうな。……連絡は以上か」

 雄介の確認に構成員は「もう一つ」と付け加える。




「侵入者は未登録の極東人狼種でした」

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