幻種というものと普通でないもの
第2話 幻種というものと普通でないもの
月原組。
月原市を拠点に置く極道組織。いわゆるヤクザである。
ヤクザではあるが、麻薬など違法なものを取り扱っていない珍しい組だと父から聞いたことを思い出す沢村。だから市原と友達付き合いしてもいいとも言われていた。
市原賢人は本当は月原賢人(つきはら・けんと)と言い、市原は母親の旧姓であった。
母親の旧姓を使っている理由はたしか、月原の名前だと有名過ぎて誘拐されたりする可能性を考慮した結果だと本人から聞いた。ほとんど意味はないけれどねと市原は笑っていた。
市原――月原の家に上がり奥へと通される沢村。
事務所なのだろう通されたそこは革張りのソファに高そうな机。なぜか飾られている木彫りの熊に模造品だと思いたい日本刀。いかにもヤクザですと言った風体のそこに家族で撮ったのだろう写真が入ったシンプルな写真立てが場違いに置かれている。
ソファに座る沢村は横に立つ月原を見る。
月原の顔はあまり見たことがない真面目な顔で父親へと視線を向けている。
その父親であり月原組の現組長である月原雄介は椅子に腰かけ机に両肘を立てて寄りかかり、顎の下に両手を持っていき「……さて」と声を上げた。
「こうして会うのはいつぶりだったかな」
なんだかアニメとかでよく見るポーズだなと思っていた沢村は慌てて答える。
「えっと……今年のお正月に会ったので半年くらい、です」
沢村の答えに彼は「そうか、半年足らずか」と返し。
「いや、すまない年を取ると時間があっという間でね」
雄介の苦笑にどう返せばいいのかわからなくなり、沢村は尋ねる。
「……あの。おじさんは、何か知っているんですか」
「息子からはなにも聞いていないのか?」
「家に来てから話すと言われたので……」
沢村の返答に賢人がうなずく。その息子の様子を見た雄介は視線を沢村に戻し。
「わかった。だがその前に一つだけ先にこちらから聞かなければならないことがある」
「……なんですか?」
姿勢を変えた雄介は沢村に尋ねる。
雄介の質問はここで聞くにはあまりにも場違いで沢村はすぐに理解することができなかった。
ヤクザの組長が言う台詞ではないはずだし、言ったとしてそれは何か別のものを指す言葉ではないかと勘ぐってしまった。
だが、違った。本当に、そのままの意味で尋ねてきた。
「君は、幻想の存在、亜人や妖精、妖怪の類を信じているかい?」
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