第1話 現実なんてこんなもの3
「昨日会った不良は、僕より少し背が高くて髪の色は明るい茶色」
髪全体は無造作に伸ばしているように見えて、後ろで一つにしばっていた。
「ポニーテールってやつ?」
「いや、そこまで長くなくて」
自分のうなじにこぶしを当ててだいたいの長さを示す。
「これくらいの長さ」
ふーんと相づちをうつ市原を見て続けて他の特徴も思い出す。
「他の特徴は……あ、目つきが鋭かった。なんというか動物の目つきっていうかなにか人じゃないっていうか」
「他は?」
他と言われても。
「たばこ臭かったりはしなかったん?」
たばこの臭いはしなかったが、そういえば。
「……動物の匂い」
「におい?」
市原の疑問に手を口に当てながら思い出す沢村。
「うん、犬や猫の匂い。そういう匂いがした」
「匂いねぇ……」
ふーむと思案し始める市原を見て、もう一つ言わなかったことを思い出す。
動物の匂いがした理由。それは昨日肩についていた動物(だと思う)の毛だった。それと同時に触れたときの静電気も思い出すが、不良と静電気を結びつけるにはさすがに無理がある。
「動物の匂いねぇ……あいつ、そういう趣味があるのかな……?」
「あいつって?」
市原のひとり言に近い発言に思わずたずねる。心当たりがあるのだろうか。
「沢村が昨日会ったっていう不良、たぶん乾鉄浪だよ」
「乾鉄浪?」
市原が言うには、昨日会った不良の名前は乾鉄浪(いぬい・てつろう)。区内では有名な不良の一人らしい。
基本的に誰ともつるまず、他の不良グループから勧誘や襲撃をされることが多いらしくそれを拒否・撃退をしてなお無傷でいるらしい。
また不良にありがちな異名があるらしく、金属バットで殴りかかってもふらつくばかりかそのバットを曲げるほどの頑強さで一匹狼のテツとも呼ばれているらしい。
「ちなみにうちの学校の生徒だよ」
市原の余計な一言であからさまに嫌な顔をしてみせる沢村。沢村達が通うこの高校、私立月原高校にも数は多くはない(と市原が教えてくれた)が不良がいる。まさか校内でばったりなんてことはないだろうが気をつけなければ。
「この時間だとまだ屋上にいるんじゃないかな?」
「この時間って、もうすぐホームルームだけど……」
「あまり出席してないみたいだよ?してるとしたら出席日数が足りないか、気分がいいときじゃないかな?」
市原の返しに思わずあきれる。そうまでしてるのならいっそ学校に来なければいいのに。
そんな沢村の苦言に市原は「向こうにも何か理由があるんでしょうよ」と軽く言い自分の席へと戻っていった。
チャイムが鳴り、担任の先生が着てホームルームが始まる。
登校して、授業を受けて、市原と雑談して、学校が終わったら空手に通うか家に帰る。
それが沢村の日常で、沢村にとっての普通で、現実だった。
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